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医療機器レギュラトリーサイエンス基礎とリスクマネジメント要点

目次
はじめに:医療機器産業におけるレギュラトリーサイエンスの重要性
医療機器産業は、いまや日本のものづくり産業でも成長が期待される分野です。
高齢化社会の進展や先端技術の導入にともない、市場規模は年々拡大傾向にあります。
その一方で、国際競争が激化し、製品の安全性や有効性を担保するための規制への適応がかつてないほど重要になっています。
「レギュラトリーサイエンス(Regulatory Science)」は、まさにその課題解決のカギを握ります。
本記事では、製造業の現場や調達・管理職経験に基づく視点から、医療機器レギュラトリーサイエンスの基礎とリスクマネジメントの要点を、実践例を交えつつわかりやすく解説します。
レギュラトリーサイエンスとは何か
定義と役割
レギュラトリーサイエンスとは、「安全かつ有効な製品が、社会に速やかに届けられるよう、科学的根拠に基づいた規制の体系化や評価技術を探求する学問体系」を指します。
製造現場で例えるなら、ルール(規制)を「守る」だけでなく、「現実の生産特性」や「科学的知見」を融合させて最適な運用やルール作りに寄与する姿勢です。
たとえば、医療機器の設計~量産、品質管理、サプライヤーとの交渉、バイヤー調達の現場でも、この「レギュラトリーサイエンス的」思考が現場力を底上げします。
医療機器業界で特に求められる理由
医療機器は人命に直結します。
一方で、日進月歩のテクノロジー、IoTやAI技術の導入により、法規や標準化がしばしば追いつかない実情もあります。
厳しい規制要求(日本では薬機法、ISO 13485、海外ではFDAやMDR等)は必要不可欠ですが、現場レベルでは効率的な生産や”昭和的アナログ”と先進性の両立という難題も立ちはだかります。
現場の「気付き」をレギュレーションや製品改善にフィードバックできる体制づくりが、企業の競争力を大きく左右します。
医療機器レギュレーションの基礎知識
日本の代表的な規制:薬機法(旧薬事法)
まず日本国内で医療機器ビジネスを展開する際、避けて通れないのが「薬機法」です。
従来の”薬事法”時代から大幅な改正が進み、GMPなどの製造管理・品質管理基準の遵守、設計・開発プロセスでの「記録の残し方」、リスク管理義務など、求められる水準が年々高度化しています。
2021年の改正では、「QMS適合性調査」が一層重要視され、サプライヤーへの監査(監査員の力量やエビデンス確保)も強化されています。
バイヤー・調達担当者も、自社のQMS体制だけでなく、サプライヤーのQMS対応力を評価するスキルが求められる時代です。
国際規格(ISO 13485、ISO 14971)と欧米規制(FDA、MDR)
グローバル展開を視野に入れる場合、日本だけでなく「ISO 13485(医療機器の品質マネジメントシステム規格)」や「ISO 14971(リスクマネジメントの国際規格)」の理解と運用が不可欠です。
また、アメリカではFDA(食品医薬品局)への申請、欧州ではMDR(医療機器規則)やCEマーキング取得など、各国で特有の規制・監査体制が確立されています。
「紙文化・はんこ文化」では通用しない、「監査に耐えうる記録」「トレーサビリティ」を現場に根付かせることが急務です。
リスクマネジメントの要点:ISO 14971の現場運用
リスクマネジメントがなぜ必要か
医療機器の適用範囲は、「命と健康の維持」に直結します。
そのため、本質的なリスク低減活動は、規制や監査以前に「現場の当事者意識」から生まれるものです。
ISO 14971は、「リスクの特定」、「評価」、「制御」、「情報の発信」というリスクマネジメントプロセスを厳格に定義しています。
バイヤーやサプライヤーも、自社製品や部材が「どのようなリスク要因を持つか」を、”紙の上”だけでなく、製造・流通・設置・使用の全ライフサイクルで捉え直すことが不可欠です。
実践的なリスクマネジメント体制の構築方法
昭和時代の「慣例」「経験則」だけに頼る現場運営は、医療機器業界では通用しません。
1. プロセスごとのFMEA/FTA導入
製造現場では故障モード影響解析(FMEA)、フォルトツリー解析(FTA)は単なる”文書仕事”ではなく、作業標準書や作業者教育と一体化させてこそ意味があります。
各工程で「どんな失敗が起こりうるか」「それにどう対応するか」を多職種(設計・製造・品質・調達)で”見える化”し、共有することが肝心です。
2. 市場監視・フィードバックの徹底
完成品が出荷された後も、苦情対応、リコール事例分析、市場フィードバックの迅速収集と分析・対応が求められます。
調達・購買担当者も、「どんな異常がサプライヤー起因で起きたか」をエビデンスと共に持つことが、次回調達や契約交渉を優位に進める決め手になります。
3. リスク管理の「文化」醸成
トップダウン(一方的号令型)だけでなく、”現場の声”をすくい取るボトムアップ型リスク管理も重要です。
たとえば、定期的なリスクレビュー会議や、現場提案制度などは、アナログ文化の強い現場でも取り入れやすい手法です。
調達購買・バイヤー目線でのリスクマネジメントの具体策
サプライヤー監査と品質向上
医療機器業界では、サプライヤーの管理能力が製品リスクそのものに直結します。
現場の製造品質・納期管理に加え、「監査の目」で評価する着眼点には以下があります。
– 承認図や規格書の管理方法・履歴の整合チェック
– 製造現場の5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)徹底度
– 変更管理手続きの社内周知状況
– 作業者教育訓練記録の有無と更新頻度
これらを”書類”だけでなく、現場の実態と突合して評価する目を持ちましょう。
調達先多様化リスクとその対応
コスト競争に負けないためにはサプライヤー選定の多様化も必要ですが、「代替調達」と「変更管理」のリスクが常に存在します。
たとえば、最近はコロナ禍や地政学リスクの高まりで部品供給不安定による生産遅延も現実問題化しています。
新規サプライヤー採用・部材変更時には、「バリデーション」「資料提出」「変更通知プロセス」など、規制当局への説明責任も意識して体制を構築しましょう。
調達・バイヤーの対外交渉力と組織内調整
医療機器バイヤーの役割は、単に「安く・早く」材料をかき集めることではありません。
経営層から開発・設計・現場・サプライヤーに至るまで、「安全・コンプライアンス・コスト・納期」の複眼で全体最適を目指す存在です。
時に規制要件と事業計画が相反することもありますが、「科学的根拠」と「現場の実情」をもって各所に説明・折衝できるスキルがこれからのバイヤーには必須です。
アナログ文化からの脱却とデジタル化の推進
“紙・はんこ文化”を乗り越えるには
現場には、Excelベースの記録や紙台帳など、アナログな運用が今なお根強く残っています。
しかし監査対応の際、「データ取得の一貫性」「タイムスタンプの信頼性」など、デジタル化でしか担保できない要素が多々あります。
今後は、MES(製造実行システム)、電子バッチ記録、クラウドを活用した品質記録の一元管理など、デジタル技術を段階的に導入することが重要です。
現場力を活かしたデジタル変革事例
たとえば、作業手順書や変更履歴の電子管理化、AIによる外観検査装置の活用、IoTセンサでの異常検知とリアルタイムでのエスカレーション体制構築などがあります。
こうした現場発のDX推進は、昭和的な”ものづくり魂”を新世代に引き継ぐためにも、現場・管理職の「率先垂範」が成否を分けるポイントです。
サプライヤー・バイヤーの視点から見る市場動向と今後の展望
グローバル化する競争とガバナンス強化の波
日本国内のみならず、海外サプライヤーとの連携や現地生産・現地調達は今後ますます増加します。
その中で、「第三者監査」「グローバルな認証」「現地法規」といった多元的な対応力が企業の差別化ポイントとなります。
昭和的な「義理・人情・なあなあ主義」では通用しないグローバルビジネスの厳しさを、現場も管理職も再認識する必要があるでしょう。
人材育成と現場知見の継承
医療機器レギュラトリーサイエンスを理解し、適用規格・現場運営・デジタル変革をリードできる人材の育成が急務です。
とくに若手バイヤーやサプライヤー担当者には、「なぜこのルールが必要か」「どこまで柔軟にできるか」を現場実例から学ぶ場を設けることが、将来への布石となります。
まとめ:レギュラトリーサイエンスと現場の総合力が未来を切り拓く
医療機器レギュラトリーサイエンスは、単なる「守るべき規則」ではありません。
製造現場の知恵、調達バイヤーの交渉力、サプライヤーの品質力が一つになって、初めて真のリスクマネジメント体制が築かれます。
現場視点の知恵と、グローバルな最新知見の獲得、それを現場改善へと昇華する実践力を持った人材こそが、これからの医療機器産業の発展を支えるカギとなるでしょう。
今後も、製造業の現場から得られる知見や工夫を通じて、みなさんとともにこの分野の進化を後押ししていきたいと考えています。
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