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産業医サービスを使いこなせない製造業の悩み

産業医サービスを使いこなせない製造業の悩み
産業医制度の現状:昭和的価値観の残る現場の実態
日本の製造業は長きにわたり「現場主義」と「モノ作り至上主義」に支えられてきました。
その過程で培われた現場の文化や価値観は、今も根強く残っています。
たとえば設備への愛着や、仕事は現物・現場で覚えるもの、さらに精神論が美徳とされる傾向も根深く存在します。
こうした昭和的土壌の中で産業医サービスを導入しても、仕組みが絵に描いた餅になってしまうケースが後を絶ちません。
「会社に言われたから配置した」「法律で決まっているからとりあえず用意した」だけとなり、本来の目的である従業員の健康管理や労働環境の改善には繋がっていない現場を数多く目にしてきました。
なぜ製造現場では産業医サービスが有効に活かされないのでしょうか。
その背景を解き明かし、現場目線で実践的な解決方法も探っていきます。
「形だけ」産業医から脱却できない5つの理由
1. 健康管理=自己責任、という誤解
多くの現場では「自分の健康は自分で守るもの」「多少の無理は当たり前」という考え方が根強いです。
産業医からのアドバイスも、個人の問題・自己管理の一環と捉えられ、組織的な取り組みへと発展しづらくなっています。
2. 生産第一主義と業務優先の壁
納期や生産目標に追われるプレッシャーが強い現場では、健康診断やメンタルチェックなどへの参加が後回しにされがちです。
「そんな時間があるなら新しい機械の調整をしろ」「残業を減らすより売上が先」という現場責任者の考えが根底にあり、それが組織全体に蔓延しやすいです。
3. 産業医との壁、現場と本社の分断
産業医の多くは本社や都市部にいて、工場には定期的にしか来ません。
現場担当者や工場長と産業医の間には心理的な距離もあり、「何を相談していいかわからない」「机上の空論を言われても困る」と感じる現場社員も少なくないです。
4. ハラスメント・人間関係の見えない化
日本の製造業には「オトナの我慢」が美徳とされる空気が強く、パワハラやメンタル不調を正面から取り上げるのがタブーになりがちです。
異変が現れても「自己責任」「弱みを見せるな」と見なされ、産業医への連絡・相談が機能しないことが多いのです。
5. 産業医サービスの業者依存
最近はコスト重視でアウトソーシング型の産業医サービス事業者と契約する工場も増えています。
その場合、短時間の面談や書類作業だけで終わるなど、「流れ作業」になりやすく、本来の産業医の役割が形式的になっています。
製造現場のバイヤー・サプライヤーが抱える隠れた健康リスク
調達・購買などバイヤーや、そのサプライヤーとして工場と関わる立場にも産業医サービスは重要です。
交渉・納期調整・仕様変更といったストレスの高い業務が多く、「納期遅延によるプレッシャーで体調を崩す」「価格交渉の板挟みでうつ状態になる」という声も多く聞かれます。
営業・バイヤー経験のある方なら誰でも、「工場長の顔色で胃が痛くなる」「突発修理で休日が潰れて家族に怒られた」なんて経験が一度はあるのではないでしょうか。
製造業の裾野は広く、サプライチェーン全体が健康リスクを抱えている時代です。
コンプライアンスやESG(環境・社会・ガバナンス)が重視される今、サプライヤーも健康経営度が取引の評価軸になります。
産業医サービスの形骸化は、「時代遅れな会社」とみなされるリスクもはらんでいるのです。
現場主導で産業医サービスを使いこなす3つの最重要ポイント
1. 現場の「困った」を産業医にぶつける文化作り
まずは「どんな小さな悩みでも相談できる」空気づくりが第一歩です。
設備の騒音・油臭さ・作業服の不満…。
現場でしかわからない些細な不調でも、実は重大なヒントになります。
たとえば、筆者が工場長時代に実施した「ノー残業デー」や「下請け業者とも一緒にお昼をとる日」。
その際、産業医にも同席してもらい「ちょっと気になること」をその場で聞く機会を作りました。
顔の見える関係になるだけで、相談のハードルが一気に下がります。
2. 健康管理を業務改善・生産性向上と直結させる
産業医の意見を、安全衛生委員会の資料や全体会議の議題として扱うだけでなく、「どの現場改善や業務改革に活かすか」まで踏み込むことが大切です。
たとえば「腰痛が多い」という声を単なる健康問題と捉えるのでなく、作業台の高さ調整や部材搬送の方法見直しへ発展させる。
生産性向上やムダの排除、そして事故防止にも直結します。
現場改善と健康管理のPDCAを回すことで、「働きやすい会社=優れた工場」であるという認識も定着していきます。
3. 産業医サービス導入のKPIを「定量」「定性」で見直す
「健康診断受診率100%」や「面談者数」だけでなく、「健康相談の件数」「現場改善につながった健康施策数」「休職からの復職率」など、具体的な指標を複数用意しましょう。
また、アンケートやヒアリングなど定性的な評価も欠かせません。
現場の本音を吸い上げて、サービス事業者や所属する産業医にフィードバックすることも重要です。
アナログ現場でも実践できる産業医サービス活用事例
昭和から抜け出せないアナログな工場でも、ちょっとした工夫で産業医サービスは劇的に使えるようになります。
以下、成功事例をいくつか紹介します。
● 毎週必ず数分間、朝礼で健康小話を産業医がする(テーマ例: 熱中症対策、眠気の防ぎ方、簡単ストレッチ)。
● 衛生委員会を現場レイアウトのそばで開催し、作業員からその場で困りごとを聞く。
● 「健康パトロール」と称して、産業医が現場をまわりながら雑談。
● ランチミーティング形式で、希望制のQ&A会を実施。
● アルコールチェックや転倒防止チェックを組み合わせて健康意識を醸成。
いずれも「気軽に産業医へアクセスできる仕掛け」を作る工夫がポイントです。
今後の製造業と産業医サービス:昭和からネクストステージへ
時代は「ヒト中心のものづくり」へとシフトしています。
健康経営がサプライヤー選定の基準になるのはもちろん、優秀な人材確保の切り札にもなります。
労使協調の観点でも、「現場の声を経営に反映させる」ことが求められる今、産業医サービスを単なる義務・コストから「経営価値」へ転換する視点こそが不可欠です。
墨守や前例主義、根性論で乗り切ってきた昭和の製造現場も転換点を迎えています。
現場で働く一人ひとりが、健康でイキイキと働ける工場。
バイヤーやサプライヤーも含めた全員の「Well-Being」が、これからの製造業の競争力になります。
産業医サービスはまさにそのカギとなる存在です。
現場・バイヤー・サプライヤーのあらゆる立場の方に、ぜひ積極的に活用し、「昭和」から一歩抜け出した“強くてやさしい現場”を一緒に作っていきましょう。