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エンタープライズ調達プロセスを理解し提案を通すための製造スタートアップの営業思考

目次
はじめに ~エンタープライズ調達を理解する重要性~
製造業の調達活動は、会社の命運を左右するとても重要な業務です。
特に大手企業、すなわち「エンタープライズ」の調達プロセスは、一般的な中小企業とは全く異なる複雑さや硬直性が存在します。
この独特のプロセスを理解し、適切なアプローチをとることが、製造スタートアップが大きなビジネスを獲得する上で不可欠なのです。
特に、これから営業担当としてバイヤーに提案しようと考えている方や、バイヤーの心理を知って取引を有利に進めたいサプライヤーにとっても、エンタープライズ調達を深く理解することは競争優位を築く第一歩となります。
エンタープライズ調達プロセスの全体像
エンタープライズの調達が非常に重い理由
エンタープライズ、つまり大手の製造業企業では、調達プロセスが非常に重厚長大で、必ずしも「良い製品だからすぐ採用」とはいきません。
なぜなら、
– 多階層の承認プロセス
– コスト構造の厳格なレビュー
– 既存サプライヤーとの長期契約・関係性
– 品質やトレーサビリティの要求水準の高さ
– 社内の“前例主義”や“減点主義” が根強く存在するからです。
さらに、調達部門だけではなく、技術部門・品質保証部門・経営層など、複数の関係部署が絡み合い、各部署ごとに視点や利害が異なります。
昭和の時代から続くアナログ的な体質も根強く、「新しいものをすぐ取り入れることへの抵抗感」が組織文化としてある、という点も特徴的です。
バイヤーが本当に見ているポイント
スタートアップが提案活動を行う上で重要なのは、バイヤー(調達担当者)がどういう考えで意思決定をしているかを理解することです。
彼らは、自社の経営資源を守るために慎重かつ保守的な立場にいます。
– 品質面: 「予期せぬ不良品が流れる」「生産ラインが止まる」といったリスク回避が最優先です。
– コスト面: いくら良いものであっても、年間で明確なコストメリットが出せる根拠を求められます。
– 納期・安定供給: 供給不安のリスクはマイナス評価になります。
– 社内評価: 新規サプライヤー起用が万一失敗すると自分の評価が下がるため、積極的なチャレンジはしにくいです。
つまり、バイヤーはスタートアップの製品や技術に対し「本当に問題なく導入できるのか?」「自分たちがリスクを背負わずに済むか?」という点を最も重視しています。
営業担当に必要なエンタープライズ目線の提案戦略
ラテラルシンキングで既存の壁を突破する
大手製造業の調達部門は、時に「石の壁」のように見えることもあるかもしれません。
しかし、現場で20年以上バイヤー・工場長として経験を積む中で学んだことは、「常に正面から突破しようとすると必ず跳ね返される」ということです。
そこで必要なのが、ラテラルシンキング(水平思考)です。
ただ商品のスペックや価格だけを訴求するのではなく、“プロセス全体”や“ユーザー部門の根本的な困りごと”に着目してください。
例えば、
– 標準品の提案ではなく、「工程自体を変える新発想のソリューション」を提案する
– 最終製品の品質向上→顧客満足度の向上→リピート購入や囲い込みへと、川下のビジネスインパクトを定量化して示す
– 自社の製品導入による「省人化」「自動化」「環境対応」などのマクロな価値訴求を行い、経営層の目線に引き上げる
このように、調達単体ではなく、全社視点を持ったストーリー提案が、壁を崩すカギとなります。
提案書作成時の鉄則と落とし穴
大企業向けの提案書・プレゼン資料には、“論理”と“証拠”が何より重視されます。
重視すべきポイントを3つにまとめます。
1. 費用対効果(ROI)をデータで示す
2. 他社や同業種での導入実績やテスト結果をエビデンスとして添付する
3. リスク低減策(二重供給体制・保証制度・納品フォロー体制など)を明文化する
よくある落とし穴は、
– 「技術力のアピール」に偏り、現場の悩み・バイヤーの立場が置き去りになっている
– 想定よりも工数やコストが膨らみ、社内稟議時にアウトになる
– 障害時の責任範囲や保証内容が不明瞭で、不安を払拭できていない
このような点を事前につぶしておくことが、採用確度を大きく上げるコツです。
現場目線で「押しどころ」を見極めるコミュニケーション術
キーパーソンと現場担当、双方へのアプローチ
エンタープライズ調達では、「表のバイヤー」と「裏のキーパーソン(技術・品質・工場)」という多重構造が存在します。
中でも、現場サイド(工場・技術員)のリアルな悩みやニーズを丁寧にヒアリングし、「現場が本当に望む改善案」へ言語化していくことが肝要です。
ここでは、以下のような質問が有効です。
– 「今、工程や作業員の手間・ロスで一番困っていることは?」
– 「現場で最も頻発しているトラブルや改善要望は?」
– 「省人化や自動化に向けて直近で取り組みたいことは?」
このように、技術会話で信頼関係を構築した上で、バイヤー部門には、その思いやニーズを「定量化→経営インパクトに翻訳」して届けることが理想です。
レガシー文化を尊重しつつも未来志向を示す
私自身、工場長や生産管理として長く働く中で痛感したのは、現場では昭和時代からのアナログ的な“職人気質”や“暗黙ルール”が色濃く残っている、ということです。
無理に“DX化”や“クイックチェンジ”を押し付けても、逆に反発を招きかねません。
大事なのは、こういった現場文化や不文律をリスペクトしながら、「いかに少しずつ、痛点を解消できるか」を丁寧に提案していく姿勢です。
例えば、「紙伝票を一気に電子化しましょう」と提案するのではなく、
「一部工程にだけ、簡易なタブレット入力システムをトライアル導入してみませんか?」
といった段階的な打診が、現場浸透への近道となります。
調達現場で得をする「未来志向」営業3つの着眼点
① ESG/脱炭素ニーズの顕在化
近年エンタープライズ企業は、社会的責任(ESG経営)の観点から「脱炭素」「省エネ」「トレーサビリティ管理」への要請が急速に高まっています。
従来の「単なる安さ・品質」だけで勝負するのではなく、ESG視点での付加価値提案(環境負荷低減/リサイクル提案など)を盛り込むことで、経営層・調達層双方に好感を持たれるケースが急増しています。
② サプライチェーンリスクへの具体施策
コロナや戦争、自然災害を背景に、「もう一つのサプライヤー」「地場での部材調達」など、リスクヘッジ対応が求められています。
例えば、「部材の複数社同時供給体制」や「ローカル生産への最適化」など、サプライチェーンの強靭化=自社が“保険”の役割を担うことを訴求することで、バイヤーは採用しやすくなります。
③ デジタル/自動化領域での“つなぎ役”提案
現場の自動化やデジタル活用は避けられない流れですが、実際の工場では「既存のレガシー設備」と「最新ICT」との“橋渡し役”が不足しています。
たとえば、
– IoTセンサーと従来PLCの連携
– アナログ機器の“見える化”支援パッケージ
– 紙伝票のデジタル変換ソリューション
など、段階的な「つなぎ役」提案が、現場とバイヤー双方に喜ばれる傾向にあります。
まとめ:現場目線×未来志向で新規調達を勝ち取る
エンタープライズ調達は極めて厳格で複雑なプロセスですが、本質を見抜き、バイヤーや現場の立場を深く理解したうえでラテラルシンキングを働かせれば、スタートアップや新興サプライヤーにも大きなチャンスがあります。
単なる商品スペックや価格だけでなく、「全社視点でのプロセス変革」や「ESG・サステナビリティ」「現場の段階的な変革サポート」など、未来志向の価値提案を打ち出し、論理的でリスクヘッジに富んだアプローチを展開することが、新規調達の獲得に繋がります。
ぜひ、この現場目線の実践的戦略で、エンタープライズ調達へのドアを突破してください。
長年現場で経験を重ねた者だからこそ伝えられるポイントを押さえ、貴社ビジネスのさらなる拡大に寄与できることを心から願っております。
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