投稿日:2025年9月10日

再利用可能な包装材導入で進める製造業のSDGs対応事例

再利用可能な包装材導入で進める製造業のSDGs対応事例

はじめに―SDGsと製造業の現場

いまやSDGs(持続可能な開発目標)は、世界的な取り組みとして社会のあらゆる分野で重視されるようになりました。

製造業においても、環境負荷低減や資源循環といったテーマは無視できないものとなっています。

特に、調達購買、生産管理、品質管理など、サプライチェーン全体を見通す上で欠かせない視点としてSDGsへの対応が求められています。

そのなかでも「再利用可能な包装材」の導入は、昭和から続くアナログな現場文化を持つ製造業界でも取り組みやすい、効果の高い施策のひとつです。

本記事では、現場目線での実践的な事例や導入で得られるメリット・デメリット、定着のための工夫などを解説します。

製造業現場が直面する包装材問題の本質

包装材は、製品の保護や物流効率化に欠かせない重要資材です。

しかし従来は、ダンボール、木箱、発泡スチロールなど“一度使ったら廃棄”される使い捨てが主流でした。

その結果として…

– ゴミの増加(産業廃棄物コストの増大)
– CO₂排出量の増加
– 包装材調達コストの増大
– ごみ処理業者への依存
– 顧客・サプライヤー間の資材管理の煩雑化

こうした課題が発生していました。

昭和型の“もったいない精神”やコスト意識から、同じ段ボールを何度も使いまわす現場も少なくありません。

しかしその方法では、強度面や衛生面、見栄えに課題が残り、サプライヤー・バイヤー間でのトラブルも発生しがちです。

そこに切り込むのが「再利用可能な包装材」の導入です。

再利用可能な包装材とは

ここで言う再利用可能な包装材とは、

– 折りたたみ可能なプラスチックコンテナ(通称:通い箱)
– 樹脂パレット
– 繰り返し使用できる緩衝材(ウレタンフォーム製インナーなど)
– リターナブルな金属製ケース

など、複数回の物流サイクルで使用でき、耐久性に優れる包装資材を指します。

リターナブル包装材やエコロジー包装材とも呼ばれ、何十回、多いケースでは百回単位の流通に耐えるものもあります。

導入によるSDGs視点でのメリット

1. 廃棄物の大幅削減

使い捨て包装材を“再利用型”に切り替えることで、年間で発生していた産業廃棄物(ゴミ)が激減します。

大手自動車部品メーカーA社では、年間500トン近くの段ボールごみ削減に成功したケースもあります。

廃棄物処理コストだけでなく、CO₂排出量削減にも直結します。

2. 包装材調達コストの長期的低減

初期導入コストは使い捨てより高くなりますが、繰り返し使用が前提のため、3~5年といったライフサイクルで見れば、調達コストが低く抑えられるようになります。

また、在庫管理・発注回数の削減にもつながります。

3. 品質・安全面の向上

専用設計された繰り返し利用資材は、サイズや強度、耐水性、クリーン度合いを事前検証して選定できます。

箱・パレット単位での崩れなどによる製品損傷リスクや異物混入リスクも低減します。

また、社内外の作業者のけがや事故防止にも効果があります。

4. 取引先からの信頼向上

SDGs対応・エコロジーへの取り組みアピールは、取引先バイヤー(購買担当)からの評価向上に直結します。

近年はCSR監査やサプライチェーン全体のサステナビリティ評価が取引条件となるケースも増え、脱アナログ化・本気の環境対応が競争力の根幹になりつつあります。

現場での導入事例―具体的なストーリー

事例1:自動車部品メーカーの「通い箱」導入

某自動車部品メーカーでは、サプライヤー~組立工場~製品倉庫までを一気通貫でつなぐ「通い箱」システムを導入しました。

サプライヤーからの納品は全て折りたたみ式プラコンテナで統一。

納品後の空箱は納品車両の帰り便で引き取る“リターナブル”方式へ切り替えました。

その結果、以下の効果が得られました。

– 年間約80トンの段ボール削減
– 人手による廃棄・分別作業の削減(現場の省人化)
– 包材在庫管理負担の低減

また、この改革は一方通行ではなくサプライヤーや納品先とも綿密な打ち合わせの上で実現。

「アナログ文化根強い現場でも、まず1ラインだけでテスト導入→現場からのフィードバックで改善→全社展開」 という段階的導入が奏功しました。

事例2:精密機器メーカーのパレット共通化プロジェクト

精密機器A社では、従来現場ごとに異なるサイズや材質のパレットを使い分けていました。

このことで“返却パレットの迷子化”“保管スペース圧迫”“パレット破損トラブルの増加”など、現場側の課題が山積していました。

そこで、「全社標準」の樹脂パレットへの統一・管理番号刻印によるトレーサビリティ導入へ切り替え。

その結果、

– 資材発注業務の簡素化
– パレット回収率向上(紛失率低下)
– 輸送時の積付効率アップ

が実現しました。

ITによるパレット管理システムとも連動し、昭和的管理からの一歩脱却を果たしています。

バイヤー・サプライヤーの視点で押さえるべきポイント

バイヤー(購買担当)から見たくり返し包装材の狙い

現代のバイヤーは「安いだけではなく、サステナブルかどうか」「自社の商品価値や社会評価を上げられる仕組みか」を重視しています。

再利用資材化によるコスト低減、コンプライアンス強化、ESG投資にも繋がるため、積極導入の商談が増えています。

“包装材コストの比較”にとどまらず、“資源循環サイクル全体”での提案力や、運用の具体性(例えば回収体制、クリーニング体制)をサプライヤー側に求める傾向が非常に強いです。

サプライヤー側は「資源循環」+「現場運用」まで想像すべき

もしサプライヤーの立場であれば、単なる容器調達コスト比較に終始するのではなく、

– 取引先現場の物流動線
– 回収体制
– 通い箱・パレット管理のIT化提案
– 破損・紛失リスク時の対応フロー

など現場視点で“運用”までシミュレーションし、バイヤーのニーズに一歩先んじて応えることが、採用率を高めるコツです。

導入推進のための現場的工夫と壁

定着のために必要なこと

– 小さな導入から始めて現場の抵抗感を減らす
– 実際の作業フローに沿った効率化を重視し“現場の声”を最優先
– バイヤー・サプライヤー間での情報共有(回収トラブル・破損など発生時の即時連絡体制の整備)
– 包装材メーカーや物流業者との三者連携

いきなり大々的に全社展開せず、何度もトライ&エラーし、問題点を潰しながら進めることが、アナログ現場には有効です。

よくある壁と乗り越え方

– 「返却が面倒」「保管場所がない」→ 回収業者・物流会社との連携強化で“ワンストップ返却”を仕組化する
– 「初期コスト高い」→ 年次のトータルコストシミュレーションを複数年幅で示す
– 「紛失や破損が心配」→ ITシステムやQRコード等による管理強化、補償体制も整備

これらを粘り強く詰めていくことが、最終的には社内外から評価されるSDGs活動となります。

最新動向と今後の展望

– 物流業者や包装メーカーによる「リターナブル資材レンタルサービス」の普及
– IoTやRFIDタグ活用による仕入先~搬入先までのトレーサビリティ管理
– “脱プラスチック”型の紙製通い箱、バイオマス素材の開発加速
– 環境省や地方自治体による「資源循環型企業」への補助金や認証制度の拡充

こうした動きが加速しています。

市場や政策自体がカーボンニュートラルやエコロジー重視型へ一気に傾きつつあるいま、再利用可能な包装材への転換は製造業、特にサプライチェーン全体の企業価値を押し上げる柱となっていくでしょう。

まとめ―今こそ現場主導でSDGsに挑戦を

再利用可能な包装材の導入は、SDGs対応としてのインパクトが大きいだけでなく、工場現場の業務効率やコスト体質の改善にも直結します。

昭和のアナログ文化が残る現場でのイノベーションは簡単ではありませんが、“現場の知恵”と“バイヤー&サプライヤーの対話”があれば、柔軟かつ着実に定着させていくことができます。

持続可能なサプライチェーン構築は、製造業にとっても大きな成長機会です。

明日から小さな工夫でも始め、未来に胸を張れる現場をみんなで作り上げていきましょう。

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