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リスキリング対象者の選定を誤った製造業の後悔

目次
はじめに:リスキリングが求められる製造業の現状
ここ数年、製造業の現場には「リスキリング(再教育)」という言葉が強く根付いてきました。
AIやIoT、ロボティクス技術の導入など、第四次産業革命の波が押し寄せるなか、従来のやり方では立ち行かなくなった現場が増えています。
一方で、未だに「昭和的なアナログ作業」や、「勘と経験」が重視される土壌も残っているため、その過渡期ならではの混乱も顕著です。
今回は、リスキリングの対象選定で誤った判断をしてしまった製造業現場の“後悔”を深く掘り下げながら、現実的な課題や今後の指針について、実際の現場経験と専門性を交えて詳述します。
製造業に勤める方、これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの考えを知りたい方にとって、新しい視座を提供することを目指しています。
なぜ今、リスキリングが不可欠なのか
デジタル化による仕事の変化
製造現場とデスクワークの境界は曖昧になりつつあります。
これまで現場の職人技で支えられてきた工程ですら、IoTによる情報収集や、生産管理の自動化ソフトウェアで効率化される時代になりました。
多品種少量生産への対応、サプライチェーンの最適化、省人化・省力化の流れの中では、デジタルツールやAI、データ分析の知識は新たな必須スキルです。
人材不足と高齢化の二重苦
若年層離れや経験者の退職により、現場には大きな世代ギャップが生じています。
その中で、単純な「人手不足」解消を目指すのでは解決できない課題が山積しています。
リスキリングは、年齢や職種を問わず、現場全体の底上げや世代間の知識ギャップの解消にもつながる取り組みです。
リスキリング対象者の選定プロセスの“落とし穴”
よくある誤解:「若手や中堅にだけ任せれば良い」
多くの企業では、リスキリング対象者を「今後の担い手」や「デジタルネイティブ世代」から選ぶことが一般的になりつつあります。
年配者は「新しいことより、今まで通りのやり方で十分」と考えているか、あるいは「もう大きな変化についていけないだろう」と早々にリストから外されるパターンが目立ちます。
しかし、それは見過ごせない落とし穴です。
現場の“暗黙知”や、熟練作業者の高いノウハウをデジタル化に活かさなければ、業務の本質や品質が損なわれることさえあります。
バイヤー・調達担当者も同様の勘違いに陥りやすい
調達購買やサプライヤー管理など、いわゆる“間接部門”でも同じ現象が見られます。
「業務の標準化・システム化が進むとベテランの経験は不要」と考える向きもありますが、現場に根付いた課題やサプライヤーとの信頼関係は、一朝一夕で得られるものではありません。
リスキリングの推進は、「誰を選ぶか」で大きな差が出るのです。
実際の“後悔事例”から学ぶ:選定ミスが招く現場の混乱
ケース1:熟練現場作業者の排除で品質低下
筆者が以前関わった工場では、IoT機器と新しい生産管理システムの導入時、若手だけにリスキリング研修を集中させる方針をとりました。
結果、「機械に頼りすぎた冒険」が目立ち、ラインエラーや生産ロスが増加。
熟練作業者の勘による微調整やトラブル対応の“引き出し”が活かされず、品質の安定が損なわれてしまいました。
後になってから、彼らの知識をデジタル化や標準作業書に反映すべく、追加で教えを乞うことになり、手戻り・コスト増を招いたのです。
ケース2:調達バイヤーの経験無視によるコスト増
購買部門でも同様の後悔があります。
新しい購買管理システム導入で、デジタルネイティブな若手に運用責任を任せたところ、サプライヤーとの価格交渉や、イレギュラー発注時の対応力の低下が目立ちました。
熟練バイヤーは“顔がきく”サプライヤーとの絶妙なやり取りで納期短縮・コスト減を実現してきましたが、デジタルツール偏重の若手はルールに縛られすぎて柔軟な対応ができなくなってしまったのです。
結果的に、ベテランがピンポイントで呼び戻される場面が続出し、現場の疲弊とモラール低下にもつながりました。
ケース3:サプライヤー視点での“温度差問題”
サプライヤー側としては、バイヤーや工場側が一方的にデジタル化・リスキリング人材を若手中心に据えることに、強い違和感を持つことが増えています。
昭和的な“人情”や“電話一本”の世界が残る取引現場では、いかにスマートなツールを使いこなせても、肝心の現場感覚や信頼醸成がなければ案件が進まない。
サプライヤーとしては、誰が意思決定者か分かりにくくなり、現場での多重コミュニケーションが発生し、納期や品質でトラブルになりやすいです。
本質的なリスキリング対象者選定のポイント
単なる「世代論」では不十分
リスキリングは「若手だから学ぶ」「ベテランは今さら必要ない」といった世代論に陥ってはいけません。
実際には、現場のプロセス・仕様・“暗黙の了解”を体現してきたベテランと、新しいテクノロジーを受け入れる素地のある若手、それぞれの特徴を賢く組み合わせることがベストです。
現場固有の“知の再定義”が不可欠
製造現場、特に高品質なものづくりや高度な調達交渉では、「見えないスキル」「作業の質」「現場カン」が重要です。
リスキリングを進める際には、対象者の選定にあたって現実の業務を俯瞰し、その現場にしかない知識・ノウハウを新しい技術や標準化作業へどう落とし込むかが決定的なカギとなります。
異なる立場同士の“橋渡し”役を育成せよ
昭和的な現場感覚と、現代的なテクノロジー知見が乖離している場合、その間をつなぐ“通訳役”がいなければ、リスキリングの効果は半減します。
現場経験のある管理職や、両方の世界観を理解できる中堅層を橋渡し役とし、双方の知見を正しく咀嚼・伝達できる体制作りが極めて重要です。
これからリスキリングを再設計するための提言
1. 多様性を意図的に確保した対象者選定
技術・経験・役割など、複数軸で候補を洗い出し、若手・ベテラン、現場・デスク、バイヤー・サプライヤーなど幅広い層をバランスよく組み込みましょう。
現場主導型の「シャドウイング」や「知見共有型ワークショップ」など、異なる立場の視点交錯を前提としたリスキリングプログラムが有効です。
2. 学習内容の“現場ローカライズ”
汎用的なデジタル教育やツール導入だけでなく、自社現場の工程や課題に即した内容にカスタマイズすることが不可欠です。
ベテランのノウハウを、業務マニュアルやデジタルトレーニングの中に積極的に織り込みましょう。
「現場の困りごと」を直接反映させ、机上の空論に終わらない内容設計が再発防止のポイントになります。
3. 持続的フォローと評価仕組みの工夫
一時的な研修で終わらせず、実際の現場で活用されているかを追い続ける評価システムも大切です。
たとえば、リスキリング成果を現場KPIや品質指標に反映させたり、異動後の活躍状況を管理する仕組みを導入しましょう。
ベテランと若手がペアを組みながら切磋琢磨する“リバースメンタリング”も有効な取り組み例です。
まとめ:リスキリング対象者選定の失敗から学ぶべき視点
リスキリングの対象者選定を誤ると、コスト増・品質低下・現場の不信感など、大きな“後悔”を招いてしまいます。
世代や職種だけに囚われず、実際の現場で誰がどんな暗黙知を持ち、どのような形で新技術や新体制に貢献できるかを見極める力が重要です。
これからのものづくり現場は、多様な知見を縦横無尽に組み合わせ、時代と現場をつなぐ新しい人材像を設計することが求められています。
昭和から令和への過渡期を生きる製造業現場だからこそ、伝統と革新の“橋渡し役”を見逃してはなりません。
バイヤーを目指す方もサプライヤー側も、表層的な肩書だけでなく、「現場の知」「人の温度」まで意識を広げて、真の競争力と現場満足度の向上を目指しましょう。