投稿日:2025年8月16日

国内共同配送ミルクランの採用で内陸運賃を抑える集約物流デザイン

はじめに:製造業を取り巻く物流と時代の変化

製造業の現場では今、物流コストの高騰に大きな関心が集まっています。
特に内陸運賃は、サプライチェーン全体の効率化を求められる中、頭を悩ます大きな課題です。
少子高齢化による労働者不足や、燃料価格の上昇、ドライバーの働き方改革など、これまで常識だった運送スタイルが通用しなくなっています。

これらの状況下で注目されているのが「共同配送ミルクラン」という手法です。
本記事では、アナログな昭和体質が色濃く残る業界の現場目線から、なぜ共同配送ミルクランが選ばれ、どのような集約物流デザインが内陸運賃最適化に寄与するのか、深く掘り下げて解説します。

共同配送ミルクランとは何か?その仕組みと特徴

ミルクランの基本的な考え方

「ミルクラン」とは、欧米の酪農家の集乳方式から生まれた物流用語です。
複数の納品先や仕入先を一筆書きルートで巡回し、貨物を効率的に配送・集荷する方法です。
日本でも1990年代から一部の業界、特に自動車産業で先行採用されてきましたが、サプライチェーンの多様化とコスト圧縮要請により、最近では幅広い製造業で注目されています。

共同配送の意義と現場メリット

このミルクランを「共同配送」という枠組みに組み込むことで、複数の企業や工場・拠点が1台のトラックをシェアし、物量を集約します。
配送車両の積載率が上がる一方で、一社では負担しきれない細かな配車・積み替えコーディネートや、配送タイミングのすり合わせといった難しい課題を「共助」の精神で乗り越えるのが特徴です。

なぜ今「共同配送ミルクラン」なのか?時流がもたらす必然性

昭和型個別配送の壁と、その限界

日本の製造業物流は長らく、自社トラックによる個別配送が基本でした。
「積載効率は度外視」「出荷基準は現場都合」「バラ積み上等」など、納期遵守さえできていれば“物流はコスト”という昭和型マインドが根強かったのは事実です。

しかし、これが今、通用しなくなりました。
ドライバーの働き方改革関連法により、総運転時間や時間外労働に厳しい制限が課され、ドライバー不足は解消されるどころかますます深刻に。
物量の波動や突発的な便の増減に、リアルタイム対応ができない運送会社や現場も続出し、その“しわ寄せ”が内陸運賃高騰に直結しています。

労働力・コスト・環境への対応

全国的に高齢化が進み、地方を中心にトラックドライバー数は急速に減少中です。
油断していると、荷主が「出荷したいのに配車できない」「従来の単価では請け負ってもらえない」といった事態も増えています。

また、燃料価格も安定せず、運送会社の原価率上昇につながります。
この上で、CO2など環境負荷対応という社会的プレッシャーも高まり、「積載率向上」「車両台数削減」が企業価値向上にも直結してきています。
その答えのひとつが「共同配送ミルクラン」なのです。

共同配送ミルクランによる集約物流デザイン:現場実践の勘どころ

物流集約化で実現できる5つのポイント

現場レベルでミルクラン式共同配送を設計・運用する際、次の5点がカギとなります。

1. 複数拠点・サプライヤーの出荷日・時間帯の“歩調合わせ”
従来は「各社ばらばらに準備、都度トラック手配」だったものを、「同じエリア同士・納入先同士集約して週2回など定期出荷」に再設計します。
自動車業界での“ジャスト・イン・タイム”(JIT)生産との親和性も高いです。

2. 集約・分割拠点(ハブ拠点)設計
物量や地理的条件に応じて、共同センターやデポを設け、一次集約・仕分け・積み直しを現地で機動的に行える体制が不可欠です。

3. 配送ルート最適化
AIや高度なルートエンジン、あるいは現場ベテランドライバーのノウハウを組み合わせて、道路事情や渋滞予測を考慮した“一筆書きルート”を日々柔軟に設定します。

4. 積み替え・荷役作業の省力化
サプライヤー間での「標準コンテナ化」や「パレットの共通化」が、積み下ろし手順のスピードアップ・負荷低減に大きく貢献します。

5. 継続的なPDCA
現場の意見を柔軟に集約しトライ&エラーで課題抽出、「とりあえずやってみて現物を観察」する姿勢が重要です。

バイヤー・サプライヤー双方の“腹落ち”が必須

物流集約の最大の壁は「自社の都合優先」したいという各社個別最適化の意識です。
“自社の支障なく、かつトータル最適化の理念をみんなに理解してもらえるか”が成功の分かれ目です。
バイヤー(調達側)は納期遅延リスクや品質問題、サプライヤー(供給側)は出荷作業負荷やトラック積載順序への懸念があるので、透明な情報共有・インセンティブ設計が欠かせません。

共同配送ミルクラン導入の壁と乗り越え方

昭和型文化の「抵抗勢力」にどう向き合うか

「うちは前からこのやり方だから」「急な注文には今の個別配送でなきゃ困る」
こうした現場の声は、決して無視できません。
ここで重要なのは、経営層や調達部門が“現場の知恵”に敬意を払い、「まず一部だけ小さく試す」「定量的な効果を見せる」ことです。
新しい方式を押し付けるのではなく、従来型配送とデータ比較し“納得感”を得る形で浸透させましょう。

物流現場デジタル化推進の活路

「紙伝票・FAX文化」から「デジタル納品・リアルタイム進捗管理」へと進化できれば、より多拠点化や細かな配送形態にも柔軟に対応可能です。
荷主・運送会社・サプライヤー間のクラウド連携で物理的な現場改革が加速します。

導入事例:国内メーカーの集約物流改革

A社:部材サプライヤー間のミルクラン活用

関東圏で複数のサプライヤーから細かな部材を調達するA社では、納入先近隣同士で日々の出荷を統括し、共同配車を実行。
当初「出荷調整の手間が増える」「急なオーダー対応が心配」という声もありましたが、実運用でコスト削減が数字で見えると納得が得られ、今では拠点ごとのPDCAで離脱も減りました。

B社:部材以外でも応用できる事例

完成品の出荷についても、首都圏・中部・関西と広域エリアで顧客先が集まる場合、共同ミルクランで「定期ルート配送」に切り替えました。
ドライバー確保の見通しが立ちやすくなり、配車効率が格段に向上。
環境負荷評価レポートにおいても、トラック台数削減・Co2排出低減を実証できました。

今後の展望:業界全体で“物流協調”へ

国内製造業は、属人的な個別最適化から「情報のシェアと現場協調」に舵を切る時期に差し掛かっています。
“共助の集約物流”こそが、今後の人手不足時代を耐え抜く鍵です。

バイヤーは「協調型調達」でサプライヤーと共に最適な物流設計を、サプライヤーは「現場発の改善アイデア」を出し合い、相互フィードバックしながら業界全体を底上げしましょう。
物流拠点・配送会社・デジタルツール事業者との三位一体の仕組み構築で、昭和以来の“物流の定石”をアップデートする発想が重要です。

まとめ

共同配送ミルクランは、単なるコストダウンのための手段ではありません。
調達・生産・物流・現場が一体となる「全体最適サプライチェーン」への進化そのものです。
現場の実践知とデータ、そして“和を以て貴しとなす”日本らしい協調精神を生かし、内陸運賃問題を乗り越えるための新たな物流設計を、ぜひ自社の課題解決に役立ててください。

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