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輸送中の磁気・衝撃影響で機器不良になるリスクのロガー証跡運用

目次
はじめに:製造業の現場で求められる「見える化」とは
製造業に従事していると、完成品が工場の門を出た後の「見える化」がいかに重要なのかを痛感する場面が数多くあります。
とくに精密機器や電子部品、自動車部品、医療機器のような高度な品質が要求されるモノでは、輸送中の衝撃や磁気の影響で予期せぬ不良や故障が発生するリスクがつきまといます。
これは「現場で良品を作る」だけでは避けきれない重大な品質リスクです。
では、そのリスクをどうやって明らかにし、管理し、不良発生を防止するのか。
そうした課題に応えるのが、輸送中ロガー(データロガー)を活用した証跡の「見える化」運用です。
本記事では、いまだに昭和的なアナログ文化が根強く残る製造業界において、ロガー証跡運用をどう根付かせ、現場の品質管理力を向上させていくのか。
調達購買、生産管理、品質管理、工場経営など多様な立ち場を経験した筆者が、現場目線かつ最新動向も踏まえて実践的に解説していきます。
なぜ輸送中の磁気・衝撃管理が必要なのか
製造現場で見落とされがちな盲点
工場内での厳格な品質管理を突破し、合格判定を得ても、市場やお客様に届くまでの間に不良が顕在化するケースがあります。
その多くは「発送した製品に輸送中の衝撃や磁気影響が加わった」ことが原因ですが、日本の製造現場では出荷以降のリスク管理が手薄になりがちです。
その理由は、「工場を出てからは運送会社の責任」という意識が根強いからです。
そして、伝票と運送履歴だけでは本当のリスクは「見えません」。
ロガー証跡運用が解決する品質クレームの根本要因
ある日、取引先から「製品が壊れていた」「精度がいつもと違う」というクレームが届く。
その時、多くの現場は「製造過程に問題があったのでは?」と疑われ、再発防止策や社内調査に膨大な時間を割かれます。
ですが、調査の結果「工場では異常なし。輸送ルートに問題が…」ということも少なくありません。
このような時、輸送中の温度・湿度・衝撃・磁気などの環境を客観的に記録できるロガー証跡が有効な証拠となり、原因究明や迅速なクレーム対応につながるのです。
ロガー証跡運用の基礎知識
ロガーとは何か
ロガーとは、温度・湿度・衝撃・磁界強度など、さまざまな環境データをリアルタイムで計測し、記録する小型機器です。
最近ではNFC(近距離無線通信)やBluetoothを活用し、モバイル端末やクラウドサーバーにデータを自動転送できる製品も増えています。
電源ONからOFFまでの間に「いつ」「どこで」「どの程度」の衝撃・磁気・温湿度変化があったかを時系列で残せることが強みです。
何を管理すべきか:目的に応じたパラメータの選定
例えば、電子基板の輸送であればEMC(電磁環境)の影響を把握するため「磁界強度」、精密機械ならMMA(加速度センサ)による「衝撃値」の計測が不可欠です。
また、医療機器では「温度管理」や「振動」記録も重要になります。
製品ごと、輸送ルートごとに記録べきパラメータをしっかり選定することが、運用の成否を分けます。
設置場所とデータ取得のタイミング
輸送中の全工程でデータを取得するポイントは次のとおりです。
– 工場出荷直後
– 倉庫・集配所での積み下ろし時
– 輸送中(特に振動・衝撃が大きい場面)
– 顧客倉庫や工場で荷降ろし直後
現場の運用負荷とデータ有効性を天秤にかけ、最も効果的な設置・回収方法を設計しましょう。
なぜ「昭和的」な現場ほどロガー運用が根付かないのか
「ウチは大丈夫」の根拠なき自信
長年の経験を重視する昭和的現場ほど、「過去に大きな事故がなかったから、ロガーなんて不要」と感じがちです。
しかし、サプライチェーンの巨大化・複雑化に伴い、「見えないリスク」は増大しています。
しかも最近の製品は「高機能・高密度」が進み、わずかな外部要因で壊れやすくなっています。
現場負担とコスト意識が運用導入の壁に
もう一つ大きな障壁は「誰がロガーを付け、回収し、データを解析するか」という現場の負担です。
また、ロガー自体の導入コストや回収失敗による追加コストを敬遠し、「今まで通りで十分」と判断する現場責任者も少なくありません。
顧客(バイヤー)・サプライヤー間の立場の違い
バイヤーは「品質保証」を厳しく求めますが、サプライヤーは「コストと工数」を最小限に抑えたい。
この利害対立がロガー証跡運用普及の足かせとなっています。
ですが、サプライヤー側が「ロガー証跡」活用のメリットを理解すれば、クレームリスクの削減、異常時の早期原因特定など、長い目で現場力強化につながると認識できるはずです。
実践例:ロガー証跡運用による現場の変革
導入のキッカケ:衝撃クレームの頻発
ある電子部品メーカーでは、海外輸送時の「通電不良クレーム」が頻発。
現場での検査記録では異常なし。
原因特定に苦しむ中で、主要顧客から「輸送環境の証跡提出」を要求されました。
そこから「加速度センサ付きロガー」を梱包箱ごとに設置。
その結果、第三国ハブ港での積み替え作業中に、想定外の衝撃(荷落し)が連発していた事実が判明しました。
証跡提示で責任分界&再発防止に成功
詳細なロガーデータで「どの区間で、どのレベルの衝撃・磁気暴露があったか」「製造・輸送・顧客到着まで問題なかったか」を証明できるようになりました。
この可視化のおかげで:
– 正当な責任範囲の明確化
– 輸送キャリアと対応策の見直し(台車改良/積み替え順路変更)
– 顧客との信頼を継続できる説明責任の果たし
など、現場レベルではコスト以上の効果が生まれました。
さらに進化するロガー:IoTとAI解析の時代へ
最近はIoT対応ロガーで、遠隔地の輸送環境もリアルタイムに把握可能。
AIを活用したデータ自動解析により、異常検知やトレンド予測も現実的になってきました。
昭和の「カン・コツ」から脱却し、現場がデータドリブンに動ける土壌が育ちつつあります。
ロガー証跡運用を定着させるためのポイント
1. 上流(バイヤー)と下流(サプライヤー)の「合意形成」
一方的にロガー運用を押し付けず、バイヤーとサプライヤーがWin-Winの関係を築くことが不可欠です。
品質保証の観点だけでなく、生産計画(納期・歩留まり)、輸送コスト削減、トレーサビリティ向上という全体最適の視点で共通利益を明確にしましょう。
2. 無理のない現場フローの設計
「作業が煩雑 or 担当不明」で挫折しがちなロガー運用。
現場が無理なく実行できるよう、ロガーの配布・設置・回収を「誰が・どこで・いつ・どのように」管理するのか、SOP(標準作業手順書)に落とし込むことが重要です。
3. データ活用教育とPDCAサイクルの回転
ロガーから得られるデータは「宝の山」です。
解析方法や活かし方を現場教育し、輸送経路改善や梱包資材見直しにつなげるPDCAサイクルを回します。
これにより、担当者が「やらされ感」から「やる意味がわかる」運用へと意識改革が進みます。
今後の展望と製造業の新たな競争力
製造業の現場でのロガー証跡運用は、単なる不良クレーム対策に留まらず、「データを起点とした新たな競争力創出」の源泉となります。
より精密な輸送管理は、サプライチェーン全体の強靭化、顧客満足度の向上、ひいては製品ブランド価値の向上へとつながります。
昭和的アナログ現場の風土を乗り越え、「見える化」「トレーサビリティ」の思想を現場に根付かせていくことが、今後の製造業発展のカギとなります。
まとめ:ロガー証跡運用で「現場力」に真の進化を
製造業現場において、輸送中の磁気・衝撃対策は避けて通れない新たな戦いです。
ロガー証跡運用は現場にとって負担増と感じるかもしれません。
しかし、それは一時的なもので、データを活かす力を身につければ、「作って終わり」から「本当の顧客起点の現場」へと変化します。
これからバイヤーを目指す方も、サプライヤーとして競争力を磨きたい方も、ぜひ「ロガー証跡運用」という新たな武器を現場力強化に活かしてください。
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