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車載用リチウムイオン電池の構成材料と信頼性安全性確保のポイント

目次
はじめに
自動車の電動化が本格化し、車載用リチウムイオン電池はパワートレインの心臓部として急速に普及しています。
一方、相次ぐリコールや火災事故が示すように、構成材料の選定や製造プロセスの僅かな差異が信頼性・安全性を大きく左右します。
本稿では、20年以上の現場経験を持つ立場から、基本材料の機能と調達ポイント、そして昭和的なアナログ文化が残る現場で安全を担保する勘所を解説します。
車載用リチウムイオン電池の市場動向と法規制
2030年には世界需要が現在比3倍超と試算され、原材料争奪戦は激化しています。
EUではBattery Regulation、米国ではIRAが発動し、原産地やリサイクル率の報告義務が強化されました。
国内でも電気用品安全法(PSE)に加え、UN38.3やIEC62660などの国際規格適合が必須です。
調達・品質部門は「安定供給」「価格競争力」に加え「規制適合」まで三拍子そろったサプライチェーンを構築する必要があります。
基本構成材料と機能
正極材
主流はニッケル系(三元系:NCM・NCA)とLFP(リン酸鉄)。
NCMは高エネルギー密度が魅力ですが、熱暴走リスクが高くコバルトの倫理調達問題も抱えます。
LFPは安全性とコストで優位ですが、低温性能に課題があります。
購買担当は「車両仕様」「市場ターゲット」「法規制」を勘案し、セルメーカーと二人三脚で最適ケミストリーを決定します。
負極材
黒鉛が主流ですが、シリコン複合材の採用が進んでいます。
シリコンは膨張率が大きくセル膨張・粉砕による寿命低下を招くため、バインダーや組成最適化が不可欠です。
黒鉛原料は中国依存度が高く、地政学リスクを分散させる調達網が欠かせません。
電解液・固体電解質
液系はEC・EMCを主体にLiPF6を溶解。
水分管理が甘いとHF生成で内部腐食が進むためppmオーダの乾燥環境が要求されます。
全固体電池は次世代本命ですが、硫化物系の量産ではガス発生や粉塵爆発の懸念もあり、安全対策投資は従来比1.5倍を見込む必要があります。
セパレータ
PE・PP多孔膜が一般的で、セラミックコートタイプは熱耐性を20~30℃引き上げます。
電池火災事故の多くは「セパレータの溶融→内部短絡」に起因するため、規格以上のシャットダウン性能評価が鍵となります。
バインダー・導電助剤
水系バインダー(SBR+CMC)は環境対応で普及しつつありますが、粘度管理が難しく、塗工ラインのスリットダイ目詰まりが頻発します。
経験的には「固形分比率43%以下」「撹拌周速8m/s以下」を守ると不良率が1/3に低減しました。
パック、BMS、筐体
セル単体の性能を活かすも殺すもパック設計次第です。
アルミ筐体は軽量ですが成形応力でセルを圧損させるため、発泡材スペーサを挿入し呼吸スペースを確保します。
BMSはSOC精度±3%が目安。
誤差が大きいと過充電検出が遅れ、熱暴走を招きます。
信頼性安全性を左右するキーポイント
材料選定時の留意点
・熱特性とエネルギー密度はトレードオフ。
・実車環境(‐30~60℃、振動5G)を再現する加速試験でリスクを顕在化。
・セル‐モジュール‐パックの階層で冗長設計し、“一枚岩の安全”を目指します。
プロセス管理とトレーサビリティ
湿度・温度・Coating Weightなど5M+1E(Environment)の変動要因をIoTでリアルタイム捕捉します。
しかし現場には今も「温湿度計の手書き記録」「Excel転記」が蔓延し、不正確なデータが横行。
RFIDとMESを導入し、ロット‐材料‐設備‐作業者を紐づけて自動記録すれば、リコール時の特定時間を3日→30分へ短縮できた事例があります。
品質試験と評価方法
・充放電サイクル試験:1000サイクルで容量維持率80%以上を目標。
・ネイル貫通、クラッシュ、熱箱試験で熱暴走の有無を確認。
・X線CTやインピーダンス解析で非破壊的に内部欠陥を検出。
不具合事例と未然防止策
事例:コーティングムラ→局所電流集中→銅溶解→内部短絡→発煙。
対策:AIビジョン検査+巻取りテンション自動補正でムラ発生率0.1%以下を達成。
昭和世代の「目視検査+熟練勘」に頼る文化を脱却し、デジタル根拠で不良を撲滅することが急務です。
調達購買の視点:コストとリスクをどう最適化するか
サプライヤー評価の新基準
従来のQCDに「R(Regulation適合)」「S(Sustainability)」を加えたQCDRSで多角的に評価します。
特に鉱物トレーサビリティや人権リスクは監査シートに明記し、監査頻度を年1回→四半期ごとに引き上げる動きが主流です。
サステナビリティとLCA対応
EU規制ではカーボンフットプリント表示が必須化。
調達担当は一次データ(直接排出)と二次データ(業界平均)を組み合わせ、1kWh当たりCO₂排出量を数値化できる体制を整えます。
アップストリームの再エネ電力導入支援やスクラップ回収スキーム構築は、コスト以上のブランド価値を生みます。
コモディティ化を見据えた契約戦略
正極材NCM811のスポット価格はニッケル相場に連動し変動幅が大きい。
長期契約では「LME価格リンク+鞘取り幅固定」方式が一般的ですが、調達側はボラティリティリスクを回避するため、上限・下限を設定するコリドー条項を盛り込みます。
代替原材料開発の進捗を共同開示するインセンティブ契約を結べば、技術情報を握ったまま価格吊り上げるサプライヤーに対抗できます。
まとめ
車載用リチウムイオン電池の安全・信頼性は、正極やセパレータといった材料ごとの特性理解と、昭和的勘頼みから脱却したデジタル管理の融合で初めて達成できます。
調達・製造・品質が「規制・環境・コスト」を同じテーブルで議論し、サプライチェーン全体でリスクを事前に潰し込む姿勢が重要です。
電動化の波は待ってくれません。
本稿を起点に、読者の皆さまがより安全で持続可能な電池ビジネスを構築されることを期待しています。
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