情報の属人化で経営者が現場を把握できない問題

情報の属人化で経営者が現場を把握できない問題

はじめに：属人化が製造業にもたらすインパクト

製造業の現場では、情報の属人化が根強く残っています。

現場で得られる知識やノウハウが特定の担当者やベテラン社員に依存しがちで、それが経営層の意思決定や、現場全体の生産性に大きな影響を及ぼしています。

経営者として現場を正確に把握できないと、的確な判断ができず、競争力を失う可能性も高まります。

本記事では、実際の現場目線から属人化の問題点を深掘りし、昭和から続くアナログな業界慣習が現在も与えている影響、そして解決に向けた新たなアプローチについて詳しく解説します。

属人化とは何か？

属人化とは、業務に必要な知識や情報、ノウハウが特定の個人に依存してしまう状況を指します。

たとえば、「あの作業工程は○○さんしか分からない」「重要なサプライヤーとの調整は△△部長にしかできない」といった場面が、製造現場では頻繁に見られます。

特に調達購買部門や生産管理部門では、10年20年と働くベテラン社員が重要な情報を一手に握り、その内容が見える化されていない場合が多いです。

なぜ製造業は属人化しやすいのか

それにはいくつかの理由があります。

まず、職人的な技術や独自の調達ルート、サプライヤーとの人間関係など、長年の経験に基づく“暗黙知”が多いのが特徴です。

さらに、昭和時代から続くアナログ文化も拍車をかけています。

エクセルや紙の帳票、手書きの日報など、IT化が進みにくい背景があります。

そのため、情報の共有やシステム化、標準化が進まず、現場のリアルな状況は個人の中に閉じ込められてしまうのです。

情報の属人化が招く経営リスク

属人化には次のようなリスクがあります。

現場の生産性やクオリティのばらつきが大きく、経営者が実態を把握できません。

例えば、あるベテラン社員が突然退職・病欠した場合、その人しか分からない工程や取引先との付き合い方が分からず、業務が大幅に停滞することもあります。

また、不正や誤魔化しが見逃されやすくなります。

現場責任者が「このぐらい大丈夫」といった属人的な判断を繰り返すと、小さなトラブルが積み重なり、それが経営レベルの損失に直結する危険性もあります。

現場が情報を出さない背景には何があるか

現場の担当者が自分だけ情報を握っている状態に安心感を持つことが少なくありません。

「このノウハウがあるから自分の立場が守られている」「自分がいないと現場が回らない」という気持ちが、情報の共有・標準化への抵抗感につながっています。

また、企業側も「職人技」という言葉を都合よく使い、人材流出防止のため暗黙知の共有を怠りがちです。

古き良き時代の現場文化や、上司からの「昔からこうしてきた」という圧力も原因のひとつです。

バイヤー・サプライヤーの立場で見える属人化の問題

調達購買の現場では、バイヤーに情報が集中しがちです。

仕入れルートや価格交渉のノウハウ、品質トラブル対応などが一部の社員だけに依存すると、全体最適が図れません。

サプライヤー側に立つと、「発注元の担当者が変わるたびに交渉スタンスや優先順位がコロコロ変わる」といった事態に悩まされることがあります。

顧客との信頼関係も、属人的な状況では築き直しが難しくなります。

両者ともに共通するのは、“組織の仕組み”が機能していないために、せっかくのwin-win関係が築けないことです。

経営者が現場を見えなくなる負の連鎖

経営者や管理職が見ることができる数字や帳票は、現場の表層でしかありません。

属人化が進むと、“現場のリアル”はさらに遠くなります。

例えば、不良品発生率が一見低いまま報告されていても、現場ではヒヤリハットが頻発している場合、「帳票上の安心感」が未来の大問題を覆い隠してしまいます。

このように数字管理だけでは気付けない“サイレント障害”が、大きな損失やトラブルにつながるのです。

デジタル化・システム導入の落とし穴

最近はDX（デジタルトランスフォーメーション）やIoT、ERP導入が盛んですが、形だけ導入して属人化を放置したために失敗するケースも多いです。

システム導入前に現場ヒアリングを徹底しないまま、経営者目線で「とりあえず導入」が進むと、逆に現場のブラックボックス化が進みます。

また、属人化した情報がデジタル化をきっかけに一層“担当者のパソコンの中だけ”になり、他のメンバーがアクセスできない、活用できないなどの新たな弊害も見られます。

属人化を脱却するための現場主導のアプローチ

問題を解決するには、現場を主役に「見える化」「標準化」「共有化」を進めていくことが重要です。

単純な手順マニュアル作成だけでなく、ナレッジ共有会やクロストレーニング（多能工化）、kintone・ナレッジベースなどツールの活用もポイントになります。

重要なのは経営者や管理職が「現場の声」を丁寧に拾い上げ、一緒に課題を発見し、解決していくプロセスに現場メンバーを巻き込むことです。

例えば、週次で業務プロセスの問題点や気付きを発表する会議を設定し、小さな改善を積み重ねることで、現場の属人化から脱却する下地ができます。

中小〜大手メーカーでの成功事例・失敗事例

実際、中小メーカーでは「見える化」「標準化」へ積極的に取り組んだことで個人依存が減り、新たな人材育成やサプライチェーン強化につながった事例もあります。

一方、大手企業でも、表面的なシステム導入だけで「みんながシステムを使いこなせない」「相変わらず“△△部長に聞かないと分からない”」といった属人化の構造が温存されているケースも見受けられます。

ラテラルシンキングで考える属人化解消の新たな視点

属人化を組織文化の一部ととらえ、いきなり否定するのではなく“強み”として活用する戦略もあります。

例えば、ベテラン社員の暗黙知を「職人オンボーディング」のプログラムに組み込む、業界外の人にも伝わるようアニメーションや動画でデジタルライブラリ化するなどです。

また、「若手とベテランのペアプロジェクト」を制度化し、OJTでは得られない深いノウハウ継承を実践できる環境を用意することも新たな方法です。

サプライヤーも巻き込んだカイゼンワークショップや、Win-Winな情報共有システムを構築するなど、バイヤー・サプライヤー双方の属人化解消に向けた新しい連携も今後注目されるべき分野です。

まとめ：属人化と向き合い、現場力を最大化する

情報の属人化は、製造現場の伝統や文化、またはIT化の遅れによって根強く残ってきた構造的課題です。

しかし、そのまま放置していては経営者が現場を把握できず、意思決定の質やスピードが大幅に損なわれるリスクがあります。

最も大切なのは、現場で生きるノウハウの価値を尊重しつつ、チームや組織全体にどうやって再現・共有・標準化していくかという姿勢です。

これからの製造業は、属人化の“陰”だけでなく“陽”を見極め、現場力を最大化するための新しい知恵と手法が求められています。

現場に深く根付いた課題であればあるほど、そこに挑戦する価値が生まれ、真の競争力強化につながります。

情報の属人化に悩む皆さんが、一歩先を行く現場改革をスタートできることを願っています。