投稿日:2025年12月16日

輸送事故は実は“荷主側の準備不足”によるケースが多い現実

輸送事故は実は“荷主側の準備不足”によるケースが多い現実

はじめに〜輸送事故の本当の原因を考える

「輸送事故」と聞くと、ドライバーの運転ミスや物流会社の管理体制の不備を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際の現場を長く見てきた経験から断言します。
多くの場合、その原因は“荷主側の準備不足”にこそ潜んでいるのです。

私自身、20年以上にわたり多くのメーカー現場、調達購買、生産管理、品質保証、工場長職まで様々な立場から物流を見てきました。
昭和の時代から変わらぬアナログな考えがいまだ製造業界で幅を利かせている現実も、肌で感じてきました。
今回は、現場目線で「なぜ輸送事故の多くが荷主側の準備不足によって引き起こされるのか」を紐解き、今こそ求められる対策を具体的に解説します。

輸送事故の“真因”を知る〜統計と現場の実感

製造業の現場では、輸送中の製品破損や数量差異、荷崩れ、汚損など、様々な輸送トラブルが定期的に発生します。
国土交通省の統計や各種業界団体のレポートでも、輸送事故の原因として“積付不良”“荷姿不備”など、実は荷主側の責任が問われる事例が多いことが分かります。

実際、私の経験上、次のようなパターンが非常によく見受けられます。

・説明図や仕様書がないまま出荷し、ドライバー任せの積載になってしまう
・紙やビニール袋など簡易的な包装のみで製品をまとめてしまい、輸送中の荷崩れや潰れ、相互干渉が発生
・パレットサイズやトラックサイズを把握しないまま積み付けを指示し、積載効率が悪化して荷くずれ
・初めての大口取引や新規取引先への納品なのに、現場との情報共有や下見をしない
・危険品や特殊形状品なのに、ラベリングや特別指示がなく抜けや見落としが起こる

こういった“ちょっとした準備の漏れ”こそが、実際のトラブルの大半を引き起こしています。

現場でありがちな“準備不足”の具体例

なぜ荷主側は準備に失敗するのか?
代表的なケースごとに、その背景を紹介します。

1. 荷姿設計が適当〜「とりあえず箱詰め」精神の落とし穴

忙しさに追われる工場現場では、「とりあえず箱や袋に詰めて、あとは現場任せ」はよくある話です。
しかし、サイズや強度を考えず箱詰め化された製品は、パレット積載やトラック輸送時に思わぬダメージを受けます。

例えば、「段ボールが軟弱で段積み不可」「凸凹製品なのに緩衝材がなし」「一箱あたりの重量超過で持ち運び不能」など、荷主による設計段階の手抜きが、輸送中の破損・事故の呼び水になっています。

2. 指示・情報共有不足〜全部運送会社頼み

取引開始当初、現場担当者が詳細な荷扱い情報や納品形態を物流会社に伝えないケースも日常茶飯事です。
「ウチのやり方でやってくれ」「細かいことは運送屋が分かるだろう」という意識が事故の温床に――。

例えば、新製品やコスト削減のために“樹脂パレット”への切り替えを断行したものの、物流現場では対応できるパレットジャッキや保管スペースがなく混乱が生じる、といったパターンもあります。

3. 荷役現場との連携不足〜実作業現場の“生の声”を無視

企画部門や管理部門が決めた理想論と、現場作業者の実感との差が事故を引き起こします。
「この設計なら絶対大丈夫だ」と思ったパレット仕様が、実際にはヤードの搬出口や積載車両に合わなかった…。
こうした“現場無視”のプランニングも輸送事故の根本原因です。

なぜ“昭和的思考”が準備不足を生み、事故を呼ぶのか

日本の製造業は「長年これでうまくやってきた」という成功体験に引きずられがちです。
デジタル化やDX、さらには物流2024年問題と呼ばれる社会的変化が声高に叫ばれる中でも、いまだにFAXや紙ベース、口頭指示、経験則頼りの「属人化」が根強く残っています。

“現場力”という言葉もありますが、それが逆に「ヒト頼み」「仕事の丸投げ」「抜け・漏れの見過ごし」に繋がり、積み方・包装・指示の曖昧さへとつながります。
「とりあえず今まで通りやれば大丈夫」という無根拠な安心感――これこそが、準備不足・事故多発の根っこなのです。

“荷主責任”が高まる背景と時代の流れ

一方で近年、運送・物流業界の人手不足や働き方改革で、「物流会社は荷主の“下請け”」という古い関係は変わりつつあります。
契約書にも「梱包・出荷・表示等、荷主責任に注意すること」が明記され、万一の事故の場合、荷主側も事故報告書や改善計画書の提出が求められる時代が訪れています。

また、調達・購買部門やバイヤーにとっても、「自社製品が安全確実に届く仕組み」は取引先評価や顧客満足に直結する重大なテーマです。
ISO9001やISO14001に基づくマネジメントシステムでも、物流リスク管理が年々重視されています。

“輸送事故ゼロ”に近づくため、今すぐできる荷主側の改善アクション

「でも、どうすれば準備不足を解消できるのか」「何から手をつければ事故が減るのか?」
現場発想で、すぐ実践できる改善策を紹介します。

1. 荷姿設計とタグ・ラベル表示の基本を再確認する

・箱やパレット設計は“積み付け寸法”と“積載強度”を最優先で考える
・ズレ防止・摩擦軽減用のシートや緩衝材を必須化する
・内容品、注意事項、数量、積載方向等を明記したラベル貼付を徹底する

2. 出荷前の実地テストを必ず実施する

新商品・新パレット導入時や、大口案件の初回納品時、実際の「梱包→積載→移送」まで現場テストを行い、ズレや破損、荷崩れが起きないかを検証。
問題があればその場で改善→マニュアル化します。

3. 情報共有と物流会社・現場とのコミュニケーションルールを制定

納入仕様書や運用マニュアル、立会ミーティング等で、現場と物流業者、バイヤー間の意思疎通を徹底しましょう。
新しい納入方式や委託先変更がある場合、事前にシミュレーションや図面共有を欠かさず行うことが肝要です。

4. 内部監査・点検サイクルの導入で“気付きの風土”を作る

「出荷前チェックリスト」「荷姿写真の記録」などをルーチン化し、“みんなで守る”“気付く”文化を育てましょう。
品質管理部と連携して、“輸送時破損”の苦情・クレームが起きた場合は必ず再発防止活動を実行する仕組みも重要です。

バイヤー・サプライヤーの方へ:これからの発注・納入のあり方

調達・購買担当者やバイヤーの方が、「物流事故は“運送会社の問題”」と考える時代は既に終わっています。
今後は、「自社製品が負担なく、安全に運ばれる仕組み」を設計・管理できるスキルが、サステナブルな調達・モノづくりに必須です。

また、サプライヤー視点では、「荷主から何を求められるのか」「納品荷姿や出荷条件の“当たり前”」を絶えずアップデートし、顧客満足とともに自社防衛(瑕疵リスク管理)にもつながります。

まとめ〜現場主義から“未来志向の準備力”へ

輸送事故の陰にある荷主側の“準備不足”は、ほんの小さな改善で大きく防げるものが多くあります。
昭和から続く「現場任せ」「運送屋頼り」から脱却し、調達・生産・現場・物流が一体となった“準備力”を高めること。

それが、これからの時代のプロバイヤー・サプライヤーに求められる進化であり、
安全・安心・高収益体質な製造業の鍵となるのです。

「たかが荷姿、されど荷姿」。
輸送事故ゼロに本気で取り組む荷主こそが、社会から選ばれる時代が、今まさに始まっています。

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