投稿日:2025年6月11日

電磁ノイズ発生のメカニズムとEMC対策

電磁ノイズ発生のメカニズムとは

現場で悩まされる「電磁ノイズ」とは何か

製造業の現場では、多種多様な機械装置や計測機器が動作しています。
そのなかで、しばしば問題となるのが「電磁ノイズ」です。
これは、簡単に言うと意図しない電磁波が装置間を飛び交い、機器の誤動作や停止、品質トラブルなどを引き起こすものです。
特に工場内では、高圧電流を用いる溶接機、モーター、インバーター、さらにはパソコンやネットワーク機器など、ノイズ源が至る所に存在します。

電磁ノイズは一見すると目に見えませんが、現場作業者や技術担当者にとっては厄介な存在です。
イミディエイトな障害だけでなく、間欠的な品質トラブルや、原因不明のサイクル停止を招くことも少なくありません。

なぜ発生する? 電磁ノイズの発生メカニズム

電磁ノイズが発生する主な原因は、電圧や電流の急激な変化です。
電気回路においてスイッチのON・OFF、リレーや接点の開閉、モーターの起動・停止などは全てノイズの発生源となります。

たとえば、工場で使う大型モーターの始動時には瞬間的に高い突入電流が発生し、その際に強い電磁波が発生します。
また、溶接ロボットに至っては、アーク放電そのものが強力なパルスノイズを生み出します。

ここで重要なのは、「電源回路」「信号回路」「アース回路」の3つの経路からノイズが混入・伝搬するという点です。

– 電源回路:スイッチング電源や電動機などからの伝導ノイズ
– 信号回路:配線の引き回しによる誘導ノイズ
– アース回路:共通アース上での電圧差による循環ノイズ

どれも現場で経験するものばかりです。アナログ装置が多い工場ほど、配線設計やアース工事が「昭和的」になりがちで、この問題が顕著です。

製造業現場におけるEMC(電磁両立性)の重要性

EMCとは? 法令遵守だけでは終わらない現場の責任

EMC(Electromagnetic Compatibility、電磁両立性)とは、「機械や装置が自ら発する電磁ノイズで他の装置に悪影響を与えず、また外部からのノイズに自身も耐性を持つ」という総合的な性能のことを指します。

ISOやIEC規格をはじめ、日本国内では電気用品安全法や各種業界ガイドラインにより、EMCへの対応が求められています。
しかしながら、書類の上の認証取得や単なる試験通過だけで問題解決に至らないことは、現場の方なら痛感しているはずです。

– 実際の工場環境で想定外のトラブルが頻発する
– サプライヤー製品同士の「相性問題」が発生する
– 電磁ノイズ対策費があとから膨大になる

こうした背景から、EMCは設計段階から生産、保全、調達に至る全プロセスでの考慮が必要です。

現場目線でみるEMC無対策のリスク

EMC対策の遅れ、それは多大なリスクを伴います。
具体的には、以下のようなトラブルにつながります。

– 製品試作段階ですでに誤動作やノイズ混入が発生
– 工場導入後の設備トラブル、突発停止
– 出荷直前での異常波形発見によるリワークや納期遅延
– サプライヤーとバイヤー間のトラブル増加

現場や装置ごとに異なるノイズ環境ですが、「昭和的な設備配線(ベタアース、無理な延長)」が根強く残っている場合は特に注意が必要です。
また、IoTや自動化の波が進む今、EMC対策の重要性はますます高まっています。

実践的なEMC対策の進め方

①原因究明から始めるノイズマネジメント

まず大切なのは、「どこで・どんなノイズが発生しているか」を明確にすることです。
怪現象のような異常停止や誤動作も、地道な原因究明によって真のノイズ源にたどり着くことができます。

現場でよく使うアプローチは次の通りです。

– ノイズ発生タイミングと装置動作を突き合わせる(再現実験が有効)
– オシロスコープやスペクトラムアナライザーによる波形観測
– 簡易的なポータブルノイズメーターによるエリアサーベイ

問題となっているラインや装置に集中的にアプローチし、「発生源」と「被害装置」を特定します。
こうした現場的な根本原因対策は、データ収集と作業者の経験の積み重ねから生まれます。

②配線設計・アース管理の見直し

もっとも手軽かつ強力な対策が配線とアースです。

– 電源系・信号系ケーブルの分離(分電盤からのルート見直し)
– ノイズフィルターやコアによる伝導カット
– アースポイントの一点接地、過剰アースの排除
– シールドケーブルの正しい使い方

現場で特によく聞かれる失敗例が「シールド線を両端アースして逆にノイズを取り込んでしまう」などです。
また、昭和時代の古い配線をそのまま流用し続ける場合、アース不良や共通インピーダンスの問題が必ず表面化します。

サプライヤーや保守業者まかせではなく、工場側(バイヤー側)が標準仕様として工事基準を明確化しましょう。

③設備設計段階からのEMC設計

近年は、設計初期からEMC対応を見込む「フロントローディング型」が主流になりつつあります。

– 機器レイアウトの工夫(ノイズ源から遠ざける)
– 板金・筐体の導電接続、パッキンやガスケットによるシールド構造
– 基板設計の段階でのグランド設計、パターン最適化

設計者と製造現場(現場・バイヤー)の意思疎通がカギとなります。
サプライヤー側も、納入後のEMCトラブルによって信頼失墜やコスト増が発生するため、双方共通の「EMCガイドライン策定」が推奨されます。

④人づくりと組織文化の鍛え直し

最新装置や新材料への投資以上に重要なのは、「人」の知見と意識です。
工場の現場保全担当、工程設計者、調達担当者が「EMC」の知識を共有し、属人的なノイズ解決ノウハウを組織として体系化することです。

昭和から続く“現場力”に加え、IoT時代のデータ分析やデジタル計測を組み合わせていくことが、これからのEMC対策の王道です。

サプライヤー・バイヤーそれぞれの視点:EMC対策の新潮流

サプライヤー目線で知りたい現場バイヤーのホンネ

サプライヤーにとって、単なるスペック上のEMC対応だけではバイヤーの信頼は勝ち取れません。
バイヤーが真に欲しているのは「現場実装までのサポート」「長期安定運用」「カスタマイズ対応力」です。

– 工場独自のノイズ事情に寄り添った仕様提案
– 現場での立ち合いテスト、ノイズ再現性の確認
– 納入後のEMCトラブル対応フローの明確化

バイヤー側は、自社の現場事情や運用課題を忌憚なく伝えることが、よりよい製品導入の近道です。

調達購買から見た「選ばれるサプライヤー」とは

バイヤーの立場としては、「価格」と「納期」だけではなく、EMC設計の知見やサポート実績を重視する傾向が強まっています。

– 多様な導入事例・現場支援経験を持っている
– EMC設計ガイドラインに則ったドキュメント提出
– 独自のEMC評価ラボやシミュレーション体制がある
– トラブル発生時の対応速度と、現場改善提案力

これらの項目で「現場目線」を持つサプライヤーは、バイヤーにとって非常に魅力的です。

まとめ:電磁ノイズ対策で未来の工場を変える

製造業の現場では、昭和から続くアナログ思考やベテラン経験者のノウハウも大切ですが、電磁ノイズという見えない脅威には、今こそ科学的・体系的なアプローチが欠かせません。

EMC設計は、単なる“おまけ業務”ではなく、工場現場の堅牢性・生産性・サプライチェーン全体の品質を底上げする重要なテーマです。
現場で感じる些細な違和感にもアンテナを張り、地道な改善と知見の共有を急ぎましょう。

サプライヤー・バイヤー双方が腹を割って協力し合い、昭和的な「なんとなく大丈夫」から脱却し、未来志向のEMCマネジメントを実践する。
これが、これからのものづくり現場を支える新たな地平線となるのです。

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