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為替リスクを把握せず海外仕入れで損失を出す理由

目次
はじめに:グローバルサプライチェーンと為替リスク
製造業に携わる皆さんは、日々変化する市場動向やコスト削減に頭を悩ませているのではないでしょうか。
グローバルな視点から見ても、海外からの調達はコスト競争力を強化する重要な戦略です。
しかし、為替リスクを把握せずに海外仕入れを進めてしまうと、予期せぬ損失を被ることが少なくありません。
昭和から続くアナログな商習慣が根強く残るなか、為替リスクの認識不足が多くの企業現場で繰り返されています。
本記事では、なぜ現場で為替リスク軽視による損失が起こるのか、現場目線でその理由を鋭く掘り下げます。
また、今後の製造業に求められるリスクマネジメントのポイントについても具体的なアクションとともに解説していきます。
為替リスクとは何か─現場での基本的な理解のズレ
「為替差損」の本質が見えていない現場
海外から仕入れをする際、商品の支払いは現地通貨で発生します。
たとえば、米ドル建てで原材料を購入したとしましょう。
注文時点で1ドル=130円なら、1万ドルの仕入れは130万円です。
しかし、納品や決済のタイミングで1ドル=135円になれば、同じ1万ドルの支払いに135万円が必要です。
この5万円の差額が「為替差損」にあたります。
現場担当者は、つい納品時や月次ベースの仕入れ原価だけに目が行きがちです。
ですが、為替レートの変動が商品コストにどれほど影響を与えるか、その動きの本質を体感的に捉えきれていない現状が多いのです。
為替リスクを「見えないコスト」と捉えてしまう背景
請求書に明記される材料費や送料とは異なり、為替リスクは数字として即座に「見える化」しにくい特性があります。
特に「現場感覚」に根ざした意思決定が多い日本の製造現場では、目に見えないコストを軽視しがちです。
このアナログな発想が、海外仕入れで「為替を読まずに発注してしまう」「レート変動があっても『一時的なこと』と楽観する」など、リスク軽視の温床となっています。
損失が現場に発生するメカニズム
「現場優先」「納期最優先」の文化がリスクを見逃す
昭和以来の製造業では、「現場が最優先」「何よりも納期」という考え方が根強く浸透しています。
製造リーダーが「この部品がなければラインが止まる」と判断すれば、現時点でのレートでの発注が最優先されます。
たとえ為替レートが悪化傾向でも、コストより現場の「即応性」が優先されるわけです。
現場主導のスピード感と柔軟さが、日本型ものづくりの強みでもありますが、こと為替リスク対策においては裏目に出て損失に直結することがあるのです。
「為替予約」の未活用と情報連携不足
企業の財務管理の方法として「為替予約(フォワード取引)」があります。
これは、定めたレートで将来の取引を約束することで、為替変動のリスクそのものを回避する手段です。
ところが、実際の製造現場では
「財務部門が為替予約をしていても、購買担当が知らされていない」
「現場主導で仕入れ計画が決まり、後追いで為替対応する」
「業務システムやEXCELでの管理が分断し、情報が一元化されていない」
といった“サイロ化”が顕在化しています。
これは電子化・DX化が遅れているアナログ産業でよく見られる問題です。
結果として、為替差損の実態が発注から支払いまでのどこで発生したのか、だれがどれだけのコストを負担しているのか分からなくなってしまうのです。
具体的事例から学ぶ:失敗する現場のパターン
事例1:レート変動急上昇時の追加コスト未計上
ある大手加工メーカーA社は、円安が急速に進行していた2013年春、アメリカからの材料仕入れを大量発注しました。
会計上では1ヶ月後の決済でしたが、その間に1ドル=95円から103円まで急騰。
現場担当者は発注時のレート(95円)で予算管理していたため、決済タイミングで800万円もの為替差損が発生しました。
製造ラインには遅延がなく一見「調達は完了」しているものの、コスト増が全社的な利益を圧迫する結果となりました。
事例2:為替予約の未活用による原価の乱高下
中規模の電子部品メーカーB社では、受注増加に対応するため中国から部品調達を試みました。
ところが「為替レートが高止まりしてから予約を検討」したため、高値掴みの為替予約となり、以降コストの乱高下が1年近く続きました。
財務担当と現場調達が連携してリスクを事前にシミュレーションしておけば損失は抑えられたはずですが、「現場優先、後追い対応」が悪循環を招きました。
バイヤーが考えていること、サプライヤーが気をつけるべきこと
バイヤーが海外仕入れ時に最重視していること
バイヤー、特に購買担当者が重視しているのは「安定供給」と「総コスト最適化」だけでなく「トータルリスク管理」です。
・為替変動による仕入れコストの変動範囲
・品質・納期の不確実性
・現地規制や地政学的リスク
など、リスクの「幅」と「確率」を定量的に見積もることが重要視されています。
また、「最重要部品は複数ロットにわけて発注し一部には為替予約をかける」「支払い通貨の分散」など、戦略的バイイングも増えています。
サプライヤーが求められる提案力とは
サプライヤーには、単にモノを安く売るのではなく
・為替インパクト見積りサービスの提供
・支払い通貨の選択肢拡大
・受発注時のレート保証提案
など、「取引全体のリスクを下げる提案力」が求められています。
「今月は円安だから見積もり価格5%上げます」だけでなく、
「複数回にわけて決済した場合のシナリオも提示します」
「数カ月間は契約レートキープします」
など現場業務を支えるアプローチが重要です。
現場で実践できる為替リスク対策5つのポイント
①為替リスクシミュレーションの可視化
発注前、会計・財務部門と連携した「コストシミュレーション」を必ず行いましょう。
為替が動いた場合、どれくらい材料費がブレるのか。
損益分岐点はどこか。
管理会計レベルで「見える化」しておくことが必要です。
②為替予約・ヘッジの迅速な意思決定
発注から支払いまでのタイムラグがリスクを拡大させます。
月次や四半期単位で為替予約の検討タイミングをルール化し、必要なら現場主導で予約を推進する体制をつくりましょう。
③「仕入れ通貨」の分散戦略
取引先によっては「円貨支払い」「ドル建て」「元建て」など複数通貨に対応してくれるケースもあります。
支払いタイミングやサプライチェーン全体のリスク分散として、通貨選択肢を増やす交渉力も現場力の一つです。
④情報一元化・データ連携の推進(DX)
受発注、為替予約、支払い実績などのデータを一元管理するシステム運用が不可欠です。
エクセルや紙台帳では情報が断絶しやすく、部門間の見落としで損失が発生します。
仕入先情報や為替履歴をリアルタイムで連携できる環境構築を目指しましょう。
⑤損失要因の「現場共有」とPDCA
為替差損益は、経理部門の問題ではありません。
現場全体で「なぜこの差損が発生したか」を情報共有し、改善アクション(PDCA)を実践しましょう。
現場リーダーや購買担当が、損失を「自分事」として学ぶ組織風土が求められます。
まとめ:現場こそファクト・データに強くなろう
為替リスク軽視による損失は、決して財務部門だけの問題ではありません。
仕入れ現場の最前線こそ、「何をどのタイミングで、いくらで払うか」を数値化し、現実的なリスクを直視しなければなりません。
そして、サプライヤーや取引先との交渉力、現場ならではの柔軟な対応力も大切ですが、「思い込みや経験則」だけに頼らず、時代とともにファクト(事実)・データを軸にPDCAを回す賢い現場運営が必要です。
アナログな昭和スタイルに固執せず、ラテラルシンキングで全体最適を追求する視点こそ、これからの製造業を発展させる鍵といえるでしょう。
現場と経営、そして海外パートナーが一体となって、真の「競争力強化」と「損失最小化」を目指しましょう。
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