投稿日:2025年10月31日

宿泊施設がオリジナルスリープウェアを製造するための素材選定と縫製工程管理

はじめに:宿泊施設に求められる“特別なスリープウェア”とは

宿泊施設において、お客様がリラックスできるかどうかは、滞在の印象を大きく左右します。
中でも室内で着用するスリープウェア(パジャマやガウン)は、ベッドの寝心地と同じくらい、くつろぎや快適さを決定づける重要なアイテムです。

最近では大手ホテルチェーンだけでなく、旅館やビジネスホテル、ゲストハウスなども独自のオリジナルスリープウェアを製作し、ホスピタリティの強化に努めています。
その背景には、“どこに泊まるか”ではなく“どんな体験をするか”が評価軸になっている宿泊業界の変化があるからです。

本記事では、オリジナルスリープウェアの「素材選定」から「縫製工程管理」まで、ユーザー目線と業界経験を生かした実践的なノウハウを解説します。
今後の新規導入やリニューアルのヒントとしてご活用いただければ幸いです。

素材選定のプロセス:ユーザー体験とメンテナンス性の両立

素材に求めるべき4つの機能性

スリープウェアの素材選びで失敗しないためには、以下4つの機能性を意識する必要があります。

1. 肌触り・着心地
2. 吸湿性・通気性
3. 耐久性・メンテナンス性
4. ブランドイメージとの親和性

まず、ホテルや旅館ごとにターゲット顧客層(ビジネス・リラックス・ファミリー・インバウンドなど)を整理しましょう。
その上で、肌に直接触れるからこそ、とくに肌触りや通気性を重視した選択が求められます。

主な素材とその特徴

  • 綿(コットン):天然素材ならではの優しい肌触りと高い吸湿性。頻繁な洗濯にも耐えやすいが、ややシワになりやすい。
  • リネン(麻):夏場を中心に高い通気性と清涼感。ややゴワつきを感じやすいが、プレミアムな雰囲気を演出できる。
  • ポリエステル混紡:耐久性と速乾性が強み。しわになりにくく、メンテナンスに優れる一方で、天然素材に比べるとやや蒸れやすい。
  • ガーゼやパイル地:ふっくら感や柔らかさの演出が可能。特にリゾートや高級旅館でのリラックス感強化に効果的。

素材選定は、単なるコスト比較ではなく、着用感と運用コスト(洗濯、クリーニング、廃棄のしやすさ)まで念頭において決めることが、失敗しないポイントです。

昭和型アナログ運用と現代ニーズのギャップ

かつて製造業やホテル業界では、「とにかく丈夫」「とにかく安い」素材が重宝されてきました。
しかし、顧客体験が重視される時代では、“価格・耐久性だけ”では選ばれません。

たとえば綿100%の高級素材を使っても、洗濯対応で縮みやすければ、お客様に不満を与えてしまいます。
また、ポリエステル100%でコストを抑えても、チープな印象がブランディングに響いてしまうこともあります。

ここが「知っているようで知らない」「安さ至上主義からの脱却」につながる、素材選定最大のポイントです。
製造現場の目線と、ユーザー体験の“相互最適”を目指しましょう。

縫製工程管理の重要性:安心安全と品質の両立

オリジナル製造と既製品の違い

オリジナルスリープウェアの製造は、“既製品仕入れ”とは異なります。
デザイン・パターン(型紙)作成から始まり、生産ロット・素材調達・サンプル品確認・本生産・検品・納品、といった複数工程を経て、ようやく完成します。

この現場コントロールを一歩誤ると、意図と違うものが納品されるリスクもあるため、工場側との緻密なコミュニケーションが欠かせません。

品質トレーサビリティの構築

スリープウェアは、お客様の肌に直接触れる製品です。
そのため、「どの工程で、どんな管理がなされたか」「異物混入や不良品が発生した場合、原因がどこか」を追跡できる体制構築が必要になります。

ISO9001やHACCPなど大規模な認証取得ほどではなくとも、小規模な受託工場・縫製現場でも、以下のような帳票管理や工程ごとのサンプル保管は重要です。

  • 素材ロット・入出庫記録の徹底
  • 裁断・縫製工程ごとの生産指示書・作業記録
  • 最終検品(外観・着用テスト・引っ張り試験 等)の結果保管

これらは【不具合発生時の迅速な対応】に直結し、顧客信頼獲得を支える基盤となります。

現場流の工程改善:アナログとデジタルの融合

たとえば、従来のアナログ現場では“ベテラン職人のカンと経験”が全てでした。
しかし昨今では、縫製工程ごとにバーコード管理で進捗と責任者を見える化したり、サンプル写真をデータベース化して品質比較可能にするなど、アナログ×デジタルの融合が進んでいます。

「一着のスリープウェア」をきちんと工程管理できる体制=ブランド価値向上へのコミットでもあります。
古き良き“現場の肌感”と、先進的な見える化・データ活用のバランスが問われる時代となっています。

製造遵守ポイント:ユーザー満足と運用効率のバランス

サイズ展開と性別・年齢対応

多様な宿泊客ニーズに応えるには、大人用(S/M/L/LL)・子供用、およびユニセックス・男女別設計などきめ細かなサイズバリエーションが必要です。
しかし、多品種小ロット化すると製造コストや在庫管理が複雑化します。

ここで重要なのは「利用実績に基づくデータドリブン管理」です。
過去の利用動向を分析し、「週末利用が多い家族連れ」「シングルユースが中心のビジネスホテル」など、それぞれの宿泊施設ごとに最適な組み合わせ・在庫ボリュームを計画しましょう。
また、フリーサイズの導入や、調整可能なウエスト・袖構造の工夫もコスト削減策として有効です。

衛生対応と廃棄・再利用計画

清潔さへの配慮は、コロナ禍以降、宿泊施設がとくに重視すべきポイントとなりました。
抗菌加工・防臭加工を付与する素材選定や、頻繁なクリーニングに耐えうる縫製仕様を設定することで、“清潔感のある施設”としての差別化が可能です。
また、廃棄基準や再利用制度(リサイクルパジャマなど)も環境配慮型施設の評価につながります。

現場では、「破れ・ほつれの度合い」「シミや変色」「ボタンやファスナーの状態」など、明確な回収・交換基準を設けましょう。
可能であれば、回収サイクルや洗濯頻度の最適化も、全体コスト圧縮に有効です。

発注者とサプライヤーが押さえるべき折衝ポイント

製造業とバイヤーの“歩み寄り”の勘所

現場でよく起きがちな問題が「コストダウン要請」と「品質・納期」(QCD)のバランスです。
発注側は“より高品質を安く早く”望み、一方のサプライヤー(工場側)はリスクヘッジも含めコストと工程を守る姿勢が強化されています。

昭和的な「値段ありき・丸投げ」感覚を脱し、お互いに企画意図・最終顧客の利用シーンまで共有することが、トラブルや無理難題の防止に繋がります。
たとえば部材・縫製工賃の原価説明、生活耐久試験結果の提示、ラフサンプルでの早期フィードバック会開催など、“共創型”アプローチが成否を分ける時代です。

受発注トラブルとその回避策

現場では「納期遅延」「出来上がり寸法違い」「縫製不良によるクレーム」などが頻繁に発生します。
このリスクを最小化するカギは、「事前の具体的な仕様書」「初回サンプルのフィッティング確認」「工程ごとの進捗/不良報告」といった、“見える化と連携”を徹底することにあります。

また、「短納期発注による生産ライン圧迫」「突然のデザイン変更要請」など、発注側の事情で現場が混乱するケースは今も減っていません。
何を優先すべきか、どうコミュニケーションするべきかという現場志向の判断が、最終品質を左右します。

まとめ:オリジナルスリープウェアは「体験型ブランディング」の要

オリジナルスリープウェアの導入・刷新は、単なる“備品調達”ではなく、お客様の滞在体験を変革する重要なブランディング施策です。
素材選定や縫製工程の妥協なきクオリティ追求と、現場目線の効率的な管理運用、その両輪の“最適解”を見つけることが、選ばれる宿泊施設の条件となっています。

また、バイヤー視点でも、サプライヤー側との建設的な対話と工程の可視化を通じて、失敗やロスを減らす新たな調達標準を築くことが不可欠です。
昭和型の感覚だけにとらわれず、業界動向や現場発の課題を丁寧に掘り下げる“ラテラルシンキング”こそが、持続的な競争力の鍵を握ります。

宿泊施設・調達担当・サプライヤーそれぞれの立場の方にとって、この記事が明日からの実践ヒントとなれば嬉しく思います。

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