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熟練工の勘頼みで品質ばらつきが出る製造業の危機

目次
はじめに:昭和の伝統と令和の現実
日本の製造業といえば、かつては「世界一緻密で高品質」という称賛を一身に集めてきました。
その原動力となったのは、現場で汗を流す職人たちの圧倒的な技術力と勘の鋭さでした。
しかし、時は移り令和。
AIやIoTなどの先端技術が次々と導入されていますが、いまだ現場が「熟練工の勘頼み」に留まっているケースが多いのが現状です。
この熟練工の勘と経験に依存したものづくりは、本当に、この先の時代も持続可能なのでしょうか。
本記事では、製造現場のリアルを徹底的に洗い出し、業界の抱える課題と今後の打開策を考えます。
熟練工の勘とは何か?神話化された現場力
「昔は全部、人の手と目でやっていた」
「〇〇課長の“音”で不良品を見抜いていた」
昭和から平成にかけて、何度となく耳にしたフレーズです。
事実、長年の経験や五感を駆使して仕上げや調整をおこない、コンマ何ミリ単位の精度も常に保ってきた熟練工の力は尊いものです。
しかし、この「勘」と「経験」に裏打ちされたプロセスは、往々にして属人性が高く、標準化が難しいという負の側面も持っています。
なぜなら、何を「感覚」でとらえ、どういう思考プロセスを経て判断しているのか、可視化や再現、さらには教育がしづらいからです。
また、高度経済成長期は、現場一体で技を伝承し人を育て、失敗もコストとして企業が吸収可能な“余裕”がありました。
しかしグローバル化が進み、コストや納期圧力が強まった現代においては、「勘頼み」だけでは通用しなくなっているのが現実です。
勘頼みが品質ばらつきを生む具体的なメカニズム
現場ではなぜ「熟練工の勘」に依存すると品質ばらつきが生まれるのでしょうか。
ここでは、よくある三つの例で解説します。
1. 微妙な温度・圧力調整の属人性
例えば、金属の熱処理やプレス成形・溶接など、多くの工程は“最適条件”が紙上の標準手順のみでは表現しきれません。
現場では「この音が出たら温度が高すぎる」「この手応えになったら少し圧力を落とす」など、先輩から後輩へ個別に伝承された“経験則”が支配しています。
ところが、同じやり方を新人に教えたとしても、個人差が大きく、細かいニュアンスを完全コピーできません。
このため、出来栄えに毎回差が出て、品質ばらつきにつながります。
2. トラブル時の対応力の非標準化
設備異常や材料トラブルが発生した場合、熟練工は“いつものパターン”や“直感”で柔軟に対応できますが、スキルが未熟な従業員はマニュアル通りにしか動けず、過剰対応や判断ミスが起こりやすくなります。
特に夜勤帯や連続操業中、経験豊富な人材が不在のとき、こうした“現場力”のギャップが顕著に露見します。
3. 検査・帳票のアナログ管理による情報ロス
「基準から外れてなければ問題ない」「見た目でOKなら合格」
昭和スタイルの現場では、検査結果の記録や工程内データの管理もノートや口頭、エクセルの個人管理に依存している場合が多いです。
これにより、どこで・なぜ・どのような品質異常が出たか全体把握が難しく、原因追及や再発防止策の“ヌケモレ”が発生しやすくなります。
そもそも「ばらつき」はなぜ問題なのか
品質の「ばらつき」が生まれると、エンドユーザーの評価ダウン、クレーム増加、手戻りや再作業コストの増大など、経営に直結する重大リスクとなります。
特に、グローバルで見たとき、日本メーカーの「高品質神話」は“品質の安定供給”に根ざしています。
もし、二つのサプライヤーのうち一方が「勘頼みで日によって品質がバラバラ」、もう一方が「いつも安定した品質提供」を確約できているなら、どちらを選ぶでしょうか。
言うまでもなく、後者です。
この「安定」がなければ、コストが多少低くても海外バイヤーからの信頼は得られません。
なぜアナログ主義が抜け出せないのか ― 業界構造の問題
ではなぜ、デジタル化や自動化へのシフトが進まないのでしょうか。
実は、日本の製造現場には独特の“構造的課題”が横たわっています。
1. 少子高齢化と人材難
現場は慢性的な人手不足です。
ベテラン世代の退職が相次ぐ中、「イチから教えて育てる」余裕がない。
そもそもITツールやデータベースに不慣れな年配者が現場リーダーである場合も多く、本人も「昔からのやり方」のほうが現実的と感じてしまう傾向が強いです。
2. 設備投資の決断遅れ
自動化設備やIoT導入には投資負担がかかります。
特に下請けの中小企業では受注ごとに収益が左右されるため、「今のやり方で十分」派が主流になりやすい。
失敗や過度な先行投資を恐れる守りの経営になればなるほど、変革が遅れます。
3. サプライチェーンの多重構造
日本の製造は多重下請け構造が根強く、元請け・下請け・孫請けと情報や指示の伝達にタイムラグがあるのが常です。
各階層で「伝承されたやり方」を維持し、現場改善の推進役が不在になりがちです。
デジタル化への転換:どう進めるべきか
熟練工の勘と経験は本来否定されるものではありません。
しかし、「伝承」や「継続性」を保証するためには、勘頼みから「データに基づくものづくり」へのパラダイムシフトが不可欠です。
以下、そのために有効なポイントを現場目線で提案します。
1. “勘・コツ”の可視化とデジタル記録
まずは熟練工の暗黙知をできる限り目に見える形に言語化し、ビデオやIoTセンサでデータとして記録しましょう。
例えば、プレス工程なら、力の変化や温度推移をリアルタイムで記録し、ベテラン作業者の“調整幅”をデータとして見える化します。
それを基準化すれば、新人にも再現可能なマニュアルや教育ツールとなります。
2. “なぜその判断をしたか”のロジック共有
単なる「経験」だけでは後継者に再現性を持たせられません。
「なぜこの音のとき圧力を調整するのか」「どのタイミングで検査工程を加えるのか」といった判断根拠を口頭や動画などで残しましょう。
現場の“思考プロセス”自体を可視化することで、質の高い伝承が可能となります。
3. IoT・AI活用で“コツ”をシステム化
現場で集めたデータをAIやIoTで解析し、予測メンテナンスや自動調整につなげましょう。
例えば、異常音や振動をセンサーが検知すれば自動でアラート。
機械学習で不良発生条件を分析し、将来的には経験則を“標準プロセス”に落とし込むことができます。
バイヤー/サプライヤー双方の立場で見る「勘頼み」の課題
バイヤー側から見た危機意識
バイヤーは、安定した品質・コスト・納期を重視します。
もしサプライヤーが「最近熟練工が減って不安」「新しい人が入ってから出来栄えがバラバラ」と公言するような現場であれば、リスクを見越して発注を減らしたり、他社に切り替える判断材料になります。
サプライヤーの自覚と変革姿勢
一方、サプライヤーは「伝統の技を守っているから大丈夫」という“安心感”が無意識に変革の足かせになっている場合が多いです。
今後は「うちも品質データをリアルタイム管理している」「AI解析による異常検出で不良を未然に防いでいる」といった“進化した現場”で、バイヤーの信頼を得る時代です。
「職人の誇り」と「標準化」は共存する
勘や経験と、データや標準化は本来対立するものではありません。
むしろベテランの技や暗黙知を“仕組み”に組み込むことこそ、日本の製造業の強さを最大化させるポイントです。
「仕事のやり方を言葉や数字にできないのが本物の職人」ではなく、「自分の技を仕組みとして後世に残せるのが本物の職人」――。
こうしたマインドセット転換が、品質の安定化とものづくりの未来を切り拓きます。
まとめ:新しい地平線へ − 脱・勘頼みの製造業改革
熟練工の勘と経験は、日本の製造業が世界に誇ってきた“魂”そのものです。
しかし、現代ではそれが逆に“品質ばらつき”と“人材難”という新たな電線に差し掛かっています。
今こそ、「勘・経験・技術」を“共通言語”としてデジタル化・データ活用し、再現性のある生産体制へ進化しましょう。
その先にこそ、「職人力とデジタル」が共存する新しい地平線が開けるはずです。
業界全体でこの課題に一歩踏み出せば、世界のものづくりを再びリードする日本製造業の可能性が広がります。
変革の第一歩は、今日、現場の“勘と経験”を一つでもデータとして残すことから始まります。
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