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シワ残りを防ぐ機械的テンション緩和と蒸気仕上げの工夫

目次
はじめに:製造業現場の「シワ」とは何か
製造業の現場で「シワ」と聞いて、どのような状況を思い浮かべるでしょうか。
衣料品や繊維産業はもちろん、合成樹脂フィルム、ゴム、紙、金属箔など、ロール状原反を扱う多くの業界で「シワ」は厄介なロス要因となります。
近年は高品質化への要求が高まり、小さなシワも重大な欠陥、クレームに繋がりかねません。
特に昭和から続くアナログな製造現場では、シワ対策は十分とはいえず、今なお「なぜこんなにシワが出るのか分からない」と悩む現場も多い印象です。
本記事では、機械的テンション緩和と蒸気仕上げのポイントにフォーカスし、現場がすぐに実践できる工夫やバイヤー視点で注目したい管理の要点も含めて解説していきます。
シワ発生のメカニズムとアナログ現場で見落とされがちな本質
テンションの過不足が主因となる
原反を加工ラインにセットし、様々な工程を経て最終製品を作り上げる際、ロールを送り出し巻き取る「テンション(張力)」が不可欠です。
テンションが適正でない場合は即座にシワ、折れ、蛇行の原因となります。
昭和型の現場では、テンション調整の担当者の「カン」に頼るケースも多々見られ、ここに再現性や標準化の課題が潜んでいます。
自動化機械の導入率が上がっても、基本のテンション管理が杜撰では、最新機のポテンシャルを活かしきれません。
湿度・温度・下工程が与える影響
製造現場の空調環境がシワの発生に影響します。
特に繊維や紙、フィルムなどは温湿度環境で材料の伸縮性が大きく変わり、補正を怠ると、途中工程で思わぬシワが生じます。
また、原材料そのものに癖や歪みが残ったまま次工程へ送ると、最終製品でのシワ・ヨレへと繋がります。
これは上流部門の管理・情報共有も重要ということです。
機械的テンション緩和の実践ポイント
リターダ・ダンサーロールの活用
テンションを適切に一定化するためには、リターダロールやダンサーロールの設置が効果的です。
ロールとロールの間にテンションバッファとしてダンサーロールを挿入することで、巻き取り速度や入力側の送り速度が多少変動しても、一定のテンションが維持できます。
ダンサーロールは適正な位置に設置することが大切です。
設置後は、必ず目視とテンション計で確認し、必要に応じてチューニングしてください。
これが「職人のカン」を「見える化」し、だれでも再現できる現場の基礎力につながります。
ローラー径、表面粗度、ピッチの調整
シワが頻発する場合、まず機械構造に着目しましょう。
送りローラーの径が製品幅・厚みと適合していない場合や、ローラーの表面粗度が不均一になっている場合、微妙なテンション変動が生じます。
また、ローラーピッチの設定もポイントです。
現場では定期的なローラーの洗浄と表面の点検をルーチン化し、小さな劣化や摩耗も見逃さない体制が重要です。
テンション管理の「標準化」が品質を守る
現場でのテンション設定値、運転条件の標準化もシワ防止には不可欠です。
バイヤーの立場から見ると「どの工程で、誰が、どの値を、どう管理しているか」のトレーサビリティが確保されている現場は高評価につながります。
テンション測定値はデジタル記録し、累積グラフ化することで異常の予兆管理も行えます。
昭和型の現場では人力による日誌記録が主流ですが、できるだけデジタル化、自動収集化へシフトしましょう。
蒸気仕上げによるシワ残り対策の工夫
「熱と水分」で素材のストレスを解放
化学繊維や天然繊維、または一部の樹脂・ゴム、紙などは成形・加工時に内部ストレスを抱えています。
このストレス(テンションや歪み)がそのまま残っていると、製品の最終段階でシワとなって現れます。
蒸気仕上げは「熱と水分」により分子運動を促進させ、素材内部に残ったストレスを解放する工程です。
例えば縫製・仕上げ工程で蒸気アイロンやスチーム加熱を用いることで、常温では取れないシワやクセが改善されます。
蒸気の「量」「圧力」「温度」のチューニング
蒸気仕上げの効果を最大化するには
・蒸気量(流量)
・蒸気圧(圧力)
・蒸気温度
この3要素を最適化する必要があります。
蒸気量が少なすぎると表面だけしか加熱されず、深部のストレスが抜けません。
圧力と温度も素材や加工難易度ごとに最適点を探ることが求められます。
現場では試験と結果データを必ず記録し、条件に対する改善度を見極める試行錯誤を繰り返しましょう。
アナログ現場の「勘と経験」も可視化する
長年の職人技には確かな根拠がありますが、属人化すると「再現性」「教育」「多能工化」に障害となります。
蒸気仕上げ時は
・蒸気通過後の素材ハンドリング
・短時間での温度復帰・冷却(仮置きエリアの気流・温度管理)
・加圧・圧接時の強さと間合い
についても、数値化できる箇所は積極的に見える化しましょう。
現場でよくあるのが「ベテランが休むと急にシワ不良が増える」事案です。
作業工程の動画撮影・作業条件の記録・異常傾向のラベル管理などで初心者とベテランの差分を抽出し、全体最適化していくことが必要です。
工程改善でのシワ防止—ラテラルシンキングによる提案
視点を変えて、工場全体の「流れ」を俯瞰する
シワ対策で「物の流れ」「人の流れ」「情報の流れ」全てが関連します。
私たちが工場長だった時代に最も効果が出たのは、個々のマシン調整だけでなく、
・材料入荷から出荷までの全工程を分断せず「見える化」する
・工程ごとの応力(テンション)、温湿度、経路設定を多点でデータ収集し、異常傾向を早期発見する
・現場の作業者に「なぜこの工程でこのテンションでこの作業をするのか」の理論的理由を教育する
これらを徹底したことです。
従来は「ここの機械だけ良くしろ」など部分最適志向に陥りがちですが、上流から下流までの流れをつなぐことで根本的な改善が可能です。
サプライヤー・バイヤー協業の新たな地平線
今、多くの業界で「バイヤーとサプライヤーの壁を超えた製品開発・工程改善」の流れが加速しています。
バイヤーは製品の「見た目」や「合否」だけに目を向けるのではなく、「なぜ不良が減ったのか」「そのプロセスでどのような工夫や知見が生み出されたのか」までサプライヤーから情報を得て、共同で仕組み、教育体制、保証能力まで磨き上げることが今後の競争力になります。
サプライヤー視点でも「バイヤーはこういう情報や現場運用の透明化を求めている」という意識が重要です。
現場としては
・改善ACT(行動)のビフォーアフター効果を資料化
・失敗例や再発防止コツも積極的に共有
することで、信頼感もUPし、サプライチェーン全体の品質競争力を底上げできます。
まとめ:シワ対策は「現場力」と「協働知」の結晶
シワ残りを完全にゼロにすることは難しいですが、現場の知恵と工夫、そして多職種・多立場の連携によって大幅な改善は可能です。
テンション緩和には「見える化」「標準化」「部品・装置の微調整」が本質です。
蒸気仕上げでは「チューニング」のためのデータ蓄積と再現性のある作業が鍵となります。
そしてラテラルシンキングを駆使し、「上流から下流まで」「サプライヤーからバイヤーまで」全体を俯瞰して常に新しい着眼点を持つことが、この変革期の製造業を支える力となるでしょう。
この記事が、現場や調達部門のみなさまの気付きや実践の一助となれば幸いです。
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