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「俺の経験がすべて」とする管理職が若手を追い出す現実

目次
「俺の経験がすべて」とする管理職が若手を追い出す現実
はじめに:日本の製造業が抱える本質的な課題
長年、日本の製造業界は「現場の叡智」と「経験の蓄積」に支えられて発展してきました。
戦後の高度成長期を支えたのは、熟練技術者たちの圧倒的な知見や泥臭い現場作業の積み重ねでした。
しかし、令和の時代となった今、「俺の経験がすべてだから」と現場で発言するベテラン管理職の姿が少なくありません。
この言葉が、実は若手の離職の大きな引き金となり、業界全体の停滞につながっている事実に、どれだけの方が気づいているでしょうか。
本記事では、製造業に長年勤めた現場視点と管理職経験両方の立場から、「昭和的価値観」による負の側面と、これからの製造業の現場に必要な視点について論じます。
「俺の経験がすべて」発言が生まれる背景
まず、「俺の経験がすべて」と主張する管理職がなぜ生まれるのでしょうか。
代表的な背景は以下の通りです。
- ピラミッド型の年功序列社会による絶対的な上下関係
- 現場での「一子相伝」的な技能継承文化
- 失敗を許さない、不寛容な会社風土
- 過去の成功体験が現在もそのまま通用すると信じている
これらは長い歴史の中で培われた「安心」と「誇り」の裏返しでもありました。
特に不確実性が高い時代には、過去の成功体験に縋る心理が強まるのです。
ですが、現代の製造業を取り巻く外部環境は激変しています。
グローバルサプライチェーンの再編や、AI・IoT・自動化など新たな技術革新が続き、従来の「俺の経験」だけでは立ち行かなくなる場面が増えているのです。
若手のモチベーション低下と「内なる出社拒否」現象
実際の現場では、ベテラン管理職の「俺の時代はもっと厳しかった」「俺のやり方が標準だ」といった発言を受けて、若手が主要プロジェクトや意思決定から排除されるケースが目立ちます。
特に次のような状況が多く見受けられます。
- やりがいを感じる業務に携われない
- 提案や意見を出しても頭ごなしに否定される
- 新しい技術や方法を試す機会がない
- 「自分らしさ」を出せる場が極端に少ない
その結果、「この職場で意見しても無駄」「どうせ最後は昭和のやり方に戻る」といった諦めの気持ちが根付いていきます。
優秀な若手ほど見切りが早く、転職や退職を選ぶ、あるいは「内なる出社拒否」とも言われる<形だけの出勤>(実質モチベーションゼロ状態)に陥るのです。
製造業現場に残るアナログな”昭和的風土”
では、「俺の経験がすべて」と主張する管理職が、なぜこれほど残り続けているのでしょうか。
ひとつには、製造業自体が非常に「アナログな文化圏」である事実があります。
- 紙ベースでの作業指示、承認文化
- 感覚値や職人芸に依存した品質管理
- 暗黙知・属人化によるノウハウの囲い込み
- Digital Transformation(DX)の遅れ
たとえば、調達購買の現場では、取引先との価格交渉も「長年の勘」や「顔馴染みだから」の一言で決まるケースが散見されます。
生産管理や品質管理でも、データよりも「長い経験」「上の人の目利き」に重きが置かれ、トラブル対応も属人的に動いてしまうことが多いものです。
このようなアナログ文化では、「俺の経験」の占めるウェイトが自然と大きくなるため、若手はどうしても実務の脇役、サポート要員に収まりがちです。
時代と逆行する「経験至上主義」のリスク
「経験則」は過去から現代までの現場知であり、確かに重要な資産です。
しかし、「経験則」を絶対視し、他者を押しのけるような態度は、次のようなリスクをはらみます。
- 変化に適応できない組織体質となる
- 革新的な発想や業務改善が生まれづらい
- 「今しか通用しない技術・文化」への固執
- 若手の離職増加による人材の枯渇
特に調達購買やグローバル製造の現場では、市場価格の急変やサプライヤーの海外流出、新法規への対応など、「昨日まで有効だった知識が明日には古びる」場面が増えています。
ここに「経験則しか知らない」「新しい知見を受け入れない」管理職がいると、スピード感のある業務改善や緊急対応ができなくなります。
以上の要素から、昭和型経験至上主義のマイナス影響は年々強くなっているのです。
バイヤー、サプライヤーの両視点で見た「経験主義」の限界
調達購買のバイヤー視点からすると、取引先選定や価格交渉で、過去の「御用達」サプライヤーだけを重視するスタイルは、リスク管理や多様化の観点で早晩限界が来ます。
逆に、サプライヤー側から見れば、「古くからの慣習」「御用聞き」の一辺倒では、成長力ある顧客を開拓できず、競争優位性も失われていきます。
いかにして「バイヤーの考えを先回り」し、「御用達」の安心感に頼らず、論理的根拠やパフォーマンスデータを元にした提案ができるかが、今後サプライヤーにも求められるのです。
若手バイヤーや生産技術者の視点や反論を受け止め、それを新しい武器に変える柔軟さこそが、両者の発展に欠かせません。
新たな現場力を引き出すために今やるべきこと
このような問題に真正面から立ち向かうため、以下のような取り組みが製造業には不可欠です。
- 失敗を恐れずにチャレンジできる職場風土の再構築
- OJTで「やり方」だけでなく、「なぜ」を重視した教育
- 現場への権限移譲と、若手の意見を受け止める仕組み作り
- DX(デジタル変革)の推進によるデータ化・見える化
- 暗黙知の形式知化(ナレッジ共有)の徹底
実際、私が工場長を務めた際には、ベテランと若手による「業務改善提案チーム」を立ち上げ、「失敗事例こそ今後の資産」と位置づけ、オープンに議論できる場を月2回設けていました。
はじめはベテラン側も煙たがりましたが、やがて「若手の着眼点の鋭さ」「ITツールの活用事例」などで目を見張るものが生まれ、意識改革が現場に定着していきました。
「俺の経験」を超える新たな競争力を身につける
これからの製造業現場では、「経験」だけでなく、データ活用力、ITリテラシー、グローバル視点、そして多様な価値観の受容力が組織の持続的成長を左右します。
ベテラン管理職には、「経験」を自分だけの資産にせず、組織全体が使いこなせる抽象化・体系化の力が強く求められます。
若手には、既存のやり方に疑問を持つことを恐れず、粘り強く意見発信を続け、新しい価値を現場で体現してほしいのです。
そして、バイヤーとサプライヤーの両立場の相互理解を深め、「現場起点の適応力×最新テクノロジー」という掛け算で、業界の新たな地平を切り拓く人材こそが求められています。
まとめ:未来の製造業は「経験の閉鎖」から「知識の開放」へ
「俺の経験がすべて」とする管理職が残す傷跡は、決して小さくありません。
失われた若手の才能、停滞する組織風土、抜け出せない昭和的アナログ文化は、今こそ断ち切られるべきです。
製造業の現場は、「俺の経験」一辺倒では未来を切り開けません。
多様な知見や価値観を集約し、「今ここでどう変われるか」を問い直す勇気が、全てのバイヤー・サプライヤーそして現場を進化させる鍵になります。
読者の皆様が、ぜひ現場目線で、自分や組織の「固定観念」を問い直し、「知識の開放」に踏み出す一助となれば幸いです。
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