投稿日:2025年10月7日

色差クレームを防ぐロット間色管理と染料バッチ制御の実践法

はじめに:なぜ色差クレームが発生するのか

色差クレームは、繊維やプラスチック、塗装など、色を扱うものづくりの現場において最も頻発する品質トラブルの一つです。

「前回ロットと色が違う」「見本と色味が揃っていない」——このような指摘は、製造現場だけでなく、調達・購買、サプライヤーまで巻き込んで大きな課題となっています。

従来、色の管理は熟練者の経験と勘に頼る側面が多く、昭和から令和にかけて現場感覚の手法が色濃く残ってきました。

しかし、グローバル化や生産多拠点化の中で「安定かつ再現性の高い色管理」が強く求められるようになっています。

今回は、色差クレームの根本的な原因とロット間の色管理、それを支える染料バッチ制御の実践的方法について、現場で培ったノウハウと最新の業界動向を織り交ぜて解説します。

色差クレームの背景:製造現場とビジネスサイドのギャップ

バイヤーとサプライヤーで異なる「色」への意識

バイヤー(調達・購買担当者)が色を重視する理由は、エンドユーザーからのブランド品質維持やクレームリスクの観点です。

一方、サプライヤー(製造現場)では「材料ロット差」「加工工程のバラツキ」「人的作業の影響」など、色の再現精度に直結する要因が複雑に絡み合って管理が難しい現実があります。

この「完成品品質重視」と「現場再現性重視」のギャップが、色差クレームの根本原因とも言えます。

色差クレームは“事故”か、“未然防止可能なミス”か

色は見た目の印象に直結し、クレームに発展しやすい要素ですが、多くの現場では「仕方がない」「この程度は許容範囲」という認識が依然として残っています。

しかし、今や“計測・記録・工程管理”によって多くの色差トラブルは未然防止が可能です。

現場主義のアナログ的おおらかさから、数値・データ主義の精緻な管理へとシフトすることこそが、これからの製造業の価値向上につながります。

ロット間色管理の基本:現場目線・データ目線の両立

1. 標準色(マスター)管理と基準づくり

まず、大前提として必要なのが「標準色(マスターサンプル)」の明確な設定です。

顧客から提供された基準色、あるいは自社内で定めたマスターサンプルを、現場とバイヤーが共通認識として合意しておくことが最重要となります。

この標準色は、時間経過や保管条件によって変色する恐れがあるため、定期的な差し替えやデジタル標準化(分光測色値の記録)が不可欠です。

2. ロット間色差測定の定量的管理

次に大切なのは、「ロット間の色差を定量的に測定し記録すること」です。

主に使われるのは分光測色計(スペクトロフォトメータ)で、Lab値やΔE(デルタE)という数値で色差を評価します。

昭和世代の多くは“目視判定”を重視しますが、再現性やエビデンス対応の観点から、目視+測定値のダブル管理が必須です。

色差の管理目安としては、一般的に製品用途や顧客要求に応じてΔE≦1.0~2.0などの許容基準が設けられています。

3. ロットごとの工程パラメータ“見える化”

色調は、染料や着色料の配合割合、温度・時間、pH、材料バッチ差など、さまざまな工程パラメータの影響を受けます。

各ロットごとのパラメータをデータ化・記録し、色差クレーム発生時に「どの工程要素が変動の主因か?」を特定できる体制構築が重要です。

今までは紙台帳と手書きノートに頼る場合も多かったですが、最近はExcel台帳やIoT連動の品質管理システム導入も増えてきています。

染料バッチ制御の実践:現場でできる工夫と運用ノウハウ

染料バッチが変わるとどうなる?リスクと対応策

染料や顔料のロットが変わることで、同じ配合・同じ工程条件にしても“予期せぬ微妙な色差”が生まれることがあります。

これは原料メーカー側の「染料ロット差」が原因で、現場ではどうしようもない“構造的課題”と思われがちですが、以下のような対策により十分コントロールが可能です。

・新ロット染料で必ずパイロット生産&色差測定

染料や顔料を切り替える際には、必ず既存ロットと新ロットの対比パイロット(小ロット試作)を行い、標準色・前回品と色差測定し、必要なら微調整します。

この工程をサボると、量産移行後に大量クレームを招くリスクが高まります。

・染料ロット間の“置換履歴”をしっかり記録

零細規模の現場では、旧ロットと新ロットを混ぜて使う“またぎ使用”(ローリングチェンジ)が意外に多く、この場合「どこまでが旧ロットで、どこから新ロットか」が曖昧になりがちです。

どのロット切替点から色が変わりうるかを記録し、万が一クレームが発生した際にトレースできる仕組みが大切です。

・染料メーカーとの”二人三脚”体制構築

染料メーカーには、出荷前の品質証明を求めたり、「試験染色サンプル」の提供を依頼するなどの交渉を行いましょう。

アナログな製造業ではどうしても「下請け=泣き寝入り体質」になりがちですが、本気でクレームを防ぐには、サプライヤー⇔染料メーカーの連携強化が欠かせません。

色差クレームを防ぐための仕組みづくり・マインドづくり

見える化と再発防止策(クレームループからの脱却)

色差クレームが一度でも起きた場合、「繰り返し発生させない」ための仕組みづくりが事業継続に直結します。

定量データと手順記録、ロットごとの染料履歴などをしっかり残し、「何が起きたか?なぜ起きたか?」を社内で徹底検証。

再発防止策(ポカヨケや作業標準の明文化)まで落とし込むことが、客先からの信頼獲得と受注継続につながります。

また、この積極的な見える化は、業界全体の底上げにも大きく貢献します。

教育・育成:現場感覚の伝承とDXの両立

熟練工の持つ目視ノウハウや、現場でしかわからない“色ブレのツボ”も大切ですが、今後はAiやセンシング技術・デジタルデータ管理と融合させてこそ真価が発揮されます。

昔ながらの「カンと経験」に頼り切ったままでは、次世代へ技術の継承ができません。

研修やOJT、事例共有会などを活用し、現場感覚×デジタル管理力の相乗効果を現場全体で育んでいくことが肝要です。

業界トレンド:色管理の自動化・省人化の最前線

ここ数年、IoTやセンシング技術の進化により「自動色差測定装置」「AIによる色バッチ最適化システム」といった新技術導入が加速しています。

具体的には、製造ライン上で連続的に色をモニタリングできるシステムや、材料投入時点で自動的に配合最適化を行う機構などが実用段階に入っています。

手作業での微調整が主流だった色バッチ制御も、今後は「自動補正」「品質予測シミュレーション」「NG品自動排除」へと進化していくことでしょう。

サプライヤーとしても、こうした業界動向をキャッチアップし、バイヤーや顧客への提案力を高めていく姿勢がますます求められています。

まとめ:色差クレームを“撲滅”し未来のものづくりへ

色差クレームは、技能や知恵・機械やIT・現場とビジネスサイドをつなぐ“総合格闘技”と言えます。

アナログ的だった色管理の常識をデジタル主導に進化させ、「再現性」と「エビデンス力」を持った現場が企業の競争力そのものとなっています。

これから製造業・調達部門で活躍したい方、サプライヤーとして現場の課題解決と提案力アップを目指す方は、今日ここで述べたロット間色管理と染料バッチ制御の考え方・実践法を、ぜひ明日からの現場運営に活かしてみてください。

“色差で悩まない”“クレームで消耗しない”現場づくりこそが、ものづくり日本を再生し、世界に打って出る活力となるのです。

You cannot copy content of this page