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“調達コストだけ安くても総コストは下がらない”矛盾

目次
調達コストだけ安くても総コストは下がらない理由
製造業のバイヤーやサプライヤーの皆さん、コストダウン=安値調達という公式に、いつまで縛られていますか。
「調達コスト」と「総コスト」は同じものではありません。
にも関わらず、多くの現場はいまだに「とにかく安く買え」と言われ続け、その結果、思わぬ落とし穴に陥ることが後を絶ちません。
私は20年以上の現場経験から、調達価格だけを重視した施策が、必ずしも総コスト削減につながらない事例を数多く見てきました。
この記事では、なぜ安いだけではコストダウンに結び付かないのか、そのメカニズムと現場目線での課題、さらにこれからの製造業に必要な“本当のコストダウン”について掘り下げていきます。
調達コストと総コストの違い
調達コストは部品や原材料の購入単価
調達コストとは、バイヤーがサプライヤーから部品や原材料を購入する際に支払う単価のことを指します。
一般的に「1個いくらで買えるか」「前年よりどれだけ値下げできたか」が重視されがちです。
確かに短期的には、単価を下げて調達できれば、直接的なコスト削減になります。
総コストには多くの見えないコストがある
しかし、ものづくりの現場には、購入単価以外にも様々なコスト要因が潜んでいます。
調達以外に発生する典型的なコストには、次のようなものが挙げられます。
– 納期遅延や急な仕様変更対応コスト
– 受け入れ検査や品質不具合対応コスト
– 不良品による生産ライン停止・手直し費用
– 輸送や保管にかかる物流コスト
– サプライヤー管理や調達業務にかかる間接工数
これらは見積書には現れませんが、日常的に発生し、製品の原価をじわじわ押し上げています。
“安物買いの銭失い”を現場で目の当たりに
例えば、極端な値下げをサプライヤーに押し付けたことで、品質が低下し、不良率が急増。
結果として、生産部門や品質管理部門の手直しや検査工数が2~3倍に膨らみ、「購買単価は下がったが、現場工数は大幅増加」という経験は、現場を知る方なら誰もが一度は味わっているはずです。
バイヤーと現場の意識ギャップ
調達部門:数値(単価)にとらわれがちな現実
バイヤーは「コストダウン=調達単価の引き下げ」と評価されやすい立場です。
これは経営管理システムやKPIが単価や値引き率ばかりを強調する“昭和型”マネジメントの名残でもあります。
本来は“トータルコスト”の最適化が重要ですが、その定義・収集方法が曖昧なため、多くの場合は「調達単価ダウン」だけしか指標がありません。
生産・品質・物流部門:調達コスト以外の影響を痛感
一方、現場の生産や物流、品質管理部門は、サプライヤー発の遅延や不良による“波及コスト”に日々悩まされています。
調達部門がコストだけを優先して納入品質や納期管理を軽視した場合、しわ寄せが現場の多大な負担として蓄積します。
「現場の声をもっと聞け」と言われ続ける理由はここにあります。
アナログ業界に根付く調達コスト至上主義の落とし穴
なぜ今も調達価格だけで評価しがちなのか
日本の製造業、特に歴史の長い大手企業は、昔ながらの「見積書・単価主義」が今も色濃く残っています。
昭和から続く文化のため、
– 管理職や経理部門の評価指標が主に購買単価
– サプライヤー各社に対する値下げ要求が“年中行事”
– 仕様や納期よりも単価交渉が優先される
という実態が根強いのです。
DXやSCM最適化が声高に叫ばれていても、日々の現場運用は属人的で、
「実は調達コスト以外の費用もかなりかかっているが、数値化されていない」
というケースも多いのではないでしょうか。
“安さ”が“安心・安定”を蝕む3つのリスク
安い調達を続けることで、製造現場には以下のリスクが高まります。
1. サプライヤーの経営体力が削がれ、将来的な供給不安・品質低下を招く
2. 無理なコスト競争を強いた結果、潜在的な不良やごまかしが発生しやすくなる
3. サプライヤーの現場人材のスキル維持・設備投資が難しくなる
こうしたリスクは、ある日突然、ライン停止や大規模リコールといった形で“突然表面化”し、大きな損失をもたらすことが少なくありません。
本当のコストダウンは“全体最適”の発想から
SCM全体で利益を生み出す視点へ
求められるのは「調達単価」を下げることではなく、「SCM全体の最適化」、すなわち
– 調達~生産~流通~顧客納品
このサプライチェーンすべてのコストをトータルで“最小”にする視点です。
バイヤー個人の達成感や単年度の実績より、チームや企業トータルで“利益最大化”を重点に置くべきです。
製造現場とサプライヤーをつなげるコミュニケーションが不可欠
生産・品質・物流など現場部門と調達部門、さらにサプライヤーの現場リーダー同士が情報を共有し、「調達コスト以外にどんなコストが発生しているのか」「どこに無駄が潜んでいるか」を具体的に見える化することが第一歩です。
月例会議を単なる“単価交渉の場”にせず、問題共有と解決提案の場に進化させる意識改革が求められます。
“昭和から抜け出す”ための実践的アクション
1. 調達部門も現場のKPIで評価する
調達コスト以外の波及コスト(不良・納期遅延コストや現場の工数増減、業務効率化貢献度など)もKPI指標に含め、部門横断でKPIを設定することで、「安かろう悪かろう」を防ぐ仕組みが作れます。
2. サプライヤーとの長期的パートナーシップを築く
単価値下げを繰り返してサプライヤーに無理を通すのではなく、品質安定やリードタイム短縮、技術開発の協力など、“共創”型の関係を目指します。
これにより、サプライヤー側も長期的な投資や改善提案がしやすくなります。
3. 調達~現場~サプライヤーでの“見える化”を徹底
日々発生する不良や納期遅延、現場負担など、「調達コスト以外の見えにくいコスト」をデジタル技術や業務システムでリアルタイム管理すれば、調達単価とのトレードオフや“片寄ったコスト削減”をすばやく発見できます。
4. データに基づく“根拠ある”コストダウンの推進
あいまいな検討ではなく、「このコストをこれだけ下げ、その結果現場コストがどう変化したか」までしっかりトラッキングする仕組みが必要です。
この“見える化”が、全体最適による強い現場づくりへの第一歩になります。
まとめ~これからの製造業に必要な“本当のコストダウン”
調達コストだけを下げても、逆に総コストが膨らむケースは、昭和から続く“アナログ業界の矛盾”の象徴です。
グローバル市場との競争、サプライヤーの減少、突然の不測事態(コロナ・自然災害・経済変動)の時代には、
– 調達コストの「見える安さ」
– 総コスト・無形コストの「見えない高コスト化」の両面を見極める
“ラテラルシンキング”と“現場目線”の融合
が必要不可欠です。
バイヤー、サプライヤー、現場、全社が「単価」だけでなく「全体」と「将来」を見据え、“総コスト最小化”に取り組むことで、日本のものづくりは世界で再び高収益化できると私は信じています。
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