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優先原産地規則PSRの構成変更と関税分類変更基準をBOMで判定するロジック設計

目次
はじめに:原産地規則PSRと関税分類変更の重要性
近年、サプライチェーンのグローバル化や経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の締結が加速しています。
それに伴い、製造業においては原産地規則(PSR:Product Specific Rules)の理解がますます重要になっています。
とりわけ、部品・材料の調達が多国間に及ぶ場合、完成品の関税区分がどのような基準で変わるのか、またその判定にBOM(Bill Of Materials=部品表)を活用したロジック設計が求められる場面が増えています。
本記事では、PSRの構成変更や関税分類変更基準の具体的な判定プロセス、さらにBOMを活用する実践的なロジック設計について、現場目線で詳しく解説します。
また、昭和時代から根強く残るアナログ業界の現状や最新の業界動向も踏まえ、これからの製造業に必要な知見を深堀りします。
原産地規則PSRとは何か:グローバル調達時代の基礎知識
PSR(品目別原産地規則)の概要
PSRは「Product Specific Rules」の略称で、品目ごとに定められた原産地判定のルールです。
FTAやEPAの特恵関税を享受するためには、その製品が原産品として認められる必要があり、PSRはその基準となっています。
PSRの主なタイプは、
- 関税分類変更基準(CTC)
- 付加価値基準(VA:Value Added)
- 特定工程基準
の三つが柱です。
本記事では、特に「関税分類変更基準(CTC)」とBOMをリンクさせた判定ロジックに焦点を当てます。
関税分類変更基準(CTC)の本質
関税分類変更基準では、「完成品」のHSコードが、投入された原材料のHSコードから一定のレベル(第X類、第X項、第X目など)で違う場合、原産地として認められるという考え方です。
つまり、「ある工程を経て、十分な変化=substantial transformation」があったかをHSコードの変化で定量的に判定します。
なぜ製造現場にPSRが不可欠なのか
従来は、原材料さえ輸入していれば多くの製品が自動的に非関税品または高い優遇税率で流通できた時代もありました。
しかしFTA/EPAでは「適用するためには原産地規則をクリアしなければならない」というハードルが明確化されました。
そこには「ルールの理解力」と「現場でのデータ管理・証明力」が強く求められています。
したがって、調達担当者、生産管理担当者のみならず、製造現場のオペレーションを理解している工場長や部長クラスにも、正確なPSR運用が求められているのです。
関税分類変更基準(CTC)の正しい理解
HSコードとは:グローバル共通の“モノの言語”
HSコード(Harmonized System)は、国際貿易で流通するあらゆるモノに付与された統一分類コードです。
例えばHS1001、HS8536のように6桁で管理されており、国によっては更に詳細な桁(7~9桁)を加えて運用されます。
このコードのどのレベル(類、項、目など)で変わるかにより「変化の有無」を判定します。
CTCルールの運用例
たとえば、電気部品の輸入→加工組立→産業用制御装置として輸出する場合、
- 投入材料:HS8536(電気回路用の機器)
- 完成品:HS8537(制御盤など)
このとき、「第85類」内で「別の項」に分類変更が生じているかがCTC判定のポイントです。
EPAの原産地ルールで「CTH(Change in Tariff Heading=4桁レベルの変更)」が求められていれば、
8536(材料)→8537(完成品)は4桁が異なるため、原産品と認定されます。
判定でつまずきやすいグレーゾーン
実際の現場では、
- 同一材を多数の国で混載調達している
- 完成品組み立て工程が多層下請けで分断されている
- BOMの更新が遅れがち
といった要素もからみ、判定が複雑になることが多々あります。
また「一部品だけHS変更がなかった」「複数種の材料が投入された」場合の判定の可否や除外ルール、サブアセンブリ(部分組立)単位の管理難しさも実務の大きな課題です。
BOMを用いたCTC判定ロジック設計の勘所
BOM(部品表)を活用したデータ管理の重要性
BOMは、製造現場を支える最重要マスタです。
全使用部材・部品の情報(部品番号、仕様、数量、調達国、HSコードなど)が一覧化されています。
この最新BOMを活用して、完成品のHSコードと、それを構成する全サプライヤー部位のHSコードを突き合わせる――
これこそがCTC判定ロジック設計の根本です。
BOMベースのCTC判定フロー例
1. 完成品のHSコード(基準となる分類レベル)を特定します。
2. BOMに記載された全部品・部材について、最新のHSコード・原産国情報をリスト化します。
3. EPA規則に準じて「材料のHSコード」と「完成品のHSコード」を比較し、4桁・6桁など規定のレベルで分類違い(classification shift)があるかを判定します。
4. 要件を満たせば「原産性有り」、満たせない場合は「原産性無し」となります。
実務で求められるロジックの工夫
・途中でBOM変更があったとき(設計変更、仕様変更など)
・同一品番でも供給ソースが複数(ロットで原産地が異なる)場合
・サブアセンブリ間の情報連携(多階層BOM)
こうした状況では
– 各工程ごとのスナップショット管理
– ロット/シリアルごとの部材原産地管理
– サブBOMとの自動連携
などの工夫が現場のBOMシステム、ERPマスタで必須になります。
実践:アナログ業界でのBOM-PSR運用の”壁”と乗り越える方法
昭和型アナログ業界の「属人化・紙文化」
多くの中堅~老舗メーカーでは、いまだに
・BOMデータの一元管理がされていない
・紙ベースの部品リスト、手書き修正
・担当者しか分からない「経験則運用」
がはびこっています。
この状態では、PSR判定のたびに各担当者が過去帳・Excel・紙台帳から情報を“発掘”するという非効率が続きます。
また、設計変更情報が末端現場に即時連携されず、「間違ったBOMでPSR判定をしてしまう」事故も珍しくありません。
デジタル化がもたらす飛躍的な効率化
そこで、現場主導でBOM~HS~原産国情報を紐付けたデジタル管理の重要性が高まっています。
今やBOMマスタとEPA/FAT原産地判定モジュールをクラウドで統合し、HSコード・原産地情報の自動取込・自動突合せ・過去判定履歴の保存が可能です。
これにより
– 判定作業の属人化が解消
– 監査・税関対応も迅速化
– サプライヤーからの照会への即時応答
など、生産現場と調達・貿易部門の横断的な業務改革が生まれています。
最新動向:AI・RPAがもたらす判定ロジックの自動化
AIによるHSコード推定と原産地判定の自動化
最近では、BOMに入力された材質・形状・仕様情報からAIがふさわしいHSコードを自動推論し、PSR判定ロジックまで自動設計できるソリューションが台頭しています。
また、蓄積された過去の判定事例(ビッグデータ)を参照し、材料の組合せパターンごとに関税分類変更の有無を即座に提案。
この“現場知”と“IT知”の融合で、法規制変更への俊敏な追従も可能となっています。
RPAによる帳票作成・証憑取りまとめの省力化
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で、繰り返し作業である「原産地証明申請」「税関提出資料の作成」「BOMと原産地データの照合、記録」も大半が自動化できます。
これにより、人手不足の現場でも安定した業務品質・スピードをキープすることができるのです。
読者への提言:本質を押さえて新たな価値創造を
製造業の現場は、今“昭和と令和”が同居する時代を迎えています。
どれだけITツールが発達しても「BOMを管理しきる現場力」「どの工程がサブスタンシャルでどうCTCに影響するかを見抜く知恵」は人間にしかできません。
調達・購買担当、生産管理、バイヤーを志す皆様には、
– 時に現場に入り、実際に“流れ”を感じてBOM運用を見直す
– サプライヤーや自社エンジニアと横断的な対話を重ねる
– 案件ごとにPSR・CTC運用のコツを社内で議論・共有する習慣をつける
といった「ラテラルな視点」を持ってほしいと強く願います。
PSR/CTC/BOMは単なる規則やシステムではありません。
現場で培った知恵と、変化に強い論理思考――その融合こそが“新しい地平線”を切り拓きます。
まとめ:現場から生まれるPSR運用の本質
優先原産地規則PSRの構成変更・関税分類変更基準は、グローバル製造における競争力そのものです。
BOMを基にした判定ロジック設計は、システムと現場知が融合したものへと進化しています。
変化を恐れず、自ら考え、他者とつながり、現場経験と論理力で新しい価値創造を――。
製造業の最前線で働く皆様が、これからの時代のキープレイヤーとなることを心より願っています。
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