- お役立ち記事
- 採用支援を現場任せにした製造業の失敗例
採用支援を現場任せにした製造業の失敗例

目次
はじめに:製造業の人材採用、なぜいまだに“現場任せ”なのか
製造業の現場には、常に高い生産性と品質が求められています。
その根幹となるのが「人材」です。
しかし、日本の製造業では、いまだに採用活動を現場任せにしてしまっている企業が多く存在します。
この現象は、昭和時代から続く“現場力信仰”や、「現場が一番人を見る目がある」という思い込みに根ざしています。
本記事では、長年現場で培った経験と、生産・品質・調達現場で見てきた数々の失敗事例を基に、“現場任せ”採用のリスクや実際の失敗例に迫ります。
バイヤーやサプライヤー、そして製造現場に勤める方が「どうすれば時代遅れの手法から脱却し、効果的な採用活動を進められるのか」を考える一助になれば幸いです。
現場任せ採用とは何か:昭和型“現場力”の幻想
現場任せ採用の実態
多くの製造業の採用現場では、人事部が形式的に応募者の書類選考を行い、面接の段階や最終的な評価を現場リーダーや工場長に任せてしまうケースが少なくありません。
たとえば、工場の課長やラインリーダーが「この人、現場に合いそう」「経験値が低いが、根性ありそう」という直感をもとに採否を決めてしまう──。
背後には「現場で使える人間は現場が一番分かる」という昭和からの文化が横たわっています。
なぜ現場任せが蔓延するのか
その理由は単純です。
・人員不足で即戦力を求めて“目先の埋め合わせ”が最優先
・「自分たちで育てないと人が育たない」という現場主義
・事務局(人事)が製造現場の仕事を深く理解していない
・組織が縦割りで、部門間の連携が希薄
これらが複合的に絡み合い、採用という「経営レベルの戦略意思決定」を、現場リーダーの“経験則”と“勘”に委ねてしまうのです。
現場任せ採用が引き起こす失敗パターン
十年一日の課題:採用の属人化
最大の問題は、“属人化”です。
例えば、長く工場長を務めたA氏が「自分の感覚」で選んだ人材は、A氏が居なくなると早期離職に至るケースが多々あります。
なぜなら、個人の基準や価値観がそのまま企業の“人選基準”になっているからです。
これは、ラインリーダーが好き嫌いや「飲み会で盛り上がれる人」を重視してしまう、などという事例にもつながります。
現場の“イエスマン”ばかり増える危険性
現場任せ採用が続くと、現場責任者に迎合するイエスマンが集まりやすくなります。
実際、「A課長の下だと働きやすい」「反論する人は除外される」「古株の言うことを黙って聞く人しか残らない」といった声が現場から上がってきます。
こうした“閉じた村社会”となることで、イノベーションや改善が生まれにくくなり、業界としては停滞へと向かっていってしまうのです。
採用要件のあいまいさが招くコスト増大
どんな人材が欲しいのか──現場と人事の間で意識共有がなされず、要件定義が曖昧なまま求人を出す企業も多いです。
結果、採用後のミスマッチが多発します。
育成・教育コストが二重、三重に膨らみ、数カ月後に早期離職……これではせっかくの採用活動が水の泡です。
失敗例1:現場力至上主義で失った“異分子”の戦力
私が経験した現場で、意欲的なキャリアチェンジ人材(=異業種の経験者)が応募してきたことがありました。
人事としては「製造現場に新たな視点を加えてほしい」との期待があったのですが、“現場任せ”の面接で現場リーダーたちは異口同音に「うちのやり方に合わない」「余計な提案はいらない」とノーを突きつけました。
結果、その人は不採用となり、数年後に競合他社で大きな改善プロジェクトを成功させていることを知りました。
「イノベーションは“異分子”から生まれる」──そう気付いたころには手遅れでした。
昭和型コミュニティの弊害
現場の採用担当者が無意識のうちに「自分たちと同質の人」「昔ながらの働き方になじめる人」だけを選んでしまうと、組織の多様性は損なわれます。
今やダイバーシティ&インクルージョンが叫ばれる時代。
外部から新しい視点を取り込むことで現場が活性化する──その重要性を、昭和型の現場文化はしばしば見落としがちです。
失敗例2:現場“だけ”の面接で起きた技能ミスマッチ
ある部品加工メーカーでは、「図面さえ読めればOK」という現場の独断で採用活動を進めました。
結果、「最低限の図面は読めるが機械加工の基礎力が弱い」人材ばかり集まってしまい、OJTに多大な時間とコストが発生しました。
本来は人事×現場で「求めるスキルセット」をすり合わせ、スキル評価や試験を盛り込むべきでした。
“現場任せ”ではそのチェック体制がなく、入社後ミスマッチが発覚。
教育担当者が疲弊し、結果的に短期間で2割が離職するという痛手に繋がりました。
定量的な評価指標の欠如
こういった事態は、「どのスキルをどのレベルまで求めるのか」という定量的な指標がないことが原因です。
現場目線は重要ですが、客観的な評価基準を持たないまま採用を進めると「相性」や「好き嫌い」といった主観要素に頼った安易な選考に陥り、全体最適からは遠ざかってしまいます。
失敗例3:現場主導採用でサプライヤーとの信頼喪失
調達購買部門で、サプライヤーとのやり取りを担当するバイヤーを“現場任せ”で採用したケースも問題となりました。
現場の“コア人材”を重視したため、価格交渉や契約面でのロジカルな交渉スキルが未経験な人物を迎えてしまいました。
その結果、取引先との交渉がうまくいかず、納期トラブルや品質クレームが頻発。
サプライヤーからの信頼低下によるロスや、結果的なコストアップへとつながってしまいました。
バイヤー視点の希薄さが組織にもたらす損失
購買・調達分野では、製造現場の事情を理解する一方で、サプライヤー(外部)といかにWin-Win関係を築けるかが極めて重要です。
ところが現場任せになれば「工場目線だけが正義」というバイアスに囚われがちです。
結果として、折衝能力の不在や契約知識の乏しさが、経営損失に転化することは珍しくありません。
現場任せ採用からの脱却に向けて:今こそ“横断型プロセス”へ
人事×現場のタッグで“採用品質”を底上げ
真の意味で強い製造業を作るためには、「人事主導、あるいは現場主導」だけでなく、両者がしっかりとタッグを組んで“欲しい人物像”を明文化する必要があります。
たとえば、以下のようなフローが効果的です。
1. 人事と現場で「必要スキル・マインド・経験」を要件定義
2. 書類・一次面接は人事担当が、スキル面接は現場責任者が分担
3. 面接後の評価は“数字”や“事例”を重視した評価シートで記録
4. 採用失敗時の要因分析や、現場OJT・教育とのフィードバックループで継続改善
こうすることで、属人化や好き嫌いに左右されることなく、多面的な採用判断が可能になります。
異分子・異業種の受け入れ体制を整える
昭和の現場文化に染まった工場でも、「外部の知見を受け入れる」ことは不可欠です。
ミスマッチを防ぐためにも、入社前研修やメンター制度を設ける、シンプルな教育スクリプトを用意するなど「受け入れの仕組みづくり」が重要です。
「馴染む人だけ」を基準にするのではなく、多様な人材が挑戦できる環境を整えなければ、現場の“新陳代謝”は望めません。
サプライヤー/バイヤーの視点を採用にも活かす
サプライヤー・バイヤー双方が採用基準として大事にしたいのは“現場を理解したうえでの外部思考”です。
現場だけ、仕入れ部門だけでは見えない“全社最適思考”こそ、現代型バイヤーには不可欠です。
たとえばサプライヤー側の人材も、「相手(バイヤー)の戦略を理解したうえでどう提案するか」を教え、「購買側は社外折衝スキルや契約知識をテストに含める」など職種ごとの明確な人選基準を持つべきです。
まとめ:現場目線と全体最適のバランスで、強い製造業採用へ
現場任せ採用は、即効性や属人化リスクが高く、組織の多様性や生産性を損なう大きな要因です。
これからの製造業は、現場目線の実践力と、人事・外部視点の統合による“全体最適”採用が不可欠です。
「昭和から抜け出せない採用文化」に安住するのではなく、失敗事例に学び、現場と経営が一体となって未来の人材戦略に取り組むこと。
それこそが、これからの製造業を発展させる大きな鍵となります。
あなたの現場でも、ぜひ一度「現場任せ」に陥っていないか、改めて見直してみてください。