製造業におけるGX（グリーントランスフォーメーション）とSDGs推進

はじめに～製造業の新たな課題とGXの潮流～

製造業は、時代の変化に応じて常に進化を求められてきました。
かつて高度成長期を支えたものづくりは、徹底した効率化や品質管理によって世界水準の競争力を獲得しましたが、21世紀に入り大きな転換期を迎えています。
特に昨今、「GX（グリーントランスフォーメーション）」という言葉が急速に注目を集めています。

GXとは、脱炭素社会の実現や持続可能性を目的として、サプライチェーン全体での構造改革、企業文化の刷新、デジタル化・自動化の推進など、幅広いイノベーションを指します。
この動きは、SDGs（持続可能な開発目標）との親和性が非常に高く、企業の社会的責任はもはやCSRにとどまらず、事業の根本として組み込まれるようになりました。

昭和から続くアナログな業界慣習や温存された「現場主義」。
この土壌の上に、いかにGXの発想を根付かせ、持続可能な発展を遂げることができるのか。
本記事では、私自身20年以上製造の現場で積み重ねてきた実体験を交えながら、現場視点によるGX推進の実践策、バイヤーやサプライヤーが知っておくべき業界動向を深掘りしていきます。

GX（グリーントランスフォーメーション）とは何か

GXの定義と背景

GX、すなわちグリーントランスフォーメーションは、企業活動の基盤を「環境負荷低減」へと転換するための全社的な取り組みです。
これは単なる省エネや再エネ導入ではなく、製造工程・資材調達・流通・販売・回収リサイクルまでを横断した、サプライチェーン全体の刷新を意味します。
2030年カーボンニュートラル達成という国際目標に伴い、日本の製造業も猛烈なスピードで改革を迫られています。

製造業におけるGXの現場課題

製造現場でGXを進めるには、設備投資や工程改革、従業員教育といった負担が不可避となります。
なかでも、昭和から続くアナログな業務プロセス、膨大な紙の運用、ブラックボックス化したノウハウ継承、一部ベテラン職人頼みの生産といった、いわゆる「現場の伝統」が障壁となることが多いです。

一方、上流からのトップダウンによる突然のGX推進では、現場の理解を得られず形だけの取組みになってしまうケースもあります。
現場目線で「なぜこれが必要なのか」「どこから始めれば効果的か」をしっかり腹落ちさせることが、最初の大きなハードルとなります。

SDGsと製造業が直面する新たな責任

SDGsが製造業に与えるインパクト

SDGsの17の目標のうち、製造業が特に意識すべきは
7（エネルギーをみんなに、そしてクリーンに）
9（産業と技術革新の基盤をつくろう）
12（つくる責任つかう責任）
13（気候変動に具体的な対策を）
などが挙げられます。

これまで製品の性能や価格だけで評価されていた購買現場では、「環境配慮型の製品・原材料なのか」「リサイクル体制・トレーサビリティは明確か」といった新しい切り口での選定が求められるようになりました。
バイヤーや調達部門も、従来のコスト削減視点だけでは通用しない時代に突入しています。

求められるバイヤー像とサプライヤーの対応策

バイヤーには、従来型の「最安・即納」を追求するだけでなく、調達サプライチェーンのGHG（温室効果ガス）排出量の見える化や、CO₂排出量の削減に直結するサステナブルな調達手法への転換が強く求められます。

サプライヤー側でも、こうしたバイヤーの新潮流を理解し、自社の環境配慮型製品の情報発信、ライフサイクル全体における環境データの提示、適切な証明書類（RoHS、REACH、サステナビリティ報告書、LCAデータ等）の提出準備を推進することが重要です。

GX時代の製造現場改革～昭和アナログ業界からの脱却～

現場発想のGX推進の具体策

現場へのGX浸透は、小さな「できること」から始めるのが有効です。

・電力使用量や生産ロスの「見える化」からスタート
・紙の書類・帳票をデジタルに切り替え、ペーパーレス化による省資源化
・ユーティリティ（ボイラー、コンプレッサー等）の高効率化
・廃棄物分別の自動化やIoT導入による再資源化率向上
・老朽設備のインバーター更新や高効率モータ採用による省エネ

いきなり最新ITや設備投資に頼るのではなく、「これなら現場でもすぐできる」というアイディアが職場で歓迎される風土をつくる。
これが昭和アナログ業界からの脱却の第一歩です。

「見える化」と「現場参加」が鍵

私が現場長をしていた際、全現場のCO₂排出量を日々グラフ化し、現場ごとの削減策を現場メンバー主体でディスカッションする「GXカイゼン会」を導入しました。
目的と効果が見えやすくなり、「うちの班は昨年比○％削減できた！」と工場内に小さな競争意識や達成感が生まれるようになりました。
現場主導のKaizenが定着すると、現場と管理層間の「温度差」も小さくなります。

調達・購買におけるGX視点の新基準

バイヤー側のGX時代の意思決定ポイント

調達購買担当者には、単なる価格交渉ではなく以下のような新指標の導入がポイントとなります。

・サプライヤーのGHG排出量（Scope1/2/3）のデータ把握
・製品や部材のライフサイクルCO₂評価（LCA）
・資材原産地やコンプライアンス説明の徹底
・「グリーン調達ガイドライン」の制定と周知
・リスク分散や災害対応力の評価（レジリエンス調達）

また、サプライヤーとの「共創」姿勢も重要です。
一方的な要求だけでなく、現場レベルでどこまで対応できるのか、現実的なGX推進の足並みを揃える協調的なパートナーシップが、企業全体のサステナビリティ経営を後押しします。

サプライヤーからみたGXアピールのポイント

サプライヤーの立場なら、単なる『うちは省エネに取り組んでいます』という抽象的な説明ではなく、
「この工程でCO₂削減率が何％改善しました」「主要部品はリサイクル材料でXX％賄っています」
「将来的には自社のGXロードマップで、このような環境経営方針を掲げています」など、
具体的な数値とストーリーで自社のGX推進力を示すことが、バイヤーからの信頼獲得に直結します。

また、「資料は紙提出だけ」などアナログ一辺倒だった管理書類も、オンライン共有に積極対応するなど業務プロセスの見直しも競争力になります。