投稿日:2025年9月4日

マスターデータ一元化で重複品番を撲滅し購買分析精度を高めるクレンジング手法

はじめに:マスターデータの混乱が招く現場の課題

製造業の現場で20年超、調達購買・生産管理・品質管理、そして現場の自動化まで幅広く携わってきた経験から断言できることがあります。
それは、マスターデータの精度が現場のパフォーマンスに直結するという事実です。

とくに品番マスターの重複や不整合が発生すると、調達時の発注ミス、在庫過多や欠品、原価分析・購買分析での精度低下といった、全社的なロスや非効率を招きます。
また、DXやスマートファクトリー推進の前提となるデータ利活用にも大きなブレーキがかかるのが実情です。

重複品番を撲滅し、購買分析など現場で本当に役立つデータ基盤を構築するためには、「マスターデータ一元化」と「クレンジング手法」が不可欠です。
本記事では、アナログ文化の残る製造業現場でも実践できる、実効性のあるアプローチを余すことなくお伝えします。

重複品番が抱えるリスクと現場の実態

なぜ重複品番が生まれるのか

多くの企業で見受けられるのが、同じ製品や部品について複数の品番が登録されてしまう「重複品番」の問題です。

主な要因は以下の通りです。

部門ごとに独自に品番を採番
担当者の異動や世代交代により命名ルールが曖昧
本社・工場・サプライヤー間で名称や単位が統一されず重複入力
M&Aやシステム更改時の統合作業が不十分
品番の略称やローカルルールの蔓延
特に昭和から続くアナログ業界に多いのは「担当者の経験とカンに頼る運用」で、現場ごとに“暗黙知”として品番登録が進むケースです。
システムが刷新されても人の意識が変わらず、重複品番が温存される事態は珍しくありません。

重複品番がもたらす営業/調達/生産現場の困りごと

では、重複品番の存在が日々の業務に何をもたらすのでしょうか。

発注ミスや二重在庫の発生
同じものを2つの品番でそれぞれ発注し、結果として“不要な在庫”を抱えがちです。
一方で、本来必要な部品が“見かけ上足りている”と誤認し、適切な調達が行われなくなるリスクもあります。
調達コストの無駄
統一すればスケールメリットが効くにも関わらず、別品番扱いのまま少量発注を繰り返し、仕入れ単価が高止まりします。
契約・交渉の際もサプライヤーとの情報共有が困難になります。
データ分析精度の低下
購買分析や原価管理の際、「どの単品がいくら発注されたか」「年間コストはどれくらいか」といった基本的な集計ができなくなります。
投資判断やコスト低減策の立案にも支障をきたします。
このような課題は一朝一夕で解消されるものではなく、根本的な仕組みと人の習慣改革を必要とします。

マスターデータ一元化のすすめ方

一元化プロジェクトのステップ

マスターデータ一元化プロジェクトは、以下のステップで進めると効果的です。

現状分析:全部署から現存する品番リストを収集し、システム上・エクセル上・紙帳簿上のデータも棚卸しする
命名ルール・コード体系の統一方針を決定
重複や類似品番の洗い出しとグルーピング
品目属性(寸法、材質、メーカーなど補足情報)の標準化
業務プロセス(発注、受入、品証、設計など)を横断して登録・更新のフローを設計
全社一元管理の新しいマスターデータベースへ統合
教育・運用ルールの徹底と、継続的なモニタリング体制の構築
まず大切なのは“現場の納得”を得ることです。
マスターデータの一元化で現場業務の何がどう良くなるか、具体的な成果を丁寧に説明し、関係者全員が同じ方向を向けるようにしましょう。

マスタークレンジング実践の手法

マスターデータのクレンジング(浄化)は、想像以上に根気の要る取り組みですが、一歩ずつ着実に進めることが肝要です。

主なクレンジング手法を挙げます。

品番・品名の正規化
同一部品の異表記(カタカナ・英語・数字表記ルールの違い)を統一します。
機械的な置換だけでなく、現場の“癖”を知る担当者の目視チェックも併用します。

類似品番のグルーピング
寸法・材質・用途ごとに「本当に同じものか」を設計者・技術者・購買担当と一緒にディスカッションします。

属性情報の穴埋め・精度向上
メーカー、図番、規格、ロット、発注単位など必須項目を埋めていきます。
場合によっては仕入先や外部資料から追加情報を得ます。

廃止品番・不使用品番の整理
過去にだけ使われていた品番や管理対象外となった品番を見極めて除外します。

検索性・拡張性を意識したコード体系構築
未来の取扱商品追加や海外拠点展開も見据えて、分類体系とコード長を柔軟に設定します。

AIやRPAなどデジタル技術の活用
近年では、類似品番の自動マッチングや属性穴埋め候補提示など、AI活用も現実的になってきました。

手作業とシステム処理のハイブリッド運用
完全自動化が難しい場合は、必ず“現場の肌感”を持つメンバーによる目視検証工程を設けます。
クレンジングは「一度やったら終わり」ではありません。
品目追加・削除・変更のフローを業務プロセスにきちんと組み込み、PDCAを回す設計が重要です。

これからの購買分析を支えるデータ基盤

高精度な購買分析が与えるインパクト

クレンジングされた品番マスターは、購買分析・SCMの最適化・経営戦略など多方面で力を発揮します。

全社・拠点を問わない「正しい購買金額」「正確な発注量」の集計
重点購買品目と仕入先の見える化によるコスト低減
設計/生産/調達/品質/物流の分野横断的な改善提案データの創出
法規制・セキュリティ対策への対応スピード向上
取引先とのサプライチェーン連携(SCM連携やサプライヤーポータル化)の基盤
特に原価・購買バイヤーを目指す若手や、サプライヤー側でバイヤー目線を知りたい方にとって、「どれが“本当に必要な部品で”、どこにどれだけ発注しているのか」を見極める力は、今後必須の武器となります。

アナログ業界でも実現できる業務オペレーション改革

「現場が忙しくて今さらクレンジングなどできない」「そもそもIT人材が足りない」

こうした声はごもっともです。
ところが、アナログ業界こそ、スモールスタートで“小さく始めて大きく育てる”のがコツです。

たとえば次のような工夫も有効です。

エクセルや現場手帳からのマスタ棚卸作業をパートタイマーや実習生に依頼し、属人性を取り除く
設計者・品質管理担当・購買担当のミニワーキンググループを組成し、「週1回1時間」だけでも継続検討する
ベテランOB・嘱託人材を活用し、運用ルールのチェック役/指南役に配する
既存基幹システム内でできる自動突合せ機能(マクロや条件付書式)を使う
最初からゴールを一元化におかず、現場にとって“役立つ”サブセットマスターから着手し、その効果を可視化して徐々に全体へ波及させる
こうした“地に足のついた運用”こそが、アナログ業界に根を張るマスターデータ一元化の本懐です。

まとめ:データの整理整頓から工場の未来を切り拓く

工場やオフィスの整理整頓(5S)は、現場力の根幹です。
実は、マスターデータの整理整頓も同じくらい重要であり、全ての業務の品質・効率・将来像に直結します。

「品番の重複撲滅」は、単なるデータメンテナンスではありません。
それは、購買部門が現場全体の本質的課題に向き合い、攻めの調達・SCM改革に舵を切る“礎”となる活動なのです。

現場力、調達力、経営力の底上げのため、まずできる小さな棚卸やクレンジングから始めてみませんか。
そして自信をもって、「うちの購買データは一味違う」と胸を張れる現場を一緒に作り上げましょう。

今の一歩が、製造業の未来を変える大いなる一歩となるはずです。

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