投稿日:2025年11月16日

スクリーン印刷におけるインク消費量を最小化する設計と運用

はじめに:スクリーン印刷におけるインク消費量最小化の意義

スクリーン印刷は、電子部品・基板・パッケージなど多岐にわたる製造業で現在も主力として用いられている印刷方式です。

技術が成熟している一方で、インク消費量の最小化は「コストダウン」「品質安定」「環境負荷低減」に直結するため、今なお現場レベルで重要課題として取り組まれています。

私自身、製造業に20年以上身を置き、購買・生産管理・現場ライン・工場長経験まで積み重ねてきた中で、昭和的なアナログ管理と最新技術の間で多くの現実的なジレンマも見てきました。

本記事では、スクリーン印刷におけるインク消費量を最小化する設計および運用の工夫を、現場レベルの失敗や気づきを交えつつ、業界動向や新しい視点も加えて深堀りします。

バイヤー、サプライヤー、製造現場の方々が即実践できる知恵をお届けします。

なぜインク消費量の最小化が必要なのか

コスト削減=企業競争力の直結

インクはスクリーン印刷コスト全体の中でも一定の割合を占め、近年の原材料価格高騰の影響で年間単位だと驚くほどの増減インパクトを持っています。

特に競争力の厳しいEMSやサプライヤー側では、数%の削減が大量ロットでは計り知れない利益差を生みます。

品質と歩留まりに密接に関連

インクの塗布過多はブリッジやにじみ、塗布不足は開口や断線を引き起こしやすく、不安定な供給量が製品の良品率を直撃します。

適正量のインク供給とムダの排除は、高品質化にも欠かせません。

環境配慮の時代要請

廃インク・廃棄物の発生抑制はSDGsやISO14001認証取得企業にとって避けられないテーマです。

省インク=環境保全は今や経営戦略そのものです。

インク消費量を左右する主な要素

スクリーン印刷でのインク消費量は、様々な要素の組み合わせにより決まります。

現場視点で、主要因を整理します。

1.製品設計段階で決まる要素

・パターンの面積・線幅・層の厚み指定
・要求品質(絶縁厚、導電厚、パターン分解能)
・製品一体物のサイズや形状
・顧客仕様による過剰スペック

製造現場に落ちてきたときには既に「過剰設計」でインク消費が多い、という苦い経験は誰もが持っているのではないでしょうか。

2.印刷プロセス起因の要素

・使用するスクリーン版のメッシュ数と乳剤厚
・スキージの角度・硬度
・印刷スピード・圧力
・インクの粘度管理
・印刷室内の温湿度管理

現場では「いい塩梅」が求められますが、標準書だけでなくオペレーターの経験値が物を言う部分もあり、属人化しやすいのが業界的な悩みです。

3.設備・周辺環境の影響

・版・スキージ・治具の摩耗や劣化
・装置の搬送安定性
・印刷時の空気混入や埃付着

ちょっとした設備のゆるみでインク量がブレ、気づかぬままロスが発生。日々の点検・保全と運用管理のレベルが如実に現れます。

設計段階でできるインク削減アプローチ

1.パターン最適化による印刷面積の削減

設計段階で、本当に必要なパターン面積・厚みなのか「見直し検証」を徹底しましょう。

「前例踏襲」「無意識の安全マージン」が過剰設計につながっています。

現場からフィードバックで「ここまで厚み要りません」「こんなにベッタリ塗る仕様は理由が無い」と発信し、設計部門と二人三脚の関係を築ければ大きな変革に繋がります。

2.設計段階からのインクコスト見える化

VE(バリューエンジニアリング)活動の一環として、パターン設計ごとにインクコストを数値化・資料提示する運用が有効です。

「設計変更をした場合のインク年間使用量」「コストインパクト」を見える化することで、設計者の意識も大きく変わります。

3.印刷方式自体の変更検討

近年では、ディスペンサーやインクジェット方式など、省インク・省資源対応の新技術ならびにマイクロ印刷も登場しています。

製品ニーズやロットに合わせて印刷方式自体の再検討も有効です。

現場運用で徹底したいインク最小化ノウハウ

1.印刷条件標準化の徹底

「標準書に則った適切な印刷条件設定」はインク使用量安定の要です。

版メッシュ数・乳剤厚・スキージ硬度・印刷速度・圧力設定などを数値で可視化し、現場間でムラが出ない運用を徹底します。

可能であれば、量産初期にはインク量の「実測」を行い、目安値を決めてしまうことで属人化防止となります。

2.インク粘度・撹拌管理

インクは温度・湿度・経時変化で粘度が大きく変化します。

高粘度では厚く塗らざるを得ず、低粘度ではにじみや飛散が発生しロスに繋がります。

撹拌・粘度チェック・印刷開始前のサンプル印刷で適正レンジ維持が重要です。

3.捨てインクの削減:段取り・洗浄工程の見直し

段取り替えや洗浄時の「余ったインクの廃棄」「掃除のたびにごっそり捨ててしまう」現場が実は多いです。

バッチサイズ最適化、段取り替え回数低減、洗浄効率化(ワイパー/自動洗浄装置の導入)など、捨てインク量の削減ポイントを洗い出しましょう。

4.定期メンテナンスによる設備コンディション維持

スキージの摩耗や版のヘタリで意図しないインク量増大が、知らず知らずのうちに発生します。

「定期点検」「交換基準の明文化」「設備清掃のルーチン化」は地味ですが長期的に見ると莫大な省インク効果となります。

アナログ現場にもすぐに導入できる工夫

1.日々のインク使用量ログ化と分析

細かい生産単位ごとに「消費インク量」を記録し、部門別や日別でムダの“見える化”を行いましょう。

月次レビューで異常値を共有→原因究明・改善案のサイクルを回すことで、現場全員が「都度最適化」を体感できます。

2.優れた現場作業者のナレッジ継承

長年の現場作業者が持つ「暗黙知」は財産です。

熟練者のベストプラクティスを動画・マニュアル化し、若手や新人へ積極的に伝えていく仕組みづくりも重要です。

3.設備改造に頼らず、チェックシートでの運用強化

多額の設備投資やITシステム化が難しい現場でも、「日々のチェックシート」や「ロット管理表の追記」だけでも十分な効果をあげられます。

現場担当者の“小さな気づき”を拾い上げる運用が成功への近道です。

未来のスクリーン印刷現場:新技術とデジタル化の動向

デジタル管理・見える化ツールの本格導入

IoTやMES(製造実行システム)、AI画像解析などが手軽に導入できる時代となりつつあります。

印刷機に流量・ヘッド動作・粘度情報などをリアルタイムで記録し自動アラートを出す仕組み、歩留まり・インクログの連携など、未来の現場は“根性と勘”から“データドリブン”への転換期に入りつつあります。

インクの高機能化・マテリアルイノベーション

顔料・溶剤の改良、廃棄後の再利用インク技術、無機・有機ハイブリッドインクも登場しています。

従来の工場では思いもよらなかった「材料起点の省インク化」も視野に入れた設計・調達がこれから求められます。

AI・ロボット連動での自動最適化運用

経験値に頼らざるを得なかった部分も、AI搭載印刷ロボットやビッグデータ解析により、24時間精密かつ省インクな運用が実現しつつあります。

バイヤー・サプライヤーの役割も「新技術開拓」と「現場最適化支援」へ大きく変動しつつあるのです。

まとめ:スクリーン印刷の省インク化は企業価値そのもの

スクリーン印刷におけるインク消費量の最小化は「小さなコストカット」どころか、品質・競争力・サステナビリティ・技術革新――そのすべてに直結する深いテーマです。

設計段階から現場運用まで、多角的な視点で一つひとつのムダを洗い出し、改善に取り組むことで、貴社ならではのノウハウが蓄積され、現場力が強化されていきます。

最先端技術や自動化活用も視野に入れつつ、現場の汗と知恵、昭和からの良き習慣を活かしながら、未来志向のものづくりにつなげていきましょう。

バイヤー、現場担当、サプライヤー、それぞれの立場で“インク消費量最小化”による現場革新を実現していけることを願っています。

You cannot copy content of this page