投稿日:2025年10月8日

塗装ブツ不良の主原因分析とフィルタリング・環境改善手法

はじめに:塗装ブツ不良と現場の悩み

塗装工程における「ブツ不良」は、製造業において避けて通れない品質課題の一つです。

せっかく下地から丁寧に仕上げた製品に、目に見える異物が混入し、外観不良として顧客クレームにつながる――。
工場の現場で20年以上、調達購買や生産・品質管理に携わってきた中で、ブツ不良と日々格闘するチームと幾度も向き合ってきました。

本記事では、ブツ不良の主原因の分析方法、具体的なフィルタリングや環境改善の実践的な手法、そして昭和的なアナログから令和の現場へと進化する中で取り残されがちな課題まで、現場目線と業界動向を交えて徹底解説します。

バイヤーや調達担当、またはサプライヤー側で現場改善を求められている方々、工場管理者の方々まで、幅広くご活用いただける内容です。

塗装ブツ不良とは何か?現象の全体像と現場のリアル

塗装ブツ不良とは、塗膜表面に粒状や斑点状の異物、また突起が発生する現象であり、その発生は外観品質を大きく損ないます。

自動車や家電、建材といった外観が重視される製品の分野では、ブツ不良があるだけで最悪の場合は全数返品、工程の再修正、納期遅延など甚大な影響が発生します。

現場でよくある悩みとして、
・どこから原因物質が混入したか特定できない
・一度拭き取っても再発生する
・計測値の異常は出ていないのに、なぜか局所的に発生してしまう
・改善活動をしても根本解決に至らない
などがあります。

この背景には、従来型の「作業員の目視」や「感覚頼り」の管理、さらには昭和的アナログ現場に根付いた習慣が大きく影響しています。

塗装ブツ不良の主な原因分析

ブツ不良の原因は多岐にわたりますが、代表的なものを構造的に整理すると次のようになります。

1. 環境要因:クリーン度と発塵源

塗装現場は、他工程と比較して「環境管理」が最重要の工程です。

現場でブツ不良が発生する場合、まず空気中の浮遊微粒子、発塵の源、湿度・温度異常が疑われます。

【主な発塵源】
・搬送台車や車輪、作業靴などの異物持ち込み
・静電気による吸着
・作業着の繊維クズや毛髪
・給気フィルターの劣化、清掃ミス
・工場建物自体の老朽化(天井、壁の劣化)

2. 材料由来:塗料・溶剤中の異物混入

塗料やシンナーの保存、運搬、撹拌工程で混入するケースも多くあります。

【よくある事例】
・材料貯蔵タンク、バットの洗浄不足
・撹拌時の攪拌羽根や容器のサビ、カス
・塗装ガンの先端詰まりやノズル内の異物滞留

3. 設備由来:配管・給気システムからの異物

長期運用中の塗装設備では、配管内部のサビ・劣化、エアーイジェクターやオイルミストも混入源となります。

【よくある配管トラブル】
・経年劣化による配管内部堆積物の剥離混入
・コンプレッサーエアのドレン混入(圧縮空気中の油・水)

4. 人的要因:作業者の動作ミスや意識不良

作業員の動線や持ち込み品管理の甘さ、習熟度のバラツキも、ブツ不良頻発の隠れた温床です。

【現場でよくあるアナログな課題】
・「つい靴を履き替えずにブースに入った」
・「髪がネットに収まりきらずに落下」
・「備品や部品を持ち込んで細かなホコリが飛散」

主原因の特定方法:現場で役立つ調査アプローチ

ブツ不良の主原因を的確に特定し、再発防止施策につなげるには「体系立った調査力」が不可欠です。

1. 過去データ・発生履歴の分析

いつ・どこで・どんな傾向で発生しているか、工程日報・品質記録をヒストグラムやパレート図にまとめます。

さらに、工程ごとの「どの仕掛品で頻発するのか」を時系列で可視化。

突然発生か、慢性的か、「特定シフト・特定材料切り替え時」に偏っていないかをチェックします。

2. ブツの顕微鏡観察と異物成分分析

付着ブツを直接回収、顕微IR、蛍光X線などでその物性や材質を特定します。

毛髪系か、プラスチック片か、金属粉か、繊維状か――。
現場の直感や思い込みではなく、「物性根拠」にもとづいて原因に迫ります。

3. 現場動線・作業環境のモニタリング

作業時間・人の動線・出入り口周囲・ブースの換気状態を、第三者的な視点(たとえば外部監査部隊)で可視化します。

動画記録や、ホコリ分布の可視化シートを使い「どのタイミング・場所で発生するか」を洗い出します。

4. テストワーク・工程分割実験

材料・設備・人の要素を1つずつ切り分ける実験も有効です。

一部工程のみを変えたトレーサビリティ管理や、「テスト板」を使って条件ごとの発生有無をチェックし、再現性を確認します。

ブツ不良の現場でのフィルタリング・設備改善手法

原因分析ができたら、次は日々の改善、すなわち「再発防止策」が現場の肝になります。

ここからは、現役工場長や設備エンジニアの経験者として、実際に効果が認められた手法・コツをご紹介します。

1. 給気・排気フィルタのグレードアップと管理徹底

塗装ブースに供給する空気のフィルターを、高性能(HEPAレベル、ULPAレベル等)へリニューアルするだけで、0.3ミクロンクラスの微粒子まで除去できます。

また、フィルター交換の定期管理は「現場の肌感覚」ではなく、差圧センサーや点検シール運用を徹底し、誰が見ても一目で交換時期が分かるようにルール化します。

2. 作業環境の静電気・温湿度管理

静電気は異物吸着の大敵です。
静電石英マットやイオナイザー(除電装置)を出入口や主要移動エリアに設置。
また、温度22~26度、湿度45~60%を基準化し、冷暖房設備や加湿機で微調整します。

3. 塗料・設備系統のフィルタリング洗浄

塗料タンクからガンへの配管系統に、10ミクロン以下の精密フィルターを設置し、定期洗浄をルール化します。

撹拌機やバット類も「週○回の分解洗浄および定期交換」を標準作業書に明記。
部材交換には必ず「前回交換日・次回予定日」を現場で掲示し、記録に基づいた管理を徹底します。

4. 作業員教育と持ち込み物管理の徹底

現場作業員には「なぜこのルールが必要か?」「自分の動作が不良発生確率にどう直結するか?」を具体的事例・動画解説などで伝えます。

さらに、作業区域の持ち込み備品全数をリスト化し、定常管理。
毛髪キャッチャーやコロコロテープの導入、着替えシステムの自動化も推奨です。

昭和のアナログ業界に根付く課題とデジタル変革の兆し

これまで、塗装ブツ不良の多くは「現場感覚」と「慣れ」で解決しようとしてきた部分が否めません。

ここに根強いのは「長年やってきたやり方がベスト」という心理と、KPI・データ管理の軽視です。

ですが近年、IoTセンサーや画像認識AI、現場の小型微粒子カウンターなど、新たな技術も現場レベルで導入が進みつつあります。

デジタル化の第一歩は、「現場のパラメーターを見える化」すること。
例えば、ブツ不良発生時の現場温度・湿度・気流・フィルタ差圧を自動記録する仕組みを作ることで、ヒューマンエラー由来の事故も減らせます。

また、AI画像検査の導入で「どのブツがどの工程、誰の作業タイミングで起きているか」を機械的・統計的に抽出できれば、解決スピードは格段に上がります。

まとめ:本質的な再発防止と現場文化の変革へ

塗装のブツ不良問題は「クリーン度の軽視」「現場任せ主義」「データ管理軽視」――こうした昭和型の発想を一皮むけて乗り越えることで、劇的な改善が実現します。

フィルタ交換や設備・材料管理などの「基礎徹底」に加え、「作業教育」「可視化・データ活用」など、現場文化そのものを進化させることが今や業界全体のテーマとなっています。

バイヤーの立場では、こうした改善姿勢・現場管理レベルをチェックポイントに据え、サプライヤー選定や監査に活用するのがポイント。

サプライヤー側は「自社がどれだけ現場起点で改善し、データドリブンな文化を持っているか」が今後、生き残るための競争力となります。

現場目線での実践的手法こそが、昭和から抜け出し令和の品質をつくる礎となるでしょう。

今後は定期的な工程監査と、異物発生分析の継続、そのための現場-管理層のコミュニケーション強化が欠かせません。

本記事で紹介したノウハウが、貴社の塗装現場改革の一助となることを祈っています。

You cannot copy content of this page