投稿日:2025年7月10日

金属粉末射出成形MIM技術と設計ポイントでトラブルを回避

はじめに:金属粉末射出成形(MIM)技術の重要性

製造業において、常に求められるのは高品質な製品を効率良く、コストを抑えて生み出すことです。
その中で、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)は、複雑形状部品を大量生産できる革新的技術として急速に注目を集めています。
とはいえ、長年にわたりアナログ手法が主流だった日本の製造業現場では、MIMへの適切な理解と設計段階での“つまずき”が製造トラブルの温床となるケースも少なくありません。
本記事では、現場目線の実践的なノウハウと、失敗事例に学ぶ設計ポイントを解説しつつ、MIM導入・活用の橋渡しを行います。

MIM技術の基礎と導入背景

金属射出成形とは

MIMは、金属粉末とバインダー(樹脂やワックス)を混ぜた“フィードストック”を、射出成形機で金型に射出し、成形後に脱脂・焼結して金属部品を得る技術です。
数十ミクロンレベルの金属粉末が隅々まで充填されるため、高密度かつ高精度な複雑形状部品を一体成形できます。

導入が進む主な理由

– 切削やプレスでは困難な複雑形状も省工程で量産可能
– ダイカストよりも広範な材料・高強度部品の実現が可能
– 部品統合・小型化・軽量化ニーズに対応しやすい
– SDGsに適う、省資源・省エネルギーな生産方式

これらは自動車、医療機器、電子部品、工具、時計など幅広い分野で“選ばれる理由”となっています。

MIM設計時によくあるトラブルと業界の現状

昭和世代の常識が“落とし穴”に

長年、金型プレスや切削加工のみで図面を描いてきた現場では、「いつもの設計流儀」が強く根付いています。
射出成形特有の“流れ・抜き勾配・肉厚・異方性”を考慮せずにMIMに持ち込むと、現場で思わぬトラブルに見舞われます。

現場でよく起こる致命的な問題

代表的な失敗例を挙げると
– 成形後に歪み・ひけ・寸法不良が続出
– 焼結後に耐久性や強度が足りない
– 金型から部品が取り出せず損傷する
– 工数削減で期待したコストメリットが出ない

設計段階でトラブルの種を埋め込んでしまい、現場・品質・調達部門が振り回される構造です。

日本のアナログ製造現場の根深い問題

設計・調達・現場がそれぞれの常識と経験で手戻りなく動いていた時代。
しかし、MIMは“成形性・材料挙動・焼結寸法変化”など多様なノウハウの結集が必須であり、縦割り部門の壁や「図面に描いて終わり」な発想では決定的に不十分です。

MIM設計でトラブル防止のポイント

1.「成形性最優先」図面への意識改革が不可欠

MIMは金型内での粉末流動―脱脂―焼結の各工程全てを見通して初めて“製造できる設計”と言えます。
設計者は従来の「プレス用」「切削用」の常識を一旦リセットし、成形性・流動解析・焼結収縮を加味した三方良しの図面に転換することが真の成功の第一歩となります。

2. 肉厚の均一化・極端な厚肉/薄肉を避ける

MIMでは薄肉部分(1mm以下)が充填不良や焼結時の歪み・割れの元となります。
また、極端な肉厚部も焼結時の収縮ムラやひけを誘発します。
基本は“2-4mm”をガイドに、可能な限り肉厚に大きな差を付けず均一化します。

3. 抜き勾配・エッジ処理を徹底

焼結前のグリーン体(成形体)は脆弱です。
金型離型性を上げるため、抜き勾配を0.5〜1°程度しっかり確保し、コーナーエッジもR0.2mm以上とります。
“鋭利な角・薄肉リブ・深いアンダーカット”は張り切った設計ほど危険な罠となる、と現場目線で覚えておきましょう。

4. 収縮・変形シミュレーションを活用する

焼結工程では15〜20%もの体積収縮が起きます。
これを見越して金型を“膨らませて”設計する必要があります。
精密部品、特に寸法公差が厳しい部分には、MIMメーカーの流動解析・焼結シミュレーションノウハウを早い段階から活用し、共同設計することが成功の鍵です。

5. 必要最低限の製品仕様に固執しない

既存の切削部品等を「そのままMIM化」しようとすると、大抵失敗します。
同じ意匠・同じ機能は実現できても、公差・性質に“差が出る”のがMIM特有の現象です。
最小限“ここだけは押さえたい”ポイントを見極め、それ以外は大胆に見直す柔軟性が求められる分野です。

調達購買・バイヤー視点でのMIM採用メリットと注意点

バイヤーが注目すべきMIMメリット

– 部品点数削減による調達・組立コスト削減
– サプライヤー選定範囲の拡大(グローバルも容易)
– 材料歩留りの向上による原価低減、SDGs対応
– 設計自由度向上で新規付加価値製品開発の加速

見落としがちな重要ポイント

– “従来品そのまま流用”の設計・性能担保は危険
– 国内MIMサプライヤーの技術・経験バラつきが大きい
– 初期費用(金型代等)や開発期間の見極めが重要
– 品質管理(寸法・特性バラつき)ルール整備必須

MIM技術は“上手く使いこなせば”調達購買に大きな武器となりますが、設計・現場との密接連携なしに軽視すると「理想と現実のギャップ」で失敗に繋がります。

サプライヤーの立場で押さえるべきバイヤー対応術

提案型アプローチが最強

単に「MIMでも製造可能です」という対応ではなく、「御社の現行設計だと●●の懸念があり、MIMの効果を最大化するには●●な形状/仕様の見直しが有効です」など設計段階から積極提案する“プロサプライヤー”が、今後圧倒的優位を築きます。

不良率・ばらつき実測データの公開

バイヤー側が不安視しがちな点こそ、実データで安心感を提供することが現場信頼を勝ち得る鉄則です。
コア径・穴あけ・焼結歪み等、過去製品の検証データや流動解析実例を積極的に開示しましょう。

金型・工程設計の“巻き込み型”プロジェクト運営

設計担当・品質管理・調達・現場の全セクションが早期から協働し、全体最適の落とし所を見つけていくことが、現場起点の「実践力」につながります。

MIM技術の今後の展望とバイヤー・サプライヤー連携の重要性

日本のMIM業界がブレークスルーするために

業界全体がアナログ的手慣れに安住せず、「成形性ファースト」「プロセス連携型ものづくり」への意識変革が不可欠です。
例えば、AI・IoTによる流動解析や品質管理の自動化、コラボレーション型設計開発なども急速に進化中です。
成熟化する海外メーカーとも対等に渡り合うためには、技術×現場×調達力の三位一体で“昭和の壁”を破る必要があります。

まとめ:一体感のある“ものづくり”が成否の鍵

MIM技術の活用には、単に図面をMIM流に描き“徹底管理”するだけでなく、設計者・現場・品質・調達・サプライヤーが早期から徹底して連携・情報共有する“チーム現場力”が鍵となります。

本記事の内容が、皆様の日常業務の現場改善、さらには業界全体の競争力強化につながれば幸いです。
新しい技術導入には勇気も必要ですが、しっかりとトラブルを予防し、徹底して現場に寄り添った設計・運用を進めていきましょう。

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