スプレッドシート関数連携で小規模工場でも手軽に発注自動化を実現したローコード事例

はじめに～アナログ現場の“発注”をローコードで変革する

製造業の現場では、いまだに発注業務が紙伝票やFAX、電話など人手に頼る“昭和スタイル”で進行している工場も少なくありません。

特に小規模・中小工場では、基幹システムの導入には多額の投資や業務フローの大幅な見直しが必要になるため、DX化が進まない壁となっています。

しかし、近年では「ノーコード」や「ローコード」プラットフォームとスプレッドシートとの連携で、基幹システム並みの発注自動化を低コスト・短期間で実現する事例が増えつつあります。

この記事では、実際に筆者が携わってきた製造現場での発注自動化プロジェクトのローコード事例をベースに、業界の現状や効果的な推進ポイント、バイヤー・サプライヤー双方の視点も交えて詳しく解説します。

なぜ“発注業務の自動化”が求められるのか

人手不足・属人化・データ分断…現場のリアルな課題

多くの製造業工場では、次のような課題が慢性化しています。

・調達・発注担当者の作業量が膨大で、業務が属人化している
・欠品や発注遅れによる生産ラインの停滞リスク
・取引先ごとにバラバラな発注フォーマットや連絡手段
・在庫管理や生産計画と発注システムが連携しておらず二重入力・転記ミスが多発
・「いつものやり方」に慣れたベテランが刷新にネガティブ

現場目線では、効率化より“トラブルなく回す”ことが優先され、ちょっとした自動化にも「今まで通りでいい」「手間が増えるくらいなら今のままで」と消極的になりがちです。

業界動向：大企業もSAPやBlue Yonder等からローコード移行の波

これまで多額の投資をかけてERPを導入してきた大手製造業でも、急速な変化や多品種少量・短納期対応のため、業務プロセスの柔軟性を求め「ローコードプラットフォーム×SaaS×スプレッドシート」の融合が急速に進んでいます。

その影響はサプライチェーン全体に波及し、中小・小規模工場にも「安価に導入・現場主導でカスタマイズ」が求められる時代です。

スプレッドシートを軸にしたローコード自動化とは

スプレッドシートの“親しみやすさ”を活かす

小規模工場では、ExcelやGoogleスプレッドシートなど「表計算ソフト」が日常業務の中心になっています。

ビジネスアプリ開発に高いスキルやIT人材は不要ですが、スプレッドシートでできることは意外と多く、“関数やマクロ、スクリプト”を組み合わせれば、小さな工場でも自分たちに最適な自動化が可能です。

ローコードツールとの連携でできること

近年注目の「ローコード」ツール（例：kintone、Power Automate、Make（旧Integromat）、Airtableなど）は、
・特別なプログラミングなしに業務アプリを作成
・スプレッドシートやクラウド在庫システムとAPI連携
・発注書PDFやメール、チャット、Teamsなど連絡も自動化
といった柔軟な作り込みができます。

しかも初期費用は数千円～数万円と低リスク、「お試し」「部分導入」「現場主導の改善」と段階的に進められるのが最大の魅力です。

実践事例：小規模工場で実現した“発注自動化”プロジェクト

現場のBefore（従来の発注プロセス）

食品加工工場では、次のような従来型プロセスが運用されていました。

(1) 在庫管理担当者がエクセル台帳で日々手入力し部材数量を確認
(2) 欠品や消費量が一定以下になったら、「発注依頼書」を手書きorメールで調達担当に提出
(3) 調達担当がベンダー別に発注依頼をまとめてFAXや電話で注文
(4) 仕入先から返答が来たら、納期情報を手書きで記入
(5) 入荷時に伝票記載、システム転記

このやり方は「ヒューマンエラーが多い」「昼休みに電話がつながらない」「ベンダーによって情報が抜ける」など、慢性的なミスとトラブルが現場を悩ませていました。

After：スプレッドシートとローコードで自動化した仕組み

(1) 現場担当者がGoogleスプレッドシートに消費・在庫数をリアルタイム入力
(2) 調達予定表もスプレッドシート内で自動計算。しきい値を下回った品目を自動抽出
(3) ローコードツール（例：Makeやkintoneなど）がトリガーとなり、自動で発注書PDFやメールを生成・配信
(4) サプライヤーからメール返信があれば、ローコードで納期予定一覧表に自動記録
(5) 入荷予定日にはアラートやリマインドをチャットで現場に通知

ここまで自動化しながら、現場感覚を失わずに、「今までのパソコン業務の延長」で手軽に仕組み化ができました。

実際の効果と現場の声

現場からは、
・「二重入力や転記ミスが激減した」
・「休みの日でもタブレットから発注状況が確認できて便利」
・「出張時もスマホで発注や入荷予定がチェックできる」
・「繁忙期のオーバーワーク解消」
など大きな反響がありました。

また、バイヤーだけでなく、サプライヤー側も「PDFやCSV形式で統一された発注書が自動で届く」「納期回答をそのまま返信するだけでOK（電話やFAXが激減）」と、現場負担が大幅に軽減されました。

構築ポイント：昭和アナログ業界でも失敗しないコツ

現場目線で「手間が減る」設計を徹底

IT導入自体を目的にせず、「実際に担当者の手間が減るかどうか」を判断基準にします。

「最低限ここだけは自動化したい」「Excelなら現場でも使える」という身近なニーズから始め、
派手な仕組みより“小さな効果体験の積み上げ”が肝となります。

“完全自動化”より“部分効率化”で合意形成

一気にフル自動化を目指すと現場抵抗感が強くなります。

まずは「発注書作成だけ自動」「納期リマインドだけ自動」など、部分的な効率化から着手し、効果体感後の拡張を考えるのが現実的です。

データ連携・API活用で二重入力をなくす

スプレッドシートや各種業務システム、クラウド在庫アプリをAPI等で結線すれば、転記作業が1/10以下に圧縮できます。

「人間がやらなくていい作業」はできる限り機械にまかせ、「判断や現場交渉」など付加価値残しに集中すべきです。

バイヤー・サプライヤー両方の視点で考える

バイヤー目線：サプライヤーとの情報連携強化

発注側（バイヤー）は、見積～発注～納品～検収までのリードタイム、進捗可視化、データ一元化が成否のカギを握ります。

ローコード自動化で「情報の即時共有」「トレース性の向上」「ペーパーレス・遠隔業務対応」が進み、現場も管理者も安心できる体制が作れます。

サプライヤー目線：多様な発注方式対応と効率化

サプライヤーは、取引先ごとに異なる発注書式・受信方法（FAX、電話、メール、EDI）への対応が大きな負担です。

スプレッドシートとローコード連携で、取引先ごとに最適な形式で“自動送信”ができるため、人的ミス削減・ノー残業の実現にも一役買います。

また、サプライヤーへの「あいまいな依頼」「コミュニケーションの非効率」も減り、強いパートナーシップが構築できます。

今後の発展～“ローコード”発注自動化の新たな地平線

生成AI連携によるバイヤー業務の変革

近年はChatGPT等の生成AIとの組み合わせで、「発注書内容の自動チェック」「発注漏れアラート」「条件に最適な調達先選定」といった高度業務判断まで自動化範囲が広がっています。

いずれは「見積依頼～調達先探索～価格交渉」の一部もAIが補佐し、
現場は“例外処理”や“業務改善”に注力できる時代も遠くありません。

業界の“人材育成”課題もローコードで変える

ローコードツールを活用することで、「現場スタッフがITスキル無しで改善提案ができる」「若手でも活躍しやすい職場環境」に変わります。

全員参加型の改善サイクル＝日本的現場力とローコードの融合で、小さな工場こそ“世界に通じる多品種少量・高効率経営”が可能になります。

まとめ～スプレッドシート×ローコードで未来志向の現場DXを

スプレッドシート関数連携とローコード自動化は、大きな投資やIT専門人材の確保が困難な小規模製造業にも手軽で現実的な“発注業務DX”をもたらします。

実践を通じて、失敗しないコツは「小さな業務課題の明確化→部分自動化→現場納得感を得る→全体最適を目指す」ステップを段階的に進めることです。

発注側・受注側の双方が“余分な手間”から解放され、「未来志向の現場改善」を推進できる――その一歩を是非身近なローコードからスタートしてください。

今こそ、現場目線で一歩先の製造業DXを実現する好機です。