- お役立ち記事
- 生産準備段階での計測系MSA再設計により検査過多と手戻り費を抑える
生産準備段階での計測系MSA再設計により検査過多と手戻り費を抑える

目次
はじめに:製造業における計測系MSA再設計の重要性
製造業の現場では、品質を確保しつつ、コストと納期を守ることが日々の課題です。
特に生産準備段階では、計測システムの適切な設計が、後々の検査過多や手戻り費の発生を大きく左右します。
近年「MSA(Measurement System Analysis:測定システム解析)」の重要性が再認識されていますが、現場では旧態依然としたアナログな運用に甘んじているケースも多々見受けられます。
本記事では、現場視点を大切にしながら、生産準備における計測系MSAの再設計によって、無駄な検査や仮想的な品質不良、そして手戻りによる無駄なコストを抑制する道筋について、実践的かつラテラルに掘り下げていきます。
調達購買、生産管理、品質管理、サプライヤー管理など、さまざまな立場で現場に関わる読者の皆様にとって、すぐに実践できるヒントや示唆を提供いたします。
計測系MSAとは何か?現場で求められる本質的な理解
MSAの基本概念と目的
MSA(測定システム解析)は、製造現場において測定機器や判定基準が「どれだけ正しく・安定的に・一貫して評価できるか」を客観的に分析・評価する手法です。
代表的な分析項目には、繰返し性(Repeatability)、再現性(Reproducibility)、直線性(Linearity)、バイアス(Bias)、安定性(Stability)などがあります。
主な目的は、「測定結果が製品の合否判定やプロセス改善の意思決定材料として信頼できること」を担保することです。
現場が陥りやすいMSAの落とし穴
特に伝統的なアナログ現場では、“検査の手順書通りだから大丈夫”といった固定観念が根付いており、MSAを表面的な儀式としてこなしているだけの場合が散見されます。
例えば、「ゲージR&Rは済んだから安心だ」と思い込み、設備更新や製造条件の変化があっても旧態依然の計測システムで運用を続けているケースがあります。
これでは真の品質保証には繋がりません。
また、測定器の癖や現場作業者の習熟度によって測定誤差が発生しても、その要因分析や再設計まで踏み込まない現場も多いのが現実です。
なぜ生産準備段階がカギとなるのか?
なぜ“事後改善”ではなく“先手”の設計が重要か
生産準備とは、量産前に製品の仕様、製造プロセス、設備、検査体制などを整備し、スムーズな立ち上げに繋げる極めて重要なフェーズです。
この段階で計測システムを適切に設計・検証しておかないと、量産開始後に「検査不合格品が大量発生」「再測定や追加検査が必要になり手戻り費が膨らむ」といった問題の発生源となります。
製造現場は本質的に“変化”の連続です。
材料ロットの切り替え、新設備の導入、海外生産拠点への展開など、変数の多い環境においては「想定外」に即応できるMSAの再設計と継続的な運用が今後ますます求められます。
生産準備段階における現場の主な失敗例
1. サプライヤーごとにバラバラな測定基準・ツールを使い続けている
2. 設備立上げのとき、実際のバラツキを無視して検査基準を決めてしまう
3. 測定工程の見直し時、現場の作業性や作業員間格差を考慮せず上位仕様を鵜呑みにする
このような設計段階の思慮不足・短絡的な意思決定が、後々の品質トラブル・検査過多・手戻り費・顧客クレームの温床となるのです。
MSA再設計による具体的な効果とその仕組み
検査過多(Over Inspection)の抑制
日本の製造業の多くでは、「品質は検査で守るもの」という昭和的価値観が強く根付いています。
量産立ち上げ初期は“絶対に流出を起こすな”というプレッシャーがかかるため、過剰な全数検査・多重チェックが横行しがちです。
しかしながら、MSAを徹底的に再設計・運用すれば、「本当に価値ある検査項目」と「やらなくても良い(または自動で十分置き換えられる)検査項目」を峻別できるようになります。
例えば、ゲージR&Rの結果“人手による検査だけではとても許容できないバラツキが出る”ことが分かったとき、測定ツールの自動化や測定手順の見直しへと舵を切る大きな判断材料となります。
結果的に、不必要な全数検査・二重チェックから脱却できる可能性が生まれます。
手戻り費(Rework Cost)の削減
測定システムに対する理解と現場での再設計が徹底されれば、誤った合否判定による過剰な再検査、不必要な手直しや廃棄の抑制が可能です。
現場あるあるですが、「本当は合格品なのに、計測システムの精度が低いため“不良判定”してしまい、再測や手戻り作業に無駄なコスト・人手をかけてしまう」事例が後を絶ちません。
MSAを通じて測定器・作業者・プロセスの「本当の得手不得手」を定量的に見える化し、仕様値の決定や判定基準、工程設計に反映させることで、“ムダな不良品“・”ムダな再検査”を作り出すリスクを極力減らすことができます。
現場の“納得感”とサプライチェーン全体の信頼構築
計測システムの精度と適合性を誰もが見える形で合意できれば、「なぜこの検査が必要なのか?」といった現場スタッフの疑問・不信も解消されます。
また、メーカーとサプライヤー間においても“同じ物差し・合意形成”が進むことで、不必要な検査依頼やトラブル発生時の不毛な責任の押し付け合いも低減します。
こうした“現場の納得感”と“サプライチェーン全体の信頼”は、品質保証を企業文化レベルにまで高める強力な武器となります。
MSA再設計を成功させるための実践的アプローチ
一:設計段階から全関係者を巻き込む
設計・生産技術・現場作業者・品質保証・調達バイヤーなど、多職種横断でMSA再設計を実施することが重要です。
これにより、図面や技術仕様と現場の実態(作業者の特性、現場の使いやすさ、測定器のメンテナンス性)とのギャップを事前に洗い出せます。
また、サプライヤーとも早期段階からコミュニケーションし、測定基準や手順のすり合わせを“机上の理屈”ではなく“現場目線”で進めましょう。
二:測定システムのバリデーションと“見える化”
– 金型や製造ラインの完成後、試作段階で一度に数十サンプルを測り、新旧測定システムでの結果差異を洗い出しましょう。
– 測定器ごとのゲージR&R、バイアス、直線性などをリスト化し、誰でも把握・継続管理できる体制を構築しましょう。
– 測定工程ごとの「どの工程で、なぜ測るのか」を“検査として測る”のか“プロセス監視”なのか、その目的意識を明確に分けることが肝要です。
三:データに基づいた判定基準・対応策の仕組み化
測定データを定量的に、かつリアルタイムで監視・評価できる仕組みが今後不可欠です。
単にExcelに記録して終わり、では意味がありません。
バイアスやばらつきに応じて自動でアラートを出す仕組みや、判定基準から外れるサンプルが出た際のプロセス見直しフローを整備しましょう。
また、測定システムや検査工程の変更時もMSA再実施のルールを標準化し、属人的運用から脱却することが理想です。
アナログ業界でも根強い“慣行”に挑戦する視点
伝統的な“職人芸”からの脱却
「この測定は昔からこの人がやってるから大丈夫」「ベテランの目視判定が一番確か」といった職人芸への過度な依存は、アナログ工場に根強く残る文化です。
しかし、製品バラエティの多様化・サプライチェーンの複雑化・グローバル展開の時代においては、こうした属人的な運用のリスクは極大化しています。
今こそ、デジタル技術やIoTを掛け合わせた“計測システムの標準化・自動化”に踏み込む勇気が、次世代製造業には不可欠です。
とはいえ、急激な改革で現場の反発を招いては元も子もありません。
現場の技能伝承やアナログなノウハウを“データ”として見える形で蓄積していく、変革への橋渡しを続けることが現実解となります。
購買バイヤーやサプライヤーが知るべき“現場感覚”
購買バイヤーの立場では、サプライヤーへの要求ばかりがエスカレートしがちですが、「相手の現場がどこまで精度高く、そしてどこに限界があるのか」を正しく理解したうえで、共にMSA再設計に取り組む姿勢が求められます。
またサプライヤーとしては「なぜここまで厳しく測定・検査を求められるのか?」という理由を、顧客企業の現場目線で気付き持つことが、市場競争力の源泉となります。
品質トラブル時や異常時のデータ信頼性は、長期安定したビジネスパートナーシップの基盤です。
ものづくりは“対話”であり、“共感”からしか真の信頼は生まれません。
まとめ:計測系MSA再設計こそ生産準備の本質
計測系MSAの再設計は、“面倒な品質管理”という皮を被っていますが、その本質は「検査の最適化を通じて、現場全体のムダを消し、本物の品質と信頼を実現する」ための武器です。
生産準備段階で周囲を巻き込みながら大胆にMSAを見直すことで、検査過多や手戻り費の抑制はもちろん、現場スタッフやサプライチェーン全体の“納得感あるものづくり”が実現できます。
現場で悩み苦しむ皆様こそ、まずは身近な測定システム、判定手順から見直しの一歩を踏み出してはいかがでしょうか。
小さな変革の積み重ねが、激動の製造業界の新たな地平を切り開いていくはずです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)