投稿日:2025年10月25日

“おいしさの再現率”を数値で測るための試験分析と官能評価の導入法

はじめに:時代が求める“おいしさ”の数値化

消費者が食品を選ぶ基準として「おいしさ」が重要視されている現在、その「おいしさ」をどのように維持・再現し、保証していくのかは製造業における大きな課題です。

特に製造ラインの自動化やグローバルなサプライチェーン構築が進む中で、一貫した品質を届けるためには「おいしさ」という主観的な価値を、再現性を持ってコントロールしなければなりません。

今回は、実際の製造現場での視点を織り交ぜながら、「おいしさの再現率」を数値で測るための試験分析、さらに官能評価の具体的な導入方法について詳しく解説します。

おいしさの“再現率”とは何か?

おいしさの再現率とは、製品ごとに設定したおいしさの基準が、製造ごとにどれだけ安定して再現できているかを定量的に示す指標です。

消費者は企業やブランドに対して「いつ食べても同じおいしさ」を期待していますが、その期待に応えるには個別の製造ロットごとに再現性を確かめ続けなければなりません。

そこで必要となるのが「数値に基づくおいしさの管理」と「人の感覚による最終ジャッジ」です。

昭和のアナログから脱却する意義

以前はベテラン職人の「勘と経験」によっておいしさがコントロールされていました。

しかし、生産体制が大規模化し、グローバルサプライが当たり前になった現代では、属人性の強いアプローチでは安定した品質を維持できません。

“感覚”の世界だったおいしさも、今や「データ」と「分析」で管理するフェーズに突入しています。

おいしさの数値化を支える試験分析の手法

おいしさの定量化を目指すうえで、まず「分析評価」が欠かせません。

以下のような科学的試験手法が現場では標準化されつつあります。

主成分分析(PCA:Principal Component Analysis)

原材料・添加物・仕上がり状態など複数要素を“まとめて”数値化・イメージ化できる強力な分析法です。

製品ごとの“味の特徴”や“変動要因”を多次元的に解析し、狙った味・香り・テクスチャがどれほど再現されているかを可視化できます。

クロマトグラフィーやスペクトル分析

HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、GC(ガスクロマトグラフィー)、MS(質量分析計)など先端の分析装置を活用することで、香気成分、甘味やうま味成分などのおいしさに直結する化学物質を高精度で測定します。

この値のばらつき=“再現率のブレ”につながります。

テクスチャーアナライザーによる物性測定

シャリッとした歯ごたえや、とろける食感など、物理的な食感も“おいしさ”の重要な要素です。

市販のテクスチャーアナライザーや粘度計を使って、硬さ・柔らかさ・弾力などを数値で管理します。

官能評価:人の感覚でしか分からないポイントを補完

機械による数値化が進む一方で、人間の感性による“最後のジャッジ”は依然として重要です。

これが「官能評価」―つまり選ばれた審査員による味・香り・外観・食感の評価です。

官能評価の代表的な手法

・ランキング法(比較して順位を付ける)
・二点比較法(どちらが優れているかを判定)
・点数法(5段階など、数値化して表現)
・記述法(特徴的な味や香りなどを言語化)

官能評価はクリティカルコントロールポイント(CCP)や最終品質保証の意味でも活用されており、「この数値まで許容できるか?」を“味覚で最終認証”するプロセスです。

パネル選定・育成のポイント

官能評価に従事するパネル(審査員)は、個人差を抑えつつ“標準的な感性”を持つ人材が求められます。

定期的なトレーニングや基準認識の共有で、“ぶれない判定力”を養成することが重要です。

また、現場従業員や社内バイヤーだけでなく、サプライヤーや購買側の視点も取り入れると、生産現場に閉じない客観性が高まります。

おいしさ再現率のトラッキングと改善サイクル

せっかく試験分析や官能評価を連動させても、現場で「再現率の見える化」ができなければ本末転倒です。

再現率をPDCAサイクルで管理するには、以下のフローがポイントになります。

1. 基準値&許容範囲の策定

分析値と官能評価の結果を突き合わせ、ロットごとに「この範囲に収まれば合格」という基準値・許容範囲を明確に設定します。

これにより、製造条件のバラつきがどこで“逸脱”し始めるかの閾値もコントロールしやすくなります。

2. 定点観測と異常検知

製造ロットごと、あるいは生産日ごとにサンプリングし、分析・官能評価を繰り返します。

過去データと最新データを比較し、再現率の“下限ライン”に異常が出ていないかをモニタリングします。

3. クローズドループでの工程改善

再現率に“ブレ”が検出された場合、その原因を特定し、製造条件や原材料の見直しにフィードバックします。

工程の自動化・標準化が進んでいる場合でも、微調整や定期的な見直しは欠かせません。

デジタル化と現場力の融合:DXの真価とは

近年はIoTセンサーやAI画像解析などのDX技術も、おいしさ管理の世界に押し寄せています。

しかし本当に大切なのは、これらのデジタルツールと“現場で培った官能評価ノウハウ”をどう融合させるかという視点です。

“昭和的方法”だけでは抜け漏れも多くなりますが、逆に“AI頼み”では本来の「おいしさ」の本質からズレてしまうリスクもあります。

現場の「勘」と「データ」のハイブリッド活用こそが、これからの競争力となるのです。

バイヤー・サプライヤーから見た数値化の意義

購買やバイヤーの立場としては「仕様・スペック化されたおいしさ」は交渉・品質保証の武器となります。

客観データと官能評価の組合せによって、「消費者満足度」を維持しやすくなりますし、品質問題が発生した際も、責任の所在や改善ポイントが非常に明確になります。

サプライヤー側も、これら基準を積極的に開示し、現場の標準化に努めることが信頼獲得につながります。

過渡期にいる日本の食品業界の課題

欧米では食品の官能評価+分析管理の標準化が非常に進んでいますが、日本ではまだ職人技への依存が根強く残っています。

“昭和マインド”からの脱却と、“数値による説明責任”の文化形成は、この10年で業界が大きく発展するための最重要課題です。

まとめ:おいしさの再現率数値化は、業界を変える

おいしさの再現率を数値で測り、官能評価と連動させた品質管理は、たんに製造現場だけの話ではありません。

サプライチェーン全体、調達の現場、バイヤー活動、さらには企業ブランドまでも左右する、極めて“本質的な競争力”の源泉です。

製造業に携わる皆さんは、ぜひ“分析”と“現場の感性”のバランスを意識しながら、この現場視点の品質保証モデルを自社にも導入してみてください。

今後の食品製造は「おいしさ=技術力」という時代に突入しつつあります。

職人芸とデジタル、官能とデータ、その両輪を武器に「時代を超えた再現性」を目指しましょう。

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