投稿日:2025年10月21日

製造業が商品企画で陥る「技術過多」の罠とユーザー志向への転換法

はじめに:現場視点で見つめる「技術過多」の罠

製造業の多くは、高度なテクノロジーや新しい機能を追い求めるあまり、ユーザーが本当に望む価値や課題解決から目をそらしてしまうことがあります。
これがいわゆる「技術過多」の罠です。

特に日本の製造業には、昭和の高度成長期から続く「いいモノをつくれば必ず売れる」という文化が根付いています。
これはまさに現場が誇る技術力の結晶であり、日本の産業を牽引しました。
しかし令和の今、顧客志向・市場志向への本質的な転換なくして、グローバル競争を勝ち抜くのは難しくなっています。

この記事では、20年以上現場に身を置き、調達購買・生産管理・品質管理・工場自動化に携わってきた筆者が、現場目線で「技術過多」の何が問題なのか、陥りやすい原因、そしてユーザー志向にどう転換していくべきかを掘り下げます。
実例や業界の慣習、現場マネジメントの視点も交え、読者が自社の商品企画・技術開発を見直すヒントとなる内容をお届けします。

「技術過多」の本質と現場がはまりやすい理由

なぜ製造業では技術志向が強くなるのか

製造業の現場には、腕の良い技能者やエンジニアが数多くいます。
ものづくりそのものが大きなやりがいで、「いいプロダクトを作って世の中に価値提供したい」という思いが強いです。

しかし一方で、「お客様はこの新技術にきっと驚くだろう」「競合を出し抜くにはスペックの高さが必要だ」という考えが先行しがちです。
この結果、「〇〇の新方式」「△△の新素材」といった技術自慢の商品開発に傾いてしまいます。

このような現場文化は、じつはバイヤーにもサプライヤーにも共通しています。
高度な技術や工程をアピールすることで、安心感や信頼感を与えられるためです。

「いいモノ=売れる」昭和の成功体験が生み出す落とし穴

昭和の時代、日本の工場は「品質第一・高精度・高耐久」を両立した製品で、世界市場を席巻しました。
トヨタ、ソニー、パナソニックなど、技術で勝った企業が続々と現れました。

しかし情報化社会となった現在、ユーザーのニーズは多様化し、「単に品質がいい」では満足されません。
昭和の成功体験への強い執着が、現場を技術過多へ誘う心理的な土壌となっています。

現場の「説明責任」と“細かすぎる”技術訴求

厳格な品質保証やサプライチェーン全体のトレーサビリティへの対応が求められる現場では、どんどん製品仕様や技術資料が細分化されます。

これが「製品説明のために分厚い仕様書をつくる」「わずかな仕様違いごとに新製品を設定する」といった、『やりすぎ仕様』につながります。

たしかにBtoBの場合、十分な技術情報が必要です。
しかし、「エンドユーザーがそこまでの仕様を求めていない」「値下げ交渉や納期短縮だけが重視される」現実も多いです。
現場にいると、どうしても技術スペックや工程説明にこだわるあまり、ユーザー本位の視点が置き去りになるリスクがあります。

技術過多がもたらす具体的なリスクとその事例

1. 開発が長期化し、コストが増幅

先端の技術や特殊な仕様を組み込むと、開発期間が長くなり、人件費や試作費がかさみます。
設計変更が発生すれば、部品コストや在庫も膨らみます。

ある産業機器メーカーでは、ユーザーが「もっと軽量で安価なモデル」を求めていたにも関わらず、競合他社に勝つために超高耐久仕様を追加。
結果、開発が3年に及び、発売時には市場ニーズがシンプルモデルに移行していたという失敗もあります。

2. 誰のための「付加価値」か分からなくなる

優れた技術は大切ですが、「マーケットに評価される価値=売れる価値」とは限りません。
現場では「この技術は他社にない!」と自信満々でも、ユーザーはその凄さを認識していないことも多いです。

たとえば建築資材の業界では、「過剰な耐候性」「加工性の極端な向上」など、現場ニーズ以上のスペック競争が起きています。
その技術のコストアップ分を、ユーザーは受け入れていません。
ここで「自己満足の付加価値」をつけてしまっては、売れ残りやコストダウン要請のリスクを抱えることになります。

3. ニッチ化、ブラックボックス化することで組織が硬直化

独自技術や特殊工程を究めすぎると、社内でもその技術を扱える人・組織が限られてしまう現象が起きます。
結果として、外部からの人材登用やイノベーションが生まれにくくなり、自社だけの“鎖国”体制に陥りがちです。

また「この技術力があれば営業やマーケティングは要らない」と考え、マーケットイン志向のスタッフが活躍しづらい空気になることも大きな問題です。

ユーザー志向への転換:現場からできるアプローチ

1. 現場主導で「ユーザーインサイト」を拾い上げる

多くの製造業は、「お客様のことは営業やマーケティングに任せる」という悪しき縦割り文化があります。
しかし現場と技術者こそ、設計段階や試作段階で直接ユーザーの困りごとや不満を目にできる場面が多いです。

たとえば、顧客工場の立ち会い納品時に「現場の作業者が本当に困っている点」を観察し、日報や技術ノートでそれを記録します。
そしてその知見を、社内報告や次回商品の仕様検討にフィードバックする仕組みを作りましょう。

実際に私が現場マネジメントしていた工場でも、技術者が納品先の現場事務所でヒアリングした「荷姿の使いづらさ」や「保守担当者の不満」が、次モデルのヒット仕様につながった経験があります。

2. 調達バイヤーの視点と、サプライヤーとの共創を活かす

調達バイヤーは、「製品コスト」「納期管理」「安定供給」だけでなく、時にエンドユーザーや販売現場の情報も握っています。
この調達バイヤーの視点を商品企画や技術開発に活かすことが、現場型のユーザー志向には不可欠です。

またサプライヤーは、自社だけでなく他社製品や似た業界のトレンドを肌で感じています。
調達の現場とサプライヤーが“技術談義”ではなく“ユーザー課題”から共に考える共創ミーティングを定期的に設けることで、現場が直面するリアルな困りごとを製品仕様に反映しやすくなります。

3. 目先のスペックより「使い続けてもらえる価値」へフォーカス

商品企画や開発では、「競合他社に勝つためのナンバーワン仕様」を目指しがちです。
しかしユーザーが求めているのは、「長く愛用できる安心感」「現場でストレスが少ない設計」など、自分の業務や生活に溶けこむ価値です。

現場では、「他社製品より+5%軽くする」などの小さな技術進歩よりも、「汚れがとれやすい」「消耗部品の調達がしやすい」「マニュアルが分かりやすい」といった、使う人本位の改善ポイントに注力するのが本質的です。

4. DX時代のスタートアップ的発想を部分導入する

特にアナログが強い日本の製造業では、「完全なデジタル化」や「サービス化(XaaS)」の導入に躊躇しがちです。
しかし小さな部分からでも、ユーザーとつながりやすい仕組みは構築できます。

たとえば、「ユーザーから製品フィードバックを集める簡便なアプリ」「QRコードで現場作業者による保守記録の共有」など、“技術一辺倒”から脱して“顧客体験”を価値に転換する方法を模索しましょう。

これらのシステムづくりには現場も巻き込み、自分ごと化することが成功のカギです。

まとめ:現場が変われば、会社が変わる

製造業の技術過多は、日本が積み重ねてきた誇るべき財産から生まれたものです。
しかし「技術があるから作る」から、「ユーザーが求めているから作る」へ、本当の意味でのパラダイムシフトが求められています。

調達バイヤーもサプライヤーも、現場で日々課題と向き合っている人材こそが、この転換の原動力です。
目先の技術やスペック競争にこだわりすぎず、ユーザーと一緒に“使い続けてもらえる価値”を創造すること。
これが古き良き日本の現場力に、令和時代の強い競争力を加える一番の方策です。

現場を知り、汗を流し、変化にしなやかに対応する。
そんな製造業現場の底力で、技術過多の罠から脱し、真のユーザー志向を実現しましょう。

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