投稿日:2025年8月14日

代替工法のパイロット検証を低コストで回す「試作一回」戦略

はじめに:製造業における代替工法検証の重要性

日本の製造業は、世界有数の技術力を持ちつつも、昭和時代から続くアナログ文化や慣習が根強く残る独特な業界です。

複雑化するサプライチェーン、コストダウン要請、部品の長納期化や海外リスクの高まりなど、現場を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。

その中で、「今までのやり方」を守りながら、同時に新しい技術や手法―とりわけ“代替工法”の模索は避けて通れません。

しかし現場では、“何か変える”には大きなリスクやコストがつきまとい、パイロット検証(試作・テスト)もコスト面でためらわれることが多いのが実情です。

そこで近年注目されつつあるのが、「失敗前提で、まず1回だけ最小コストで試す」、通称「試作一回」戦略です。

この戦略は、調達購買担当、生産管理、サプライヤー双方の立場を経験した筆者が、実際の現場や業界動向を踏まえて体系化した知見に基づきます。

なぜ「試作一回」戦略が有効なのか

日本の製造業現場が抱える根本課題

多くの工場や企業では「本番工程の最適化」には熱心ですが、その前段階である「工法刷新」や「新工法の導入」には及び腰です。

その理由は、主に以下の3つです。

・新工法導入には不確実性(失敗リスク)が高い
・工法評価のための予算(試作コスト)が捻出しにくい
・業界独自の“前例重視文化”が強い

このため、斬新な代替案や革新技術が出ても、「実際の試作やテストまで漕ぎ着けず埋もれる」ケースが多く見受けられます。

最小コストで「1回だけ」試す本質的な意味

「試作一回」戦略の本質は、最初から“万全な結果”や“完璧なサンプル”を狙わないことです。

資料作成、仕様確認、図面精査、設備の調整・・・このような「試作前準備」に膨大な工数やコストをかけるのではなく、

「まずは簡便な治具や既存設備で、“1回きり”のパイロット投入で様子を見る」
「失敗を基準点にし、“どこが課題か”の明確化に主眼を置く」
という発想に切り替えることがポイントです。

これにより

・失敗コストを恐れず迅速にチャレンジ
・関係者が“生きた事例”を通じ議論や反省促進
・“机上”では見えない実務課題や可能性を発掘

といった大きなメリットがあります。

バイヤーとサプライヤー、双方の心理的障壁を崩す

「最初から完璧を要求すればコストもハードルも高くなり、結局なにも進まない」というのは、バイヤーもサプライヤーも共通する悩みです。

「試作一回」なら、「まず小さく、低コストで」という明確なゴールが合意しやすく、サプライヤー側も失敗を恐れず協力しやすくなります。

この“相互提案の心理的障壁の低減”が、実はイノベーションの推進力となるのです。

低コストでパイロット試作を回す仕組み作り

戦略1:社内簡易申請フローの構築

現場の悩みの一つは、「新しい試作を始めるだけで稟議や申請が多い」ことです。

これを解消するには、
「試作一回に限り、数万円までの諸経費は現場長や担当バイヤー判断でOK」
「所定の簡易報告テンプレートで十分」
のようなフローを用意しましょう。

事前に上長や経理とルールをすり合わせておけば、現場は臆することなくチャレンジできるようになります。

戦略2:既存治具・工具の活用+外注先の“小ロットOK”先開拓

ゼロから冶具や金型を作るのはコスト高になるので、

「既存工程の冶具を流用できないか」
「ラピッドプロトタイピング業者や、町工場の“小ロットOK”ネットワークを持つ」
などの手段を常に意識し、現場で共有しておきます。

もし自社ですぐに作れない部品も、「技術同盟型の外注先」が使えれば、数千円単位の試作も可能になり、代替工法実験の回数が格段に増えます。

戦略3:失敗例・成功例の“見える化”と共有文化

「試作一回」のノウハウや工夫、結果としての失敗点をナレッジとして蓄積・全社共有する取り組みも非常に有効です。

成功例のみならず、
「ここで躓いた」
「コストを抑えるならこの方法」
「このサプライヤーはチャレンジ精神が高い」
といった現場生きた情報が蓄積されれば、第二、第三の挑戦に結びつきやすくなります。

他社事例に学ぶ、「試作一回」戦略の実践

自動車部品メーカーA社のケース

A社では、既存部品のコストダウン要求が高まった際、従来の金型プレス品から、新興サプライヤーによる“切削+汎用熱処理”工法への切り替えを検討しました。

最初はコスト面の不安(切削だとロット/単価増)や品質面の妥当性がネックになっていましたが、「まずは100個分だけ、簡単な治具と外注先の標準ラインを使って試作一回しましょう」と調達バイヤー自ら提案。

その結果、量産移行のための課題が“現物視点”で明確になり、サプライヤーも「この程度のリスクなら協力したい」と前向き応答。
今ではA社の新工法開発の標準プロセスに組み込まれています。

電子部品メーカーB社のケース

B社は海外サプライヤーとの取引で納期リスクが表面化し、新たな国内調達ルートを模索。

しかし、社外サプライヤーとの新工法提案は、「品質トラブル→取引停止」に発展しやすいという業界の慣習(昭和文化)が強く足かせになっていました。

そこで、「1個だけ、再現性は問わない」条件でまず試作。

試作の失敗から“加工順序の最適化”や“品質保証項目の本質見直し”へとつなげ、「一発勝負の大量生産」発想ではなく、“小さな検証重視”の流れに現場全体がシフトしたといいます。

代替工法・材質のパイロット検証で押さえるべき注意点

最小化すべきコストと、削ってはいけないコスト

「試作一回」ではつい杜撰になりがちですが、
絶対に削ってはいけないのは「品質・安全・法規制」への配慮です。

・材料証明の取得やトレーサビリティ
・基本特性(強度・耐久テスト)は省略しない
・最終用途のリスク洗い出しは事前に最低限実施

など、「あくまで本質的リスク値は確保」の原則を守りましょう。

バイヤーとサプライヤーの“合意点”確認

「最低条件(納期・要求事項)」は相互書面で合意し、不明点や課題は必ず可視化(ToDoリスト・チェックシートなど)しましょう。

これにより、「トラブルの水際ストップ」や「内外協力体制の強化」につなげられます。

現場工程での巻き込みと小さな成功、称賛

現場オペレーターや技能者の力・アイデアを積極的に巻き込みながら、「こうしたら安くできた!」という“現場知恵”を尊重。

小さな成功事例を称賛する文化が「次の挑戦」につながりやすくなります。

これからの製造業バイヤー・サプライヤーへのアドバイス

製造業の革新は「一発勝負・大規模投資」だけでなく、「小さく早く、まず1回だけやってみる」思考から始まります。

特にバイヤーを目指す方や現役調達・購買担当の方は以下を心掛けてください。

・企画・技術部門と現場作業者、サプライヤーをつなぐ“ハブ”となりやすいこと
・NOリスクではなく、“許容可能なリスク”と“失敗の知恵”を積極的に主導
・小さく早く動いた人への評価・発信を惜しまないこと

一方、サプライヤーや町工場のみなさんにも、「失敗を怖れずチャレンジ提案してくれるバイヤー」との関係構築が飛躍のカギとなります。

まとめ:現場目線で製造業の“新地平”を拓こう

昭和的な慣習から抜け出し、世界の変化速度に応じギアチェンジするには、「まずは小さな実験精神・現場合意でやってみる」ことが不可欠です。

リスクを最小限にしつつチャレンジできる「試作一回」戦略は、現場主導のイノベーションを呼び起こし、
製造業の次世代発展に大きく貢献します。

ぜひこの記事を参考に、みなさんの現場でも「一歩踏み出す勇気」と「小さく賢く回す仕組み」づくりに取り組んでみてください。

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