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ODMに向く商品・向かない商品の市場特性

目次
ODMとは何か?製造業現場から見るその本質
ODM(Original Design Manufacturing)は、発注元のブランドで製品を供給するだけでなく、設計段階から製造業者が参画し、アイデア出しや商品開発、設計、試作、量産までトータルに携わるビジネスモデルです。
対義語としてはOEM(Original Equipment Manufacturing)が広く知られていますが、OEMは発注元が設計や仕様を決定するのに対し、ODMはサプライヤーが設計の主体になる点が最大の違いです。
このODMという手法は、近年製造業界とくにアパレル、家電、電子部品といった分野を中心に強く根付いています。その一方で、昭和の時代から続くアナログ的な産業や一品一様の受注生産品では普及が難しい現実もあります。
なぜODMが市場で選ばれるのか。
そして逆にどんな商品がODMには向かないのか。
現場目線で掘り下げていきます。
ODMに適する商品の市場特性とは
1.市場規模が大きく、差別化がしにくい商品
ビジネスの現場では、一気に大量生産し広く市場に展開する商品ほど、ODM化のメリットが最大化されます。
たとえばスマートフォンのアクセサリ、家電、OA機器、ベーシックアパレルなどがその典型です。
これらの分野では技術やデザインのコモディティ化が進み、自社独自で一から商品開発するよりも、すでに供給体制が整っているODMメーカーに依頼した方が、開発スピードやコストで優位になります。
ODMメーカーは数多くの実績と部品調達先ネットワークを持ち、ノウハウの蓄積により設計・生産・品質コントロールスキルが非常に高い水準で確立されています。バイヤー視点で言えば、リスクや手間を最小限に抑えながらスピード感を持って商品をマーケットインさせることが可能です。
2.製造工程・品質基準が標準化されている商品
規格品・工業製品など、すでに業界で仕様・試験基準・耐久性などの標準化が進んでいる分野もODMに非常にフィットします。
たとえば家電の白物、PC周辺機器、LED照明部品等は、もともと規格化が進んでいるためにODMメーカーとの連携で自社ブランド化が行いやすい特徴があります。ODMサプライヤー側も量産効率で優位性を発揮しやすく、価格競争にも強いです。
バイヤーとしては、煩雑な開発管理や生産委託時のトラブル低減など、調達購買上まさに「安心して任せられる」ジャンルといえます。
3.消費サイクルが短い商品・ライフスタイル商材
トレンドの変化が速く、消費サイクルの短い市場…たとえばファッション、雑貨、スマートデバイス周辺機器などでは、スピーディーな商品投入がビジネス成功の肝となります。
ODM事業者は、既存の設計データや金型の転用、材料調達のスピーディーさを活かして、短納期でサンプルアップ→生産立ち上げを実現します。バイヤーも、市場ニーズのタイミングを逃さず「売れる」商品を展開しやすくなります。
現代の流行追随型ビジネスにとって、ODMは時流に合った最適な解と言えるでしょう。
ODMに向かない商品の市場特性
では一方で、ODMに適しにくい商品にはどんな特性があるのでしょうか。
長年、工場長やバイヤー経験者として現場に携わった立場から、その理由を丁寧に記します。
1.一品一様や多品種小ロットの特注品
特注機械、産業用設備、オーダーメイド部品など、設計段階から顧客ごとに要件が大きく異なる製品は、ODMでの標準設計による対応が困難です。
現場では「現物合わせ」や「設計・製造部門との密なやりとり」が多発します。
そのため大手メーカーであっても、この種の製品では昭和的な御用聞き・共同開発の色が濃く残りがちです。
受注生産型の現場では、仕様確認だけでなく、「どんな使われ方をするのか」「設置環境をどうするか」といった現場独自の課題が生じます。
ODMモデルを取り入れたとしても、歩留まりや不具合発生リスクも高まるため、標準化によるスケールメリットを享受できにくいです。
2.高度なノウハウや独自技術が価値になる商品
自動車用部品や医療機器、あるいはエネルギー関連装置のように、高度な技術や独自のエンジニアリングノウハウが競争力となる場合もODMには向きません。
これらの分野では、知的財産保護のために設計思想や材料、工程条件などの機密管理が求められます。
バイヤー側としても「自社で設計ノウハウを蓄積したい」「外部流出を防ぎたい」という意識が強く働きます。
ODMに依頼すると知見の流出や競合流用の懸念が拭いきれず、また設計の自由度も下がるため、基本的には自社設計・部分的なアウトソーシング、またはOEMでの部分委託が主流になります。
3.品質・安全基準が厳しく、認証取得が複雑な商品
たとえば航空・防衛産業や医療用機器、インフラ設備機器のように、法規制と安全基準が極めて高く、認証システムが複雑な商品もODMには合いません。
こうした分野は生産現場でのトレーサビリティ確保、個別ロット管理、試験記録の蓄積など、現場側・購買側双方に膨大な運用管理が求められます。
ODMメーカーの設計標準だけでなく、顧客独自の特注要求や、運用変更への迅速な対応力が必要になるため、「開発から量産まで一貫で」というシナリオは(コストもかさむため)敬遠されやすい傾向があります。
ODMが浸透しにくい昭和的製造現場のリアル
なぜ日本の製造業、とくに昭和風土の色濃いアナログ業界ではODM化が進まないのでしょうか。
それは「現場力」こそが最大の価値、という長年の文化が根付いているからです。
工程の隅々にノウハウや勘・経験・コツがしみこみ、図面や仕様書に現れないオペレーションが品質を支えています。
またローカル調達や地場メーカー同士の共存共栄も重要なテーマであり、完全な部品標準化では対応できない配慮や個別カスタマイズが現場から多く生まれます。
一方でグローバル競争にさらされる中、設計の自前主義や現場発の改良だけではスピードやコストの面で立ち遅れてしまうケースも見受けられます。
ODMを活用すべき分野と、自社オリジナリティ・現場力が必要な分野。
その境界線を見極め、どちらか一方に偏らない柔軟な調達・開発の仕組み作りが今後求められていく時代です。
バイヤーに求められる発想転換とラテラルシンキング
ODM活用の可否を図るにあたり、バイヤーや調達担当が“教科書的な判断”だけに陥るのは避けたいところです。
「この部品は規格品だからODMでいい」
「これはエンジニアリング性が高いから自社設計で」
というような直線的(ロジカル)な判断だけでは、市場特性や現場の暗黙知を見落とす危険性があります。
一部製品では、シンプルな部品構成でもODMよりもローカル部品調達にしたほうが結果的にトラブルが少ない、といった逆パターンもあります。
逆に、個別性があるように見える商品でも、“標準設計+小ロットカスタマイズ”でODM側と協業できないかという可能性もあります。
いま求められるのは、「なぜ今ODMにするべきなのか」「ODMにした場合、どんなリスクやメリットが現場・購買・経営に生じるのか」といった多角的な視点です。
ODMサプライヤーとの付き合い方・関わり方ひとつで、
・新規事業のスピード立ち上げ
・コスト競争力
・品質トラブル回避
など、事業全体の価値が大きく変わってくるのです。
まとめ:ODM活用の鍵は「商品特性×バイヤーの現場感覚」
ODMは決して「楽をするためのショートカット」ではありません。
市場に最適な商品を、適正コストとスピードで供給するための現代製造業の戦略ツールです。
・市場規模、標準化、消費サイクルなど商品特性
・現場のノウハウ、品質・技術レベル
・バイヤーがどこまで主導権を持つべきか
そのすべてを踏まえた上で、「この商品はODMで行く」「これは従来型の現場主導で」と使い分ける。
昭和的な現場力とグローバル時代の戦略的調達。
両方の価値を最大化するラテラルな思考と現場感覚が、これからの製造業バイヤーに欠かせない資質となるでしょう。
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