投稿日:2025年8月24日

委託先KPI設計:PPM・OTD・CAPA完了率を月次で管理する

はじめに:製造業の命綱「委託先管理」に求められるKPI設計

製造業の現場は多様化し、グローバル競争が激化しています。
自社の競争力を左右するのは「品質」「納期」「コスト」ですが、これらの多くは委託先、つまりサプライヤーに大きく依存する時代となりました。
調達購買担当者のみならず、バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場でも、”委託先KPI設計”は不可欠です。

本記事では、PPM(Parts Per Million)、OTD(On Time Delivery)、CAPA完了率という代表的な三大指標を「なぜ、どのように、どう活かすか?」を月次運用ベースで徹底解説します。
昭和的なアナログ管理から脱却し、データドリブンでサプライヤーマネジメントを進化させたい皆様に、現場20年超のノウハウとリアルな課題解決のヒントをお届けします。

KPI三本柱とは何か? 〜PPM/OTD/CAPA完了率の全体像〜

PPM(Parts Per Million):品質管理の最重要指標

PPMとは、納品された部品や製品100万個あたりの不良発生数を意味します。
例:5,000PPMなら、100万個中5,000個が不良。つまり「0.5%不良」という意味になります。

従来は「不良数」「歩留率」で管理していましたが、PPMにすることでグローバル調達、サプライヤーレベル比較が容易になります。
品質保証部・生産管理部が共通の“ものさし”を持ち、月次で定量的にサプライヤーを比較できます。

OTD(On Time Delivery):納期遵守率で見抜く委託先の約束力

OTDとは、受注した製品や部品を「指示した納期通りに納入」できた割合です。
納期遵守率=(指示納期通り納入数)÷(全納入数)×100%。

OTDが95%未満だと、計画生産が立てづらくなり、現場はムダなバッファや在庫、調整に追われます。
大手メーカーでは、OTD98%以上を主要サプライヤーの絶対条件とする企業も珍しくありません。

CAPA完了率:是正・予防処置の“やりっぱなし”ゼロへ

CAPAはCorrective and Preventive Action、すなわち「是正処置・予防処置」です。品質不良やトラブル発生時、その原因究明と再発防止策の立案・実行、そして「きちんと完了報告できているか?」を数値化します。

CAPA完了率=(月内に要求した処置のうち、納期内に評価・完了・証跡提出された件数)÷(月内に要求した件数)×100%

“やったつもり”が通用しない組織文化を根付かせる鍵でもあります。

昭和的アナログ業界の現実 〜委託先KPI運用の壁と打開策〜

「KPI化」の壁:紙伝票&Excel管理の伝統文化

日本の製造業、とりわけ生産財・機械部品の分野では、いまだに紙伝票と個人作業ベースのExcelが標準です。
“良品は現場任せ”“不良は現場でなんとかする”といった文化が根強く、KPIの自動収集、データドリブンでの月次運用は大手でも難航します。

現場ベースでKPIを運用し成果に結びつけるには、まず「数字に基づく会話」を小ロットでも同じ基準で始めることが第一歩です。
品質部門や調達購買部門が主導し、月初〜月半ばで集計→月末に委託先とレビューミーティングを行うことが推奨されます。

KPI運用の現場課題:「数字合わせ」や「隠蔽」リスク

KPIには現場のリアルな数字が求められますが、「KPI達成のための帳尻合わせ」や「不良・遅延の隠蔽」といった弊害も現実的に起こりがちです。

特に下請け多重構造の中小委託先では、不良の外部流出や見かけ上の納期遵守など、「数字は合うが現実と乖離する」問題が散見されます。
これを防ぐカギは「KPIの前提となるルール(不良定義、納期定義、完了定義)」を事前に文書化し、委託先と合意して運用することです。

本当の「改善」に繋げるには?

KPIを単なるランキングやペナルティの道具にしないことが大切です。
PPMの数字が多少高くとも、透明性があり、CAPAで迅速・確実に改善できる委託先は信頼に値します。
反対に、数値が良くても現場が不信感を持っていては、共同改善は進みません。

KPIレビューを月次で委託先と実施し「なぜこの数字なのか?」「来月の改善策は?」を議論し続ける。
これをルーティン化することで“見せかけ”でない真のパートナーシップが築けます。

委託先KPI設計の実践フロー:現場力を最大化する

(1)KPIの共通定義を決める

委託先のラインナップや契約形態によって、KPIの対象範囲・集計単位を統一することが大切です。

– PPM…受入検査ベース or 市場クレームベースか。
– OTD…出荷日基準 or 到着日基準か。
– CAPA完了率…是正処置・予防処置の区分、証跡の提示要件を決める。

この3つを事前に合意し、「KPI運用ルールブック」を作成し、委託先と共有しておきましょう。

(2)データ収集を標準化・自動化する

現場では、どこの誰が、どんなシステムから、毎月いつKPIデータ集計を行うのか、をフロー化します。

特に部門横断で情報がサイロ化しやすいため、購買・品質・生産管理の責任分担とデータ連携基盤(最低限はExcelテンプレート、可能であればBIツールやERP)を標準化してください。

(3)月次レビューを委託先と「対話型」で運用する

KPIデータは「数値を通知する」のではなく、「対話しながら、改善を共創する」場で使います。

– PPMがなぜ上がったのか、現場でどんな“未然防止”ができるか、
– OTDの遅れは工程トラブルか、情報の伝達ミスか、
– CAPAの期限遅れは何が障壁なのか

等、データを入口に「現場起点の課題発掘→アクションプラン作成→次月の効果検証」というPDCAを回すことが現場力向上への近道です。

(4)KPIと委託先評価・表彰につなげる

KPIの数値結果は、単なる進捗管理ではなく、
– 継続取引の判断材料
– 取引量拡大・品質表彰制度などのインセンティブ
– 改善未達時の是正要請やアクション強化

これらへつなげることで、委託先の経営層も含めた本気のKPI運用体制が実現します。

KPI設計に活かすラテラルシンキング:現場で“超実践”するための着眼点

1. 「なぜ、そのKPIが本当に必要か」を問い直す

KPIは「とりあえず横並び」で運用すると現場負担や形骸化の温床となります。
現場で起きる“困りごと”―例えば「突然のラインストップ」「追加検査による残業増加」「設計変更対応の混乱」―これら具体的な痛みから逆算して、最小限かつ最重要な指標のみ採用します。

PPM以外に必要な指標(例:リワーク対応数/1,000台あたり)や、OTDの遅延インシデントの詳細(船積み遅延なのか、輸送手段の変更が要因か)など、「困りごとに寄り添った」設計が、形だけのKPIを超える効果を生みます。

2. KPIに現場改善カルチャーを紐づける

単なる数字達成主義に陥らせないため、「なぜ、改善に時間がかかるのか」「今月は失敗したが、この経験をどう組織で共有・再発防止につなげるか」をレビューの中で意識します。

あえて“未達”や“失敗”にも光を当て、良質な失敗を称賛する文化も委託先と共有すると、形式ばったミス隠しが減り、現場起点の改善提案が増加します。

3. 中長期的なパートナーシップ視点で、KPIの見直しを継続する

委託先の体制や生産品目が変化すれば、現場で発生するリスクや重要指標も変動します。
“3年前に決めたKPI”を漫然と運用せず、「今の事業環境にこれが最適か?」を半年・1年ごとに再点検し、必要があれば委託先と協議の上で修正してください。

まとめ:KPI経営は「人と現場」の力を引き出す武器となる

委託先の管理におけるPPM・OTD・CAPA完了率。
単なる数字の集計ではなく、改善活動のPDCAを回し続けることで、品質・納期・取引の安定性を確実に高めることができます。

現場の感度を活かしたラテラルシンキング、「自社と委託先のリアルな課題」に寄りそった実践型KPI設計が、やがて自社の競争力を大きく引き上げます。

製造業を担う皆さまへ―
KPIは“縛る道具”ではなく、「人と現場」を進化させる武器。
令和時代の現場力向上へ、ぜひ今日から一歩を踏み出してください。

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