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モータ原理とベクトル制御による速度制御応用ガイド

目次
はじめに:製造現場におけるモータ制御の重要性
製造業の世界では、工程の自動化や効率化が不可欠です。
その自動化の中心を担うのがモータ制御です。
生産ラインで搬送ベルトを動かすコンベアから、精密な加工に使われるNC工作機械まで、多くの機械・装置にモータが活用されています。
しかし、「ただ動かせばよい」から、「必要な速度・トルクで、安定的かつ高効率に動かす」ことが求められる時代へと、現場の要請は変わってきました。
特に設備投資・保全コスト・省エネ・品質安定の観点から、モータ制御の高度化は「ものづくり現場」の命運を分けるテーマといえるでしょう。
本記事では、モータの基本原理からベクトル制御による応用まで、現場実務者やバイヤー、サプライヤーに向けて現場目線でわかりやすく解説します。
加えて、昭和から続くアナログ業界特有の固定観念や、最新動向についても触れ、新しい地平線を開くヒントを共有します。
モータの基本原理を押さえる
直流モータと交流モータの違い
モータには大きく分けて直流(DC)モータと交流(AC)モータがあります。
直流モータは、電源から直流電流を受け取り、ブラシとコミュテータによって回転します。
速度制御が比較的簡単で、低速・高トルクが得やすい特長があります。
一方、交流モータは、産業用で最も広く使われています。
交流を電源とし、ロータとステータの相互作用で回転します。
交流モータは構造がシンプルで、保守容易・耐久性に優れる反面、従来は速度制御が難しいとされてきました。
インダクションモータ(誘導電動機)の仕組み
製造現場で使われるインダクションモータ(IM)は、「ロータに電気的な結線が不要」というメリットで多用されています。
ステータコイルに流れる交流による磁界がロータを誘導し、回転を生み出します。
しかしこの誘導原理ゆえに、「同期速度から必ずすべりを要する(ロータがわずかに遅れて回転する)」という特徴があります。
このすべりや負荷変動に対して、安定的かつ効率よく制御する技術が、各時代の現場で求められてきました。
昭和流「思い込み制御」が陥る落とし穴
アナログ制御の特徴と限界
古い工場には、未だに「とりあえず手動でパラメータ調整」「モータはいつも同じ速度で回す」といった制御スタイルが根強いです。
これは経験とカンに頼る教育を受けてきた熟練技術者が多いからです。
アナログの可変抵抗器やタイマーによる制御は、シンプルで分かりやすいという一面があります。
しかし、「省エネ意識」「トラブルレス」「品質安定」を要求される今、こうしたやり方では対応しきれません。
突発的な負荷変動やライン速度調整、新製品への切り替えなど、現場の柔軟性にも限界が出てしまいます。
インバータ制御の普及と本質理解の不足
平成以降、交流モータの速度調整や省エネ対策として、インバータによる制御が一気に広がりました。
しかし「とりあえず周波数を変えているだけ」という誤解が根強く、根本的なベクトル制御の理解が進んでいない現場も多いです。
ここに「前例踏襲」や「担当者の縄張り意識」が加わることで、新しい制御技術の導入が阻まれ、世界的な競争力低下につながるケースも散見されます。
ベクトル制御とは何か:新しいモータ制御への扉
ベクトル制御(FOC)の基本コンセプト
「ベクトル制御」とは、三相交流モータを直流モータのように高精度で制御する技術です。
英語では「Field Oriented Control(FOC)」と呼ばれます。
従来のインバータ制御は、主に「速度(周波数)と電圧」を同時に可変するV/f(ボルト/ヘルツ)制御が中心でした。
しかしV/f制御では、トルク応答や低速域の制御性に課題があり、高度な制御までは困難でした。
ベクトル制御では、三相モータの電流ベクトル(大きさと位相)をリアルタイムに分解・制御することで、磁界(励磁電流)とトルク(電流成分)を独立して調整します。
つまり、直流モータでいえば磁界巻線とアンカ巻線を別々に扱うイメージで、応答性やトルク制御性能が飛躍的に向上するのです。
なぜこんなに高性能になるのか?
ベクトル制御では、磁界を一定に保ちつつ、必要なトルク成分のみを的確に調整できます。
これにより以下のようなメリットが得られます。
・高速応答、低遅延のトルク制御
・低速から最大トルクが引き出せる
・エネルギーロスが少ない高効率運転
・急停止・加減速など応答性能の向上
・負荷変動の吸収と安定性
また、センサレス方式(回転子検出器なし)によりメンテナンス性も高く、可搬性や安全性も向上しています。
このように、ベクトル制御の導入は「現場の生産性・品質・省エネ」すべてに好影響を与える技術革新といえます。
分野別:ベクトル制御の具体的な応用事例
搬送ラインの速度制御における課題と解決
例えば工場の搬送ラインでは、複数のコンベアの速度を緻密に揃えることが重要です。
V/f制御では負荷や摩擦の影響で、どうしてもラインの一部だけ遅れたり、製品が詰まったりといった品質課題が生じます。
ベクトル制御を導入することで、各モータの加減速特性や負荷変動に対応しながら、目標速度を高精度で追従可能となります。
スタート・ストップ時のショックも緩和され、製品ダメージやトラブル率も大幅に低減できます。
高精度な加工工程での応用
精密加工機械や加工ロボットでは、低速・高トルク域での制御がややもすると「魔の領域」となります。
特にNC工作機械や巻き取り・引き出し工程では、微妙な速度・トルクの変化を正確に追従できるかが製品品質や生産効率を左右します。
ベクトル制御は、センサレスでも回転速度・位相を推定し、高精度なフィードバック制御を実現できます。
これにより、厳しいトレランスや多品種少量生産へのフレキシブルな対応も格段にやりやすくなります。
省エネ・電力制御を目指した設備改造
カーボンニュートラルが叫ばれる現場では、「消費電力量の削減」「デマンドコントロール」も経営命題です。
従来、モータ40%の負荷で回しておきながら、実は余分なエネルギーを捨てていたラインにも、ベクトル制御インバータ導入で7〜30%の消費電力低減効果が報告されています。
この省エネ効果は、経年劣化した従来型制御の機械こそ恩恵が大きく、新旧混在工場における適用価値は計り知れません。
バイヤー・サプライヤーの狙うべきポイント
現場の「困りごと」から提案へ
製造現場への提案活動では、「単なる装置スペック」ではなく、「現場目線で何に困っているか」を掘り下げることが決め手です。
・工程の速度不揃い/詰まり/品質むら
・省エネ・電力コストの見直し
・納期短縮・多品種少量への転換
・人手不足/技能伝承の自動化
こうした現場の悩み事を丁寧にくみ取り、ベクトル制御+付加価値を提案できれば、バイヤーとしても競争力ある案件創出がしやすくなります。
サプライヤー視点:本当に響く提案材料
サプライヤーが「インバータさえ売れればよい」では、現場バイヤーや設備担当者には通じません。
実際のトラブル分析データや、同業他社でのROI(投資効果)事例、トータルでの省コスト・省エネメリット、技能継承や保全性まで踏み込んだ資料提示がカギとなります。
また、「昭和の思い込みへのアンチテーゼ」も、教育効果を高める意味で有効です。
古いやり方から脱却した実例を交えて、新たな業界標準を目指す姿勢を示せれば、現場との信頼関係もより強固になります。
導入時に陥りやすい課題と失敗しない進め方
現場のコミュニケーションギャップ
新しい制御技術導入時によくあるのが、「技術用語の壁」「現場担当者の不安」「熟練工の反発」です。
このギャップを埋めるためには、トライアル導入・ハンズオン教育・実際の運用データによるフィードバックといった「現場合意形成プロセス」が極めて重要です。
現場リーダー・経営層・外部エンジニアがワンチームとなり、現場課題→技術選定→導入効果測定まで伴走する体制を築きましょう。
「多能工化・自働化」へのつなぎにも効果
技能差が激しい製造現場では、マニュアル化や人の感覚に頼ることが多く、生産変動リスクを孕んでいます。
ベクトル制御の導入は、難しい設定値調整を自動化し、多能工育成や現場力底上げの武器にもなります。
メンテナンスやトラブル時の対応マニュアルもソフトウェア上で共有しやすくなり、省人化や働き方改革にもつながるのです。
まとめ:モータ制御から「現場の未来」を創ろう
ベクトル制御は、単にモータを効率良く動かす技術にとどまりません。
昭和から続く「思い込み」や「経験主義」だけでなく、現場・技術・経営の垣根を越えた現場革新をもたらす可能性を持っています。
現場関係者・バイヤー・サプライヤーが一丸となり、
・困りごとドリブンの本質提案
・教育・共創による導入支援
・効果検証から新たなループへ
というサイクルをまわすことが、次世代の製造業強化につながります。
未来のものづくりは、地道な現場改善と、技術イノベーションの融合から始まります。
ベクトル制御を鍵に、ぜひ現場の新しい可能性を一緒に切り開いていきましょう。
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