投稿日:2025年6月17日

品質管理と需要予測に活かす新しい推定法MTシステムの基礎と活用演習付きノウハウ

はじめに ― 製造業の現場が直面する課題と新たな潮流

製造業の現場では、品質管理と需要予測は経営の根幹を成す重要なテーマです。

とりわけ近年、グローバル化や市場ニーズの多様化、そしてサプライチェーンの複雑化などを背景に、「精度の高い予測」と「リアルタイムな品質把握」の必要性はますます高まりを見せています。

しかし、現場の実態としては、昭和から連綿と続くアナログな管理手法が多く残り、その進化が思うように進んでいないのが現状です。

そこで本記事では、アナログとデジタルの橋渡しとなる斬新なアプローチ――「MTシステム」を取り上げ、その基礎知識と実践的な活用ノウハウを解説します。

調達・購買担当、バイヤーを目指す方、またサプライヤーの立場の方にも役立つ内容となっています。

MTシステムとは何か ― アナログ現場にフィットする新しい推定法

MTシステム(Moving Trend System)は、「時系列データの傾向(Trend)」をリアルタイムかつシンプルに把握・推定するための推定手法です。

生産管理・品質管理・需要予測の現場で、まだまだExcelや紙・ホワイトボードが駆使される状況下でも導入しやすいのが大きな特長です。

最大のメリットは、従来の複雑な統計解析ソフトやAIによるブラックボックス的分析とは一線を画し、「データ×人の直観」による現場密着型の意思決定を支えることにあります。

時系列傾向把握の基本概念

MTシステムの根底には「移動平均」や「指数平滑法」といったベーシックな時系列分析の考え方が流れています。

しかし、単なる数式としてではなく、「生産現場の生きた情報」「記録の癖」「人の勘」の融合点に立脚することで、実際の製造現場でも取り入れやすい手法として昇華させています。

人の経験値とデータ活用のギャップを埋める

例えば、ベテラン作業者が「なんとなく」感じている不良発生の前兆も、MTシステムによる傾向値で“見える化”し共有できます。

これにより、「勘と経験」「数値による裏付け」がつながり、若手や他部門でも気づきを活用しやすい土壌が生まれるのです。

MTシステムの実務的な構築・運用ステップ

Step1:現場データの棚卸し・整理

まず最初に、自部門で日々記録しているデータを網羅的に洗い出します。

品質管理ならば不良率・クレーム件数・測定値、生産管理なら日産・在庫推移、調達なら受注数・納入リードタイムといった具合です。

各帳票やExcel、手書きノートなど、多岐に分散している情報も”データ資産”と捉え直しましょう。

Step2:MTライン(傾向線)を描く

データの集積後、「一定期間ごとに算出した移動平均値」や「直近n回の平均」などをグラフ化します。

この「MTライン」を現場掲示やチームミーティングで活用し、過去→今→未来の流れを一目で把握できるようにします。

本質は「複雑な計算式」よりも、「一目で分かる・会話が生まれる」可視化にあります。

Step3:異常時の“兆し”検出と現場対応

MTシステムはトレンドの変化点(異常の兆候)を早期に検知することに秀でています。

例えば、不良率のMTラインが徐々に上昇する兆候が見えれば、
「新規導入設備の動作誤差」「原材料ロット変化」
など、先手の仮説検証を即時実行するキッカケとなります。

重要なのは、「なぜ変化が起きているのか」を現場でディスカッションし、調査・対策につなげることです。

需要予測と品質管理でのMTシステム実践ノウハウ

需要予測:属人的な読みから脱却する方法

調達・購買部門に付きものの「過去実績に基づいた読み」は、景気変動や突発需要には弱いものです。

MTシステムの活用例として、過去n週間・nか月の受注量推移データからMTラインを割り出し、予測と実績の乖離を定量的に記録します。

「今月の販売増減は例年より上がり幅が大きい」「前年同月比で突発的な変動があった理由を調べる」など、属人的な読みから客観性へシフトできるのが最大の強みです。

品質管理:ヒヤリハットや未然防止の気づきに

品質現場で大きなウエートを占める「ヒヤリハット事例」や「不良発生までのプロセス」も、MTラインで流れを掴むことができます。

例えば検査工程で「連続してAランク品が出ている」と油断せず、MTラインが下がり始めた瞬間に要因抽出を始めるなど、ヒューマンエラーや未然防止にも繋がります。

また、「新しい外観検査器の導入後、判定精度がどう推移したか」といった、変化点マネジメントにも活かせます。

具体的ワーク:自部署でMTシステムを活用する演習フロー

Step1:テーマ設定

まずは「自部署でMTラインを描きたいテーマ」を一つ選びます。

例:納期遅延率、不良件数、部材在庫推移など。

Step2:データ収集&整理

エクセルや帳票から実績値を抽出し、日次・週次・月次のいずれかで時系列データにまとめます。

余裕があれば、そのデータをグラフ化してみましょう。

Step3:MTラインを引く

たとえば「直近7日間の平均値を毎日算出」すれば、MTラインが出来上がります。

折れ線グラフなどで推移を見ることで、変動点や異常値が一目で分かります。

Step4:現場で議論・改善提案

可視化したMTラインを部内で共有し、「変化の理由は?」と問いかけましょう。

ベテラン作業者の勘や経験を取り入れた仮説を立てるのも有効です。

「数値が上がった(下がった)背景」「直近のトラブル・設備メンテの有無」などの振り返りに活用してください。

昭和的アナログ業界での定着・推進のコツ

過度なIT化を急がない、「現場主導」の推進

デジタル推進が叫ばれる一方で、現場現実にはアナログ文化が根強く残っています。

MTシステムはそうした現場にも溶け込みやすく、紙やExcelがベースでも始められる点が支持されています。

大事なのは、「現場が納得し・会話が始まる」小さな成功体験を積み重ねることです。

トップダウン×ボトムアップの両輪推進

上司が「やれ」と指示するだけでは定着しません。

現場から「これなら自分たちにもできそう」「数字の変化が面白い!」と自発的な工夫や提案が生まれると、自然と現場文化に根付いていきます。

成功した事例は社内で横展開し、「うちの現場でも真似したい」と思わせるアプローチが効果的です。

まとめ ― MTシステムの本当の価値とこれから

MTシステムは、デジタルが苦手な製造業現場でも導入しやすく、「データ×経験値×現場の知恵」を結びつける推定手法です。

「品質」「需要予測」「生産管理」「調達購買」など部署を問わず幅広く応用でき、アナログ業界が着実に“抜本改革”する最初の一歩となります。

まずは小さなテーマから、自職場でMTラインを引いてみてください。

現場に根差した「新たな地平線」は、データと人が融け合うところから拓かれます。

未来志向のものづくり現場へ、一緒に歩みを進めていきましょう。

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