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熟練者の暗黙知に頼り不具合解析が進まない経営リスク

目次
はじめに:不具合解析が進まない現場の実態
製造業において、不具合やトラブルの早期発見・解決は企業の競争力を左右する極めて重要な要素です。
しかし、現場ではしばしば「ベテランの勘」や「経験則」が幅を利かせ、体系的な不具合解析や再発防止策の構築が後手に回ることが少なくありません。
特に昭和からの伝統を引きずる多くの工場で、暗黙知に頼り切った問題解決手法が根強く残っています。
デジタル化や自動化が叫ばれる現代において、熟練者の技が支えた現場力は確かに強みです。
ですが、「その人がいないと誰も分からない」「似たトラブルの際は、とりあえずあの人に聞け」という依存体制は重大な経営リスクとなり得ます。
本記事では、現場のリアルな視点から、なぜ不具合解析が属人的になりやすいのか、その問題点、そしてこうした状況を打破するための具体的なアプローチを掘り下げて解説します。
暗黙知に頼る現場の構造的課題
1. なぜ熟練者のノウハウは「可視化」されないのか
製造現場では、製品や素材ごとの微妙な違い、設備ごとのクセなど、マニュアルに落とし込めない「肌感覚」の情報が多く存在します。
こうした情報は、長年現場で培った経験の蓄積によって初めて直感的に扱えるようになるものです。
ベテラン作業者は「こうすれば大丈夫」「この時はここをチェックすれば良い」と説明しますが、なぜそうなのかをロジカルに説明することは意外と苦手、あるいは、そもそも整理されていないケースが大半です。
根本的な原因の特定が後回しになり、「再現性のある対策」はないまま現場が回ってしまいます。
2. 「過去の事例」がブラックボックス化するリスク
トラブル対応の歴史が膨大な故、「似たような事例はあったはず」と先輩に相談しがちです。
ですが、正確な記録やナレッジの体系化がない現場では、「誰が」「いつ」「どうやって」解決したかが曖昧です。
その結果、属人的な継承に頼る風土が形成され、「あの人がいなければ分からない」「前回の対応方法が継承されない」といったリスクが現実化します。
3. サプライチェーン全体に波及する課題
不具合に対する原因究明と対策が不十分だと、サプライヤーや下請けにまで波及します。
バイヤーの立場からは、「なぜこんな間違いが繰り返されるのか」「なぜルール化されないのか」と不満が生まれ、ビジネスの信頼性を損なう事態にもなります。
また、グローバル調達の時代では、工程や品質管理の標準化が取引条件となるケースが増えています。
暗黙知だけに頼る体制は、そのまま調達競争力の低下につながります。
なぜ属人化が経営リスクに直結するのか
1. 人材流出・退職に伴う「技術消失リスク」
熟練者が定年や転職で現場から離れると、重要なトラブル対応能力が一気に失われる可能性があります。
これは、いわば会社の「知的資産」の流出です。
新しい人材がゼロから経験を積むまでの間、現場の対応力が落ち、不適合品流出や納期遅延などのリスクが一気に高まります。
2. コスト増加・競争力低下につながる
属人的な対処しかできない場合、一時しのぎの応急対応が繰り返され、根本的な改善につながりません。
工数や材料のムダも増え、外部監査や顧客からの指摘で慌てて”泥縄”対処に追われがちです。
問題の本質理解と体系化が遅れ、他社との差別化ポイントを確立できないまま、価格競争に飲み込まれてしまう可能性も高まります。
3. 企業価値・ブランド信頼低下
品質問題や対応遅延が繰り返されると、取引先からの評価にも影響します。
事なかれ主義と属人対応が長引くと、「あの会社はいつも同じ問題を指摘している」「継続的な改善が進まない」と取引解除・受注減の事態に直面しかねません。
結果的に、会社全体のブランド価値も毀損されることになります。
昭和型現場文化と向き合う──なぜDX化が進まないのか
1. データ活用・DXへの心理的抵抗
現場主導の改善活動には価値がありますが、「データやシステムは現場の実感とは違うもの」という心理的な壁も根強く存在します。
熟練者はExcelや手帳、ノートなどで知見を管理しがちで、ITツール導入の説明をしても「面倒」「どうせ現場では役立たない」と敬遠されがちです。
2. システムと現場実務の乖離
導入された品質管理システムや不具合管理ツールが、現場の運用や実態にフィットしていないと結局使われません。
「現場のリアル」をキャッチアップできないまま「システムのための記録作業」になるため、入力作業もおざなり。
結局、深い原因はベテランの頭の中にしかなく、本質的なノウハウ共有につながらない悪循環に陥ります。
イノベーションへの転換点:暗黙知の「形式知化」に向けて
1. 日々の「気付き」を可視化するプラットフォームの整備
まず、現場で日々起こる小さなトラブルや違和感、気付きの記録を仕組み化することが大切です。
スマートフォンやタブレット端末を使った「現場報告アプリ」、音声入力や写真によるトラブルレポート作成など、既存の現場業務にストレスなく組み込める情報共有のプラットフォーム導入が有効です。
重要なのは、「失敗や不具合を責めない」「現場からの”生の情報”を歓迎する」文化作りとセットで運用することです。
2. 熟練者と若手の「共創」によるナレッジ化
ベテランの経験を一方的に書き出すのではなく、若手や異部門のスタッフと対話しながら、具体的な作業手順やトラブルパターンを「なぜそうするのか?」と問い直すプロセスが効果的です。
たとえばQCサークル活動やクロスファンクショナルなワークショップで、直近のトラブル例をケーススタディとして取り上げ、問題解決のロジックと現場ならではの対応ポイントを紐解きながら「形式知」としてまとめていきます。
3. 不具合解析の標準化プロセス構築
トラブル発生時は、「5W1H」「なぜなぜ分析(5Why)」などのフレームワークを現場標準として導入します。
重要なのは、「再発防止策」「標準作業のアップデート」「現場教育への反映」まで一貫して管理するルール作りです。
これにより、都度ごとに属人的な判断・処置が繰り返されることを抑えられます。
調達・サプライヤー、現場を結ぶ風土改革の具体策
1. バイヤーと現場の「共通言語化」
調達担当と現場担当、サプライヤーがそれぞれ別の立場で現場を見るのではなく、不具合や改善ポイントを、定量的なデータ+定性的な現場目線で共通言語化することが重要です。
月例の品質会議や工程パトロールなどで、トラブルの「見える化」と「根本原因の解説」をセットにし、部署横断でナレッジ共有する仕組みを整えます。
2. サプライヤーとのオープンな情報共有
品質問題の経緯、対応プロセス、再発防止策をできる限りオープンに公開し、双方向のナレッジ蓄積に努めます。
「取引先だから教える」「外部だから隠す」というクローズドな姿勢ではなく、長期的なパートナーシップ構築のために、「現場の課題」「調達の課題」を率直にディスカッションできる場を設けます。
3. 新しい世代への働き方改革・キャリアパス提示
属人化の温床は「現場の匠が永遠に残る」ことに依存していますが、現実には人材の流動化、多様なキャリア志向の若手も増えています。
「トラブル対応=現場のブラックボックス」ではなく、「ナレッジを数値・グラフ・手順化することこそが次世代リーダーへの成長ルート」として捉え、若手の役割と成長イメージを設計しましょう。
まとめ:暗黙知依存の壁を乗り越えるために
製造業の根底を支えてきた「現場力」は間違いなく日本産業の強みです。
ですが、過度の熟練者依存と現場のブラックボックス化は、これからのグローバル時代・自動化時代を生き抜く上での足かせになります。
不具合解析や問題解決の属人化を脱却し、現場起点の知識・ノウハウを「見える知」として蓄積・共有することが、経営リスクを低減し、ひいては調達サプライチェーンの価値最大化につながります。
バイヤーとして現場を深く知る努力、サプライヤーの立場から本質的な対策力を磨く意識、そして企業全体でのナレッジマネジメント文化の浸透——これらを一歩ずつ積み上げていくことが、昭和から令和に向けて製造業が進化するための最重要課題です。
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