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高トルク化とコンパクト化を実現するモータ設計技術と高効率化

目次
はじめに ― 製造業現場が直面するモータ設計の新たな課題
モータは製造業のあらゆる現場で欠かせない基幹部品です。
搬送装置、ロボット、工作機械など、あらゆる設備がモータによって駆動されています。
昨今、工場の自動化や省人化が進む中、現場では「高トルク化」と「コンパクト化」さらには「高効率化」が鋭く求められるようになっています。
この背景には、製品の小型高性能化や省エネ、設計自由度の拡大など、顧客からの多様な要望があると同時に、生産現場における電力コストや設備スペースといった現実的な制約も絡んでいます。
この記事では、現場経験20年超の筆者の知見をふまえ、「高トルク化」と「コンパクト化」を両立し、同時に「高効率化」も狙うモータ設計技術について、昭和的な手法との違いもまじえながら深掘りします。
高トルク化とコンパクト化はトレードオフの関係か
昔ながらの設計思想と現場の固定観念
筆者が製造業の現場に入った90年代当初、多くの技術者は「高トルクを得たいなら大型モータしかない」という発想に縛られていました。
機械の求めるトルクが上がればフレームも大きく、消費電力も上がり、設備スペースも圧迫されます。
この「トルク=サイズ=消費電力」の三段論法は、構造や材料、駆動技術の進歩以前の常識です。
また、日本の現場は“実績主義”が根強く、数十年前の標準仕様や計算式をそのまま引用するケースが珍しくありません。
最新技術の潮流:トルクとサイズは両立できる
近年は設計思想が高度化し、材料・構造・制御すべてで技術が革新しています。
そこで重要なのが「ラテラルシンキング」、つまり従来の延長ではなく本質的に考え方を変える技術開発です。
例えば、
・材料の高磁束密度化(例:高性能ネオジム磁石の採用)
・巻線技術の進化(集中巻き、ヘアピン巻き等)
・冷却設計の最適化(高効率放熱システム、オイルクーリング)
・パワーエレクトロニクスによるきめ細やかなモータ制御
・CAE(シミュレーション)による設計最適化
などです。
これらの技術を現場視点で正しく選択・組み合わせれば、従来では不可能と思われていた高トルク・コンパクト化・高効率化の三立も現実になります。
高トルクモータ設計の最新技術と具体例
1. 永久磁石同期モータ(PMSM)の台頭
高性能ネオジム磁石を使った永久磁石同期モータは、誘導モータを大きく上回るトルク密度を実現します。
内蔵磁石の配置・向き・サイズの最適化で、損失を大幅に下げ、かつトルクを効率的に発生。
特に薄型・高密度設計での機械装置への組み込みも容易です。
2. 巻線技術(ヘアピン巻き&集中巻き)
大電流に耐えられ、熱放散性に優れる「ヘアピン巻き」や「集中巻き」技術は、自動車やロボット用途に多用されています。
銅線の太化と短絡距離の最適化=巻線損失減で、同じサイズで1.2~1.4倍のトルクアップも現場では確認されています。
3. CAEを活用した磁界・熱設計の最適化
従来は試作・実測に依存していたモータ設計も、近年は電磁界/熱/強度など複合シミュレーションで最適解が得られます。
設計段階から「最小サイズの最大トルク」を効果的に引き出せることで、現場の手戻り・無駄な余裕設計も激減しています。
コンパクト化の具体的な実装手法と現場事例
冷却設計の工夫で“熱ひずみ”を押さえ込む
サイズダウンすると発熱が問題になりますが、近年の冷却/熱設計は大きく進化しました。
・モータ筐体の水路冷却(ウォーター・ジャケット)
・シャフト貫通型冷却、オイルインモータ(内部オイル循環冷却)
・絶縁材料やエポキシ樹脂の進化で高温環境対応
これらにより、昔なら2ランク上のモータサイズが必要だった条件でも、ワンサイズ下で十分運用できるケースも増えています。
ギヤレス直結化やユニット統合と設備省スペース
高トルク・コンパクト設計は、減速機やクラッチ等の補器を削減でき、ライン設計の自由度アップにも直結します。
実際に、搬送ラインで高トルク直結サーボモータを導入した現場では、部品点数30%減・設置スペース25%減といった具体的効果も出ています。
高効率化技術:電気から機械までのロスの極小化
モータの効率化は、端的にはS1~S6(連続運転~間欠運転)すべての条件で、いかに電気エネルギーをロスなく機械出力へ変換するかが鍵となります。
素材・構造での損失低減
・ステータ鉄心の低鉄損材料化(ハイグレード電磁鋼板、アモルファス材等の採用)
・ロータの設計変更による渦電流抑制
・高品位ベアリング+潤滑設計で機械的摩擦損失を極小化
制御技術で成立する省エネ駆動
・インバータ+ベクトル制御(フィードバック制御で瞬時負荷に追従し無駄電流カット)
・回生電力の利用(搬送系やAGVへの搭載で省エネ効果抜群)
またIoT対応モータでは、稼働状況データを活用し、設備全体の消費電力ピークカットや故障予知保全まで高効率&高信頼化が狙えます。
日本のものづくり現場に根づく昭和型アナログ手法とDX化
日本の多くの現場では、試作と実測データ、熟練工の勘と経験が重用されています。
戦後~昭和時代の成功体験が根強く今も現役です。
モータ選定も
「とりあえずこのラインで使っている型式で…」
「海外製は実績が少ないから…」
と無難に型遅れモデルを採用する風土も顕著です。
しかしグローバルな市場競争では、こうした「安全マージン・過剰設計」が逆にコストやスペース、CO₂排出の面で足かせになることも。
近年は設計段階からDX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れ、
・CAE/シミュレーション主導の最適設計
・AIによる異常検知保全
・“トライアル&エラー”を仮想空間内で高速反復
この流れをいかに早く現場に根づかせるかが、今後の高付加価値ものづくりの成否を分ける要素になっています。
サプライヤー/バイヤー双方に求められる視座と交渉スキル
バイヤーの立場で最重要なのは
・「小型高トルク・高効率モータを選ぶことで、どの程度の設備コスト・省エネ効果が見込めるか」
・「自社生産ラインへどのような具体的メリット(歩留まり・ダウンタイム削減等)があるか」
定量化・根拠づけできる技術提案力です。
一方、サプライヤー側が現場の実情を理解しきれていないと、付加価値説明が希薄(「とにかく高性能です」)になりがちです。
現場で求められるのは、たとえば下記のような交渉ポイントです。
・「なぜ御社の高トルク&高効率モータが従来品より優れているのか? CAE試算やデモデータ、実装事例を提示できますか?」
・「コンパクト設計にしても発熱・寿命等の懸念はないのか?」
・「故障時・保全性・納期短縮の観点で追加提案は?」
こうしたQ&Aのキャッチボールを通じて、サプライヤー・バイヤー双方が「現場のリアルな効果」を共有し、短納期化/コストダウン/省人化/脱炭素等の総合メリットを引き出せると、モータ設計は次なる次元へ到達します。
まとめ ― 新しい地平線を切り拓くために現場ができること
高トルク化とコンパクト化、そして高効率化――いずれも単独ではなく、材料・構造・制御・冷却・デジタル技術を結集した“複合領域のブレイクスルー”が求められています。
昔ながらの“伝統的ものづくり手法”を大切にしつつも、いまやモータ設計はデータ・デジタル・シミュレーションが主導しています。
現場目線では、
・現物実証+CAE活用のベストミックス
・失敗の経験も共有財産とするオープンな人材育成
・バイヤー/サプライヤー間の「深い技術対話」
――‐この三点が、“誰もが同じモータを選んでいては生まれない競争力”を生み出します。
製造現場で働く皆さん、バイヤー志望の方、サプライヤーの立場で交渉力を高めたい方――
本記事をヒントに、ぜひ既成概念の枠を超えたラテラルシンキングで「次の時代のモータ設計と工場づくり」にチャレンジいただければ幸いです。
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