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塗装の色ズレを抑えるロット管理と温湿度条件の調整ポイント

目次
はじめに:塗装工程における色ズレ問題の実態
製造業、とりわけ自動車部品や家電、産業機器などの製品において、塗装の色ズレは依然として現場の大きな課題です。
昨今ではカラーマッチングの技術や自動塗装機の導入が進み、品質安定化が叫ばれていますが、一方で実際の現場では「同じ色を指定したはずなのに、出来上がった製品同士で微妙に違う」「顧客から色の違いを指摘される」といったことが後を絶ちません。
特にロットによって微妙に色味が違う、同じ構内で微差が生じる、という課題が多くの工場に根付いています。
この記事では、塗装の色ズレを抑えるために、現場で実践すべきロット管理の手法や、温湿度条件の調整ポイントについて、昭和から続く“アナログ”な業界事情も交えながら、実際に役立つノウハウを詳しく解説します。
バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場でバイヤーの視点を学びたい方にとっても、調達・品質トラブルの未然防止に大いに役立つ内容です。
色ズレが生じる主要因:抑えておきたい5つのファクター
まず、塗装工程で色ズレが生じる原因は複合的です。
現場で原因究明にあたる際には、以下の5つの要因を丁寧に洗い出す必要があります。
1. 塗料自体のロット差
塗料メーカーごと、あるいは同一メーカーでも生産ロットごとに微妙な差が生じることがあります。
顔料や樹脂のバッチ管理が行われていても、原材料の調達先が変わることで物性に僅かな違いが生まれることも。
実際、外観基準をクリアしていても“色の深み・艶感”といった微妙な味わいが異なる場合があります。
2. 希釈剤や添加剤の配合ミス
塗料を使用するとき、気温や湿度に応じてシンナーの配合割合を調整する必要があります。
現場で手作業に頼った場合、「人による勘」に差が生まれがちで、特にアナログ体質の現場ではルールの徹底が困難になる傾向があります。
3. 塗装時の温度・湿度環境
塗装ブース内の温湿度管理が整っていない場合、乾燥スピード・仕上がりに大きな差が出ます。
温度が高すぎる、または低すぎる、湿度の変動が激しいと、塗料の反応・蒸発挙動が異なり、結果として色ブレやムラにつながります。
4. 塗装機の設定値・メンテナンス状況
塗装ガンや自動塗装機などの設定値(吐出量・スプレーパターンなど)やノズルの詰まり、老朽化による微妙なバランス崩れが色ズレの一因となります。
意外と多いのが「メンテナンス基準書はあるが、運用されていない」「設備担当以外が勝手にいじって設定値がバラバラ」などの現場課題です。
5. 塗装対象品の素材差・前処理
例えば、同じ塗料を用いても下地(素地)が違うと色ののり方・光の反射が異なり、仕上がりの見え方が変わります。
またグリスや油分、ほこり残りなど、前処理工程の小さな違いも積み重なり色ズレ要因になります。
現場で実践できるロット管理のポイント
上記要因をふまえたうえで、多様な現場で長年培ったノウハウから、色ズレを最小限にするロット管理の勘どころを紹介します。
1. 塗料ロットごとのサンプル塗装を必ず実施
新しい塗料ロットを受け入れる都度、必ず基準サンプルを作成し、前ロットとの比較確認を行います。
この際、基準となる参考板は過去分も都度保存し、簡単な目視だけでなく、分光色差計(カラーメーター)などで「数値データ」として管理することが重要です。
このデータを残すことで、将来クレームが発生した際も「いつ、どのロットで色がズレ始めたか」が追跡可能になります。
2. 計量記録を“デジタル化”で管理強化
塗料・希釈剤の配合作業は、いつまでも人間の勘に頼らず、電子天秤やIoT連動の計量システムで記録を残すことが推奨されます。
現場ヒアリングでは「作業者によって同じレシピでも微妙に仕上がりが違う」という声が多く、属人的作業からの脱却が急務です。
小規模な工場でも、タブレットや手書きシートの写真保存を活用するなど、簡易的でもエビデンスを残す工夫をしましょう。
3. 小ロット生産時は「異ロット混載」を避ける
注文量が少ない場合、複数ロットの塗料や原材料を“混ぜて使う”現場は意外に多いです。
混載すると色味が安定しません。
ロットの切り替えは必ず仕上がりチェックとセットで実行し、異ロット間の混用を極力防ぐ体制づくりが重要です。
塗装工程の温湿度条件をどうコントロールするか
昭和の生産現場では「エアコンなんて勿体無い」「扇風機で十分」という空気がまかり通っていました。
しかし近年、多品種少量生産や高品質要求が当たり前となるなかで、空調設備の投資は塗装品質の生命線です。
以下、温湿度管理の具体ポイントを解説します。
1. 設備投資による恒温・恒湿ブース化を推進
限られた生産資源のなかで「必ずしも最新鋭設備は使えない」という工場も多いですが、せめて塗装ブース周辺は温湿度・清浄度をコントロールする必要があります。
温度は18度~28度、湿度は40%~60%の間で管理できるような設計が推奨されます。
特に日本の四季においては外気条件が大きく変動するため、エアコン・除湿機能付き大型空気清浄機の導入が現場安定化の決め手になります。
またスポット空調や温湿度アラーム監視システムを設置することで、異常時すぐに対処できる体制づくりも大切です。
2. 温湿度データの蓄積と「異常値アラート」の活用
日々の温湿度データを手書き帳簿だけで済ませていませんか。
無料クラウドサービスやIoTロガーを活用し、日・週ごとの変動を可視化しましょう。
また「規定値から外れたらメール・アラームで即時通報」といった自動化プロセスを構築することで、現場のヒューマンエラーを減らせます。
3. 緊急時のマニュアル(段取り替え・追加乾燥など)を整備
設備故障や天候急変時に備え、「いつ・誰が・どのように」対処するかを明文化しましょう。
例えば「所定温度より5度高くなった場合、希釈剤量を〇%増やす」「乾燥炉の時間を〇分追加」といったパターン別の対処表があると安心です。
属人的な現場ノウハウの形式知化が、色ズレ・品質トラブルの再発防止に有効です。
色ズレクレームを未然に防ぐためのバイヤー・サプライヤー連携術
“バイヤー”視点では、品質安定化と原価低減が使命です。
一方“サプライヤー側”としては、現場の声・課題をどうバイヤーに伝え、協業するかが市場で生き残る鍵となります。
両者にとって効果的な連携策を具体的にまとめます。
1. 塗料ロットチェンジの事前通報徹底
バイヤーには「どのロットから仕様・原材料が変わるのか」の情報を速やかに共有し、事前にサンプル承認フローを確立することが重要です。
これにより、エンドユーザーや最終組立の現場で「思わぬ色ズレ」が発覚するリスクを減らせます。
2. 品質異常時の現場連絡ルールを明確化
万が一色ズレや塗装ムラなどの異常があった場合、電話だけで済まさず、画像やデータ付きで連絡・報告書をつけることが信頼強化につながります。
また月次の品質MTGや顧客監査時にデータを公開し、継続的な課題・改善策をすり合わせましょう。
3. 共同改善プロジェクトや他社事例の水平展開
単なる「責任押し付け型」の取引ではなく、双方で共同プロジェクトを立ち上げ、「色合わせ改善」「温湿度管理方式刷新」などに取り組むことで、信頼関係と技術力向上が一石二鳥となります。
また、他のバイヤーやサプライヤー事例を積極的に横展開し、自社だけでなく業界全体の底上げを目指しましょう。
まとめ:データ・現場・コミュニケーションが色ズレ対策の三本柱
塗装の色ズレ問題は、単なる“現場の管理ミス”として片付けられがちですが、実はロット管理・温湿度コントロール・現場とバイヤーの相互理解といった多角的な要素が絡み合う深いテーマです。
昭和時代のアナログ手法から脱却し、IoT・デジタルツールを活用したデータ蓄積、現場でのルールの見える化、そして垣根のない報連相(報告・連絡・相談)が新たな品質文化の地平線を切り拓きます。
製造現場でも、バイヤーや調達担当でも、「なぜ色ズレが起こるのか」「どこに落とし穴が潜んでいるのか」を一歩踏み込んで考え、日々の改善を積み重ねることが、真の競争力をもたらしてくれるでしょう。
塗装工程の強化による製品価値アップとともに、生産現場の信頼構築に、この記事が一助となれば幸いです。
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