投稿日:2025年9月7日

発注点とロットの再設計で保管費と欠品費の合計最小化

発注点とロットの再設計で保管費と欠品費の合計最小化

製造業の現場において、「在庫」は得てしてコストと化す一方で、事業継続にはなくてはならない存在です。
適切な在庫管理は調達・購買、生産管理、そして全体的なサプライチェーンマネジメントの根幹を支えるものです。
その中でも「発注点」と「ロット」の設定は、保管費や欠品による機会損失コストの双方に密接に関わります。
この記事では、現場で20年以上培った知見をもとに、アナログな現場にも導入しやすい「発注点」と「ロットサイズ」再設計の実践的アプローチをご紹介します。
最終的なゴールは、保管費・欠品費の総和を最小化し、収益体質を強化することにあります。

製造業における「在庫リスク」とは何か?

工場の在庫は「持ちすぎて困る」「なければもっと困る」というジレンマに直面しています。
過剰な在庫は直接的な保管コスト・品質劣化・スペース圧迫をもたらす一方、在庫切れ(欠品)は生産ラインの停止や顧客へのサービスレベル低下を招きます。
現場目線で特に心すべきは、単なる「在庫金額」ではなく、その内訳に潜むリスクとコストだと私は考えます。

例えば、昨今の半導体不足や世界的な物流混乱の経験から、アナログ業界でも発注点とロットサイズのあり方が根底から再考されています。
「多めに持てば安心」という昭和的発想は、大量生産・安定供給時代の名残りかもしれません。
しかし時代は「必要なものを、必要なだけ、適切なタイミングで」へと急速にシフトしています。

発注点とロットサイズの基礎理論

発注点:在庫がいくつになったら注文するか

発注点は「需要予測値×リードタイム+安全在庫量」で概算できます。
しかし、現場では予測精度やサプライヤーの信頼性、突発需要や季節変動が絡むため、単純計算では最適化しきれません。

ロット:一度に何個発注するか

ロット(Lot Size)は「1回あたりの発注・調達コスト」と「在庫保管費」のバランスで決まります。
よく利用されるEOQ(Economic Order Quantity: 経済的発注量)モデルは、次の式で表されます。

EOQ = √(2DS/H)
D=年間需要量、S=1回あたりの発注コスト、H=1個あたり年間保管費用率

昭和の現場では伝統的なこの式をそのまま「答え」として使いがちですが、実際は変動要素が多いため、ベース理論として活用しつつ「現場なりの補正」が不可欠です。

アナログ現場に強く残る“昭和的思考”の問題点

「在庫を持てば安心」の落とし穴

多くの工場で根強いのが「不安だから多めに持とう」「欠品したら上司に叱られるから」という心理です。
サプライチェーン全体の連携が弱い現場ほど、在庫は膨れ、保管費や現場作業負荷が隠れたコストとして跳ね返ります。

ロットまとめ買い文化の弊害

サプライヤーのMOQ(最小注文数量)や価格条件を優先するあまり、本来不要なまとめ発注を常態化していませんか。
結果として在庫金額や滞留日数が膨張し、不良在庫や陳腐化リスクが増大します。
まとめ買い一辺倒は、かえって“高コスト体質”の温床になりやすいのです。

保管費・欠品費の具体的な算出と見える化

保管費の「本当の実態」を現場で算出する

1. 倉庫使用料(賃料、光熱費)
2. 在庫保管に要する人件費
3. 滞留による品質悪化や減耗
4. 資金コスト(在庫分のキャッシュアウト)

これらを「1個あたり月間コスト」「1SKUあたり年間コスト」まで試算し、担当者や経営層にも明示しましょう。
会計的な観点と現場感覚、両方の視点を融合させることがポイントです。

欠品費の「見えない損失」をあえて数値化する

・ライン停止や生産遅延時の人件費・逸失利益
・顧客への納期遅延ペナルティや評価低下
・部品未納による他工程への影響

これらを事例ベースで積み上げ、実際の損失額だけでなく「売上への波及インパクト」まで可視化するのがコツです。
経験則から補正を加えたり、月ごとの発生件数×平均損失額という形で現場の納得感ある形に落とし込みましょう。

発注点・ロットの最適解をどう設計するか?

“固定”から“変動対応”へのパラダイムシフト

発注点もロットも、かつてのように「年1度見直す」「担当者ごとに経験値で決める」時代ではありません。
需要変動・サプライチェーンリスク・部品調達のリードタイム変化等に合わせ、より柔軟かつ機動的な管理が必要です。

データドリブン×現場知見のハイブリッド設計

理論値(発注点=平均需要×LT+安全在庫)は、最新システムやExcel関数でも容易に算出できます。
大事なのは、①現場で発生した“イレギュラー実績”、②業界トレンドやサプライヤー事情、その両方を織り込んで「運用ルール」を定めることです。

例えば、半導体や電子部品のような「調達難・納期変動が激しいもの」は、安全在庫を厚めに設定する。
逆に、簡単に調達できる標準部品は発注点を下げキャッシュ効率を上げる、などのメリハリ運用が重要です。

最適化の評価軸を“合計コスト”に置く

発注点を上げれば欠品リスクは下がりますが、保管費が上がります。
一方、ロットを小さく頻度を上げれば、発注・受入工数が増え、運搬コストが高くなります。
要は「保管費+欠品費+発注コスト」の合計を最小化する“全体最適”の思想で再設計しましょう。

アナログ現場でも今すぐできる再設計の実践アクション

1. 目視と現場ヒアリングの併用

システム未導入の現場ほど、担当者による「暗黙知」と「勘」に頼っています。
ここにデータと現場ヒアリングの擦り合わせ(棚卸し、発注頻度帳票の見直し)が効果的です。

2. サプライヤーとの情報連携を強化

安定納期や緊急発注時のイレギュラー対応など、サプライヤー側の事情をヒアリング。
情報共有の頻度を高め、きめ細かな約束事を設定することで、在庫最適化の幅が広がります。

3. “あるべき姿”のシミュレーション

現状のロットや発注点を10%変更したらどうなるか、保管費と欠品費がどう変わるかを手計算でシミュレーション。
小さな変更で大きく最適化する場合も多いため、机上の理論ではなく「現場に合った再設計」を繰り返しトライしましょう。

昭和型製造業こそ今、「攻めの在庫管理」に踏み切るとき

昔ながらの大量生産・大量保管から抜け出せない製造業も、今まさに「在庫との付き合い方」を変えるべきタイミングが来ています。
AIやIoTシステムの活用が進む今だからこそ、“昭和の現場力”と“現代のデータ”を融合させた新しい管理手法が求められています。

最小ロット・発注間隔・サプライヤー交渉条件…。
一つひとつの現場工夫が、組織全体に「見えない利益」をもたらすのです。
特にバイヤーや調達担当者は、サプライヤー側の視点も学びつつ、「欠品も過剰もない最適な調達ルール」を現場巻き込みで設定しましょう。

まとめ:現場視点×ラテラルシンキングが“新たな最適地平線”を創る

発注点とロットの再設計は、単なる理論値の算出ではありません。
現場担当者の経験と最新の動向、そして自工場の戦略と制約条件を合わせて、「その現場ならではの最適解」を導き出すことが重要です。

保管費と欠品費、その合計の最小化は「地道な改善と、時代に合った大胆な発想転換」から生まれます。
昭和の現場力を下地に、データ・現場ヒアリング・サプライヤー対話という“三位一体”で、ぜひ自社・自工程の在庫戦略を今一度見直してみてください。

製造業の皆様、そしてバイヤーやサプライヤーの皆様がこの記事をヒントに、確かな現場改善と原価低減を実現できることを願っています。

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