- お役立ち記事
- 輸送便の削減で逆にコストが増える物流のパラドックス
輸送便の削減で逆にコストが増える物流のパラドックス

目次
はじめに ― 増える物流コストの罠
製造業に携わる方であれば、一度は「輸送便の削減によるコストダウン」を目論んだ経験があるのではないでしょうか。
多くの企業で当たり前に語られるこの施策ですが、実は思い込みと現場事情が絡み合い、逆にコストを増やしてしまう“物流のパラドックス”が起きることがあります。
この記事では大手メーカーでの現場経験をふまえ、なぜこうしたパラドックスが生じるのか、その本当の理由と、抜け出すための実践的な解決策について深堀りします。
特に、バイヤー志望者やサプライヤーの方、現場で活躍する製造業関係者にとって、見逃せない視点を盛り込みました。
輸送便削減=コストダウン、という常識の落とし穴
輸送便を減らせば、その分だけ運賃コストが削減される。
まるで絶対的な真理のように語られがちですが、実はこの論理には大きな落とし穴があります。
それは「コストダウン」という現象が、運賃以外のコストや業務負担、最終的な価値提供にも密接に関わっているからです。
「1回にまとめて運べば安上がり」その先にあるリスク
昭和からのアナログな物流現場では、しばしば「出荷をまとめて大口化=コストダウン」という方程式が信仰されています。
確かに運送会社の見積条件にも「小口より大口・混載よりチャーター」の方が単価が下がる傾向はあります。
しかし、何でも「まとめれば良い」という発想で輸送便数の削減を進めてしまうと、以下のような問題が一気に噴出します。
・倉庫の在庫増大=保管料や管理工数の増加
・納期遅延や現場混乱=突発納品や段取り替えの頻発
・サプライチェーン全体のフロー悪化=必要な時に必要な物が揃わない
・サプライヤーや取引先との信頼関係悪化=過度な便数削減の押し付け
このような副作用のコストが、単純な運賃削減分をあっという間に上回ってしまうケースは決して少なくありません。
なぜ物流パラドックスが発生するのか ― 現場事情をひも解く
では、なぜこうしたパラドックスが現場で繰り返されてしまうのでしょうか。
ここには、調達購買や生産管理、物流部門それぞれの“事情”が作り出す、根深い構造要因が存在します。
省エネ志向が“見かけのコスト”に偏る背景
工場経営や調達購買のKPIでは「見やすい数字」の改善が求められがちです。
「年間輸送便数×運賃単価」という分かりやすい成果指標が一人歩きすると、他部門の困りごとや現場で発生する“見えないコスト”が度外視されやすくなります。
例えば、多頻度小口納品による荷捌き作業の増加や、在庫過多によるリスクコスト、急な段取り変更による作業者の残業発生などは、帳票や経営資料には現れにくい“隠れたコスト”です。
しかし、これらは現場の生産性や従業員満足度、最終的な製品品質や顧客満足度に大きく影響してきます。
アナログ業界特有のブラックボックス―「なあなあ」の運用が招く混乱
昭和から続くアナログな商習慣も、物流パラドックスの温床となります。
例えば、現場の判断で「便数は減らしたが、納品は現場調整」などと曖昧なルールが幅を利かせている場合です。
管理職の経験上、こうした「表向きだけのKPI達成」が横行すると、担当者レベルで“帳尻合わせ”の負担が膨らみます。
結果的に取引先との関係悪化や、現場工数の不公平な増加、最悪の場合はヒヤリハットや重大品質事故に発展するリスクも抱えることになります。
バイヤー目線とサプライヤー目線 ― それぞれが知らないギャップ
物流便数削減策を打ち出す際に忘れがちなのが、バイヤー側とサプライヤー側で「見えている世界」が大きく違うことです。
バイヤーが考える “調達コスト” の本質
購買・バイヤー部門が重視すべきは、決して「運賃単価」だけではありません。
購買責任者として意識すべきは調達の“トータルコスト”、すなわち
・運賃や輸送費(見えるコスト)
・納期遵守率や安定供給性(リスクコスト)
・適正在庫維持によるキャッシュフロー圧迫防止
・サプライヤーからの信用や協働関係醸成
これら全体を見渡して判断する力こそ、本当に付加価値の高いバイヤーが持つべき視点です。
サプライヤーが知っておきたい “バイヤーの裏事情”
一方で、サプライヤー側からすると「なぜこんな無理な便数削減要求が来るのか」と疑問に感じるケースは多いはずです。
実はバイヤー側も、経営層からのコスト削減プレッシャーや、現場を知らない上層部からの“形だけの改善指示”に頭を悩ませていることがあります。
また、年度末や期初など経営数値の節目でイレギュラーな削減要求が発生しがちなのも業界あるあるです。
こうした双方の“知られざる事情”を理解し、建設的な議論を積み重ねることが、持続可能なWin-Win関係の前提条件となります。
真の物流改善 ― “つながる”サプライチェーン改革とは
物流便数を減らす施策自体が悪なのではありません。
大切なのは、短絡的な「単体最適」から脱却し、サプライチェーン全体の“つながり最適化”を実現することです。
全体最適のカギ ― 情報の可視化と現場対話の徹底
私の現場経験上、本当にコスト削減や業務効率化を達成するために必要なのは「情報の透明性」と「実務担当者同士のコミュニケーションの質」です。
例えば、以下のような取り組みが有効です。
・物流現場と調達・生産管理・営業の現場間で“真の課題”を洗い出す対話の場を設ける
・倉庫管理システムや輸送管理システム(TMS/WMS)活用によるリアルタイムな在庫・納期・輸送状況の可視化
・AI予測やデジタルツールによる需要変動や最適輸送頻度のシミュレーション導入
・サプライヤー・バイヤー間で共同プロジェクトチームを結成し、共に現場視察や改善ワークショップを実施する
現場目線のフィードバックループを構築することで、単なる便数削減ではなく「真に価値ある物流体制」を実現できます。
昭和的アナログ思考からの脱却 ― “必要な時に必要な分だけ”への転換
これからの製造業では、昭和型の「在庫して持っとけ」「まとめて運べばいい」といった思考から脱却し、「必要なときに、必要な量を、最適なロットで」供給する仕組みへの転換が必須です。
そのためには、
・需要予測精度の高度化
・サプライヤーとのリードタイム短縮プロジェクト推進
・共配や多拠点納入など、業界横断の物流連携モデルへの参加
・小口・高頻度配送にも耐える現場運用体制の整備
といった中長期のアクションが求められます。
まとめ ― パラドックスを打破し、真に強い現場を育てるために
単純な輸送便数削減が、結果的に現場の混乱やコスト増大を招く“物流のパラドックス”。
その本質的な解決のためには、調達購買・生産計画・物流管理がタテ割りで動くのではなく、「全員野球」の発想で現場知見を結集することが不可欠です。
コストとは単なる“見える数字”だけにあらず。
現場負担、在庫リスク、品質問題、サプライヤーとの信頼関係 ― 全てを横ぐしで貫く視座こそ、21世紀の製造業をリードするバイヤーや現場リーダーに求められる資質です。
今一度、現場目線で自社の物流改革を見直し、誰もが幸せになる“強い現場”をともに育てていきましょう。