投稿日:2025年12月8日

メカと電気とソフトが噛み合わず責任の押し付け合いが起きる現場

メカと電気とソフトが噛み合わず責任の押し付け合いが起きる現場

製造業の現場で、メカ(機械)、電気、ソフト(ソフトウェア)がそれぞれの分野で高度化し、密接に連携する時代が訪れました。
これは、設備の自動化やIoTの導入、製品の多機能化を背景とした当然の流れです。
一方で、これら三者の間で責任の押し付け合い、いわゆる“たらい回し”が起こりやすく、現場が混乱する事例も跡を絶ちません。

本記事では、20年以上の現場経験から見えてきた「なぜ噛み合わないのか」「どこに課題があるのか」「何が解決の糸口になるのか」を、現場視点と業界動向を交え、深掘りしていきます。

メカ・電気・ソフト各担当の立場とは

メカ担当:古き良き現場力と変化への葛藤

メカ担当は伝統的に、金属加工や組立、機構設計など、現場に根付いた「実物を作る」プロです。
昭和からの流れを色濃く残し、熟練の感覚や経験則に頼る部分が多いのが実態です。

しかし、設備はPLCやサーボ、センサー群など、電子的な要素と不可分となり、従来の“モノづくり”だけでは語れません。
それでも「金属は触ってみなきゃわからん」「現物がすべて」といった気概が残り、他分野の主張を受け入れにくい空気が生まれます。

電気担当:制御系に強いが立場は中間

電気担当は、設備全体に電気・信号を通し、動作を制御する要となります。
電気回路や配線、センサー、PLCなどの設計・施工・調整を担うものの、装置の物理部分はメカ、制御ロジックの深掘りはソフトに明確に棲み分けられています。

そのため、「メカとソフト、どちらとも連携が必要だが主導権を持ちにくい」という構造的弱さがあります。
加えて、安全規格や法令対応、新技術追随など、“現場の声”より外部環境重視の意識が高まる場面も少なくありません。

ソフト担当:最先端の論理だが孤立しがち

ソフト担当は、近年急激に重視されてきた分野です。
設備や製品の多機能・多様化に伴い、ラダー、C言語、Pythonなど様々な制御・監視・情報系プログラムの設計実装を担います。

DX、人手不足、リモート対応といった業界動向をリードしつつも、「現場に足を運びづらい」「試運転・デバッグ時のみ現場入り」というスタイルが定着しています。
このため「ソフトが絡むと難しそうだ」「原因不明のバグはソフト頼み」といった評価や誤解が、昭和的現場には根強く残っています。

なぜ責任の押し付け合いが生まれるのか

1. 専門分化と相互理解の欠如

メカ・電気・ソフトは、要求される知識・スキルも異なり、教育体系や採用背景、人事評価軸まで違うことが多いです。
このため、「他部門のことはわからない」「自分たちの仕様は問題ないはず」という意識がはびこります。
設備や製品の不具合発生時、「自分たちの設計・施工に落ち度はなく、他部門側に問題がある」という主張合戦が過熱します。

2. 上流工程での確認・コミュニケーション不足

仕様決めや設計レビューの初期段階で、メカ・電気・ソフトがきちんと顔を突き合わせて突っ込んだ議論をする機会が意外と限られています。
各分野の用語や背景にずれがあるまま進み、後工程で「思っていたのと違う」「仕様の解釈が違った」と発覚するのは、日常茶飯事です。

3. “部分最適”が生む設計抜け・想定外

それぞれの部門が自分の領域だけで最適化を図るため、全体観点での“隙間”や“抜け”が発生します。
例えば、「メカ的にはギリギリ成り立っているが、電気ノイズでソフトが誤動作する」「ソフトの立ち上げシーケンスがメカの実際動作と合わない」といった“間”のトラブルが絶えません。

4. 組織文化・評価制度が後押し

昭和型製造業の組織では「失敗=減点主義」の文化が根強くだけでなく、各分野の「専門部署偏重」や「縦割り評価」が温存されている場合が多いです。
これが「自部門に責任を押し付けられたくない」「うちの範囲外だ」といった守りの姿勢を助長します。
さらに、「誰がリーダーか不明確」「全体最適を見てまとめる人がいない」ため、責任の曖昧化や押し付け合いに発展しやすいのです。

現場に残る根深いアナログ思考

“昔はうまくいっていた”の呪縛

工場の現場には「手取り足取りの現物対応」「目で見て、音で聞いて直す」アナログな思考・行動原理が強く残っています。
トラブル時も「まずはメカ・電気的に見直せ」「ソフトは最後でいい」となりやすく、ソフト担当とのコミュニケーションは後回し。
また、アナログ思考は部門間をまたがる原因究明を困難にし、結局「どこが悪いのかはっきりしない」「とりあえず様子見」といった場当たり的な対応を生みがちです。

紙図面・手書き管理から脱却できない事情

設計変更やトラブル情報の伝達も、依然として紙図面・口頭説明・手書きメモが中心です。
これにより、「図面の解釈が人によって異なる」「修正履歴が分からずミスが繰り返される」など、トラブルの温床となります。
また、ITやデータベース導入にも“腰が重い”文化が根付き、“変化できない現場”が責任の押し付け合いを助長します。

現場の“放置されやすい痛点”

結果として、設備やラインの「調整ごと」や「トラブルシュート」は、メカ・電気・ソフトのどこか、もしくは現場担当に“なすりつけられる”ことが常態化しています。
「また○○さんが来ないと直せない」「あいつの担当だから」といった属人化・ブラックボックス化が業務品質をさらなる課題にしています。

業界動向と今後求められる新しい連携モデル

“システムズエンジニアリング”という新潮流

業界先進層では、メカ・電気・ソフトの知見を横断的に束ねる「システムズエンジニアリング」や「クロスファンクショナルチーム」の導入が広がりつつあります。

設計初期段階から“全体最適目線”でリスク・コスト・トラブルシナリオを洗い出し、部門横断で仕様整合やレビューを徹底することで、従来の押し付け合いを構造的に防ぐことができる仕組みです。

“DX推進”による情報共有とプロセス改革

DX(デジタルトランスフォーメーション)による設計~生産~保全プロセスのデータ一元管理も有効です。
現場でもIoT機器やデジタルツインの活用が進み、各担当の作業や設計根拠、トラブル履歴をリアルタイムで共有・分析できる体制が少しずつ整ってきています。

これにより「どこの、何が、原因か」を定量的に洗い出し、部門間で冷静な議論や改善策に繋げられる素地が生まれます。

“現場経験+分野越境”の人材育成

今後の製造業界では、「一つの分野に特化」したスペシャリストだけでなく、“メカも電気もソフトもある程度わかる”ジェネラリストや「現場を知るバイヤー・サプライヤー」的立場の人材が求められるでしょう。

現場OJTやジョブローテーションを通じた“越境経験”、講座や資格による多能工化など、人材育成のアップデートも重要です。

バイヤー・サプライヤーから見た現場課題と連携のポイント

バイヤーの視点:本当に必要な要件の明確化

バイヤーは、機械・電気・ソフトの仕様が“かみ合っている”ことを前提にサプライヤーから購入先を選定します。
ですが、現場の温度感や事情を踏まえないまま「机上の要求」を伝えてしまうと、購入後のトラブルや責任問題が発生しやすくなります。

バイヤー自身が現場や設備担当と密に意見を交換し、要望や課題、潜在的なリスクを掘り下げることが、最終的なコストダウンやトラブル未然防止につながるのです。

サプライヤーの視点:現場主導型プロジェクト対応の重要性

サプライヤー側も、与えられた仕様そのままに「できます」と受けるのではなく、“実際の現場で運用される際に起こりそうな誤動作や調整箇所”まで想像し、提案型のコミュニケーションが求められます。

また、納品後も「メカ・電気・ソフトのどこが悪いのか」「どこをどう改善したら次につながるか」というPDCA(計画・実行・確認・改善)を、お客様(バイヤー)とともに回す姿勢が信頼につながります。

まとめ:責任の押し付け合いから“共創”の現場へ

メカ・電気・ソフトが“噛み合わない”現場は、製造業の伝統的な組織構造やアナログ文化、評価制度などが複雑に絡み合う極めて根深い問題です。
とはいえ、今後は技術高度化やDX化が不可避の中で、個人・組織ともに“分野越境”の意識を持った協働・連携が競争力の源泉となります。

「自分の担当範囲」だけでなく「全体ベネフィット」「現場目線の共創」を問い続け、バイヤー・サプライヤー含めた産業エコシステムで、現場力の底上げを目指していきましょう。

この記事が現場で苦労している方、将来のバイヤーやサプライヤーの皆様にとって、明日の一歩を踏み出すきっかけとなることを願っています。

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