投稿日:2025年10月12日

紙ストローの強度を保つ多層巻きと接着剤塗布制御

はじめに~紙ストロー業界を揺るがす技術革新の波

ここ数年、SDGsやプラスチック廃止の動きに後押しされ、紙ストローの導入が世界中で急速に進んでいます。

しかし、現場で本当に使える「強度」のある紙ストローを作るのは、想像以上に難しい技術です。

特に長時間ドリンクに浸しても「ふやけない」強度と、口触りの良い適度な薄さ、さらには量産性まで求められます。

本記事では、20年以上、現場の最前線で培った知見をもとに、紙ストローの強度向上に欠かせない「多層巻き」と「接着剤塗布制御」について、実践的な視点から掘り下げていきます。

製造業の購買担当はもちろん、サプライヤー側、そして品質管理・生産技術に従事されている方まで、ぜひご一読ください。

紙ストローの基礎:なぜ強度が弱いのか?

紙ストローが従来のプラスチックストローより強度面で課題を抱える理由は、大きく以下の2点に集約されます。

1. 原材料由来の吸湿性

紙は繊維同士の結合により構成され、その間に多く微細な空隙が存在します。

この空隙が飲料中の水分を吸収し、紙のコシを低下させてしまいます。

また、短時間ならば保持できるものの、飲料に長く浸すほど急速にふやけ、ストローの潰れや口の中でのバラケ発生につながります。

2. 接着剤の役割と制約

現代の紙ストローでは、食品衛生法をクリアした水性接着剤を使用しますが、紙同士の表面積にしか接着できないため、十分な「面」での結合が難しく、結合強度に限界があります。

また、接着剤の過多は見た目や味覚、安全性にも影響します。

従って、「どれだけ効率よく紙同士を貼り合わせ、かつ最適な強度を出すか」が、技術開発の主戦場となっています。

多層巻き構造とは何か?~積層技術の核心

単層から多層への進化

紙ストローの初期は、1枚の厚い台紙を巻く「単層構造」が主流でした。

しかし、強度が出ない・ふやけやすい弊害から、複数枚の薄い紙をコア(芯)から外周に向けて数層重ねていく「多層巻き」方式が採用されるようになりました。

この方式により、繊維の目がランダムに配置され、強度向上・飲料への耐久性向上が期待できるようになっています。

多層巻きの層数はどこまで必要か?

現場でよく聞かれる疑問が「層数は多ければ多いほどいいのか?」という点です。

理論的には層数を増せば強度は上がりますが、紙ストローの場合は「口当たり」「コスト」「製造スピード」という現実的な制約が立ちはだかります。

現実には、内外2~5層程度の多層巻きが主流です。

特に重要なのは、「内層(コア)」と「外層」の紙質を分け、用途に応じて最適な組み合わせを選ぶことです。

例を挙げると、内層には密度高めで吸水が遅い紙、外層には口当たりや印刷性に優れた紙、という使い分けがしばしば採用されます。

巻き方にも技術差が出る!スパイラル巻きの工夫

多層巻きの際、どのように紙を巻くかによっても強度が変わります。

代表的なのはスパイラル巻き、すなわち紙テープを斜めに連続して巻き重ねる工法です。

斜め方向に力が分散されるため、指で押しても変形しにくいストローが出来上がります。

現場レベルでは、斜め角度や紙テープサイズ、張力の調整など、細かな設定がストローのクオリティに大きく関わってきます。

接着剤塗布制御の要点~均一かつ最適な塗布が命

多層巻きに不可欠なのが、各層間に均一に接着剤を塗布する工程です。

この工程の品質次第で、ストロー全体の性能が大きく左右されます。

塗布量のコントロールと業界の現実

接着剤の塗布量が多過ぎると、紙ストローが「べたつき」や「風味の悪化」に繋がるだけでなく、原価も上がります。

逆に塗布量が少ないと、層が剥がれる・溶ける・強度が出ない等のトラブルが頻発します。

実際の現場では、動的粘度の異なる接着剤を用い、塗布ローラーやスプレー、ダイジェットなどさまざまな方法で塗布量の最適化を図っています。

重要なのは、ストローの外周全体に対して「均一」に塗ること。

ここが少しでもムラになると、飲み物に浸した際の強度低下や不均一な食感が顕著に表れ、消費者クレームの元になります。

自動化とアナログ管理のはざま

紙ストローの現場では、最新の自動化ラインと、昭和時代からの手作業テンション管理が混在しています。

自動化ラインではIoTセンサーと画像監視による塗布量管理が増えてきていますが、小ロット・多品種ラインでは今なお職人による「手感覚」が頼りです。

この温度差こそ、日本の現場が持つアナログの強みとも言えますが、デジタル化による標準化、市場品質の安定化を加速する流れが今後さらに進むでしょう。

サプライヤーとバイヤーの間で、どこまで自動化・データ化ができているのかをしっかりヒアリングすることは、実は非常に重要なポイントとなります。

品質管理の注意点:現場ならではの落とし穴

紙ストロー製造現場において、管理職が特に注意すべき点をまとめてみます。

1. 原紙ロットごとのバラツキ

紙原料のロット差で思わぬ吸水性・強度変化が起きやすいのが紙ストローの特徴です。

「前回はうまく巻けていた」でも「今回の仕入れでは途中から剥がれてしまう」など、予想外のトラブルが起きやすいため、定期的な原紙の受入検査と巻きテストが重要です。

2. 生産スピードと品質トレードオフ

スピードを上げすぎると、巻き工程が乱れ、各層のズレや接着剤のはみ出しが多発します。

特に新規設計の紙、ライン設計変更時は、十分なラインスピード調整期間を設けるべきです。

3. 塗布制御のサンプリング頻度

現場としては「一定生産ごと」または「シフト頭ごと」にサンプリング検査を実施しているかを確認しましょう。

こうした地道な積み重ねが結果として「強度のバラツキ」が出にくい生産体制に繋がります。

紙ストローバイヤー・サプライヤー必見!商談で攻めるべき視点

1. サンプル検査の徹底と評価指標の明確化

サプライヤーには、標準サンプルだけでなく「耐浸漬試験」「層剥離試験」「接着剤品質証明書」など、具体的なデータ提出を依頼しましょう。

実際の量産現場のバラツキを見るには、定期的な抜取検査の仕組み提案も必須です。

2. 多層巻きの「層構成」「紙厚」「紙質」の詳細ヒアリング

単に「厚紙だから強度がある」だけではなく、どの層にどんな機能紙を使っているのか、組み合わせの意図を聞き出すことで、真の提案力が評価できます。

また、コロコロ紙メーカーを変える安価な製品は、強度・衛生両面で大きくリスクが伴うため、信頼できる層構成かを要チェックです。

3. 接着剤塗布の「均一性」「塗布方式」「サンプリング頻度」確認

「接着剤メーカー名の開示」「食品安全データシート(SDS)」の提示を受け、さらに実生産でどの程度まで自動化・可視化・記録があるかも確認ポイントとなります。

塗布量調整の自動化導入事例などあれば、バイヤーとしては実績を高く評価する材料になります。

今後の紙ストロー業界動向とデジタル化潮流

スマートファクトリー化による生産精度向上

今後はIoTセンサーやAI画像解析を組み合わせた、かつてない精度での塗布量・巻き均一制御が進むと予想されます。

これにより、多層巻きの際のバラツキが低減され、アウトプットの安定化が大いに期待できます。

現場としても「データ」による説得力ある説明ができる会社が選ばれる時代に突入しています。

サステナブル素材開発と新工法への期待

紙自体にもバイオマスや間伐材、リサイクル紙など多様な素材開発が進んでいます。

これに適合した新たな多層構造提案、さらには「生分解性接着剤」の開発など、SDGs推進の最前線技術が求められています。

バイヤーとしてはいち早く新技術・新素材を追いかける感覚、サプライヤーとしては現場にフィードバックし量産レベルまで安定させていく対応力が試される時代です。

まとめ~現場力こそ紙ストローの未来を創る

紙ストローの強度は、多層巻きと接着剤塗布の両輪によって成り立っています。

「アナログな職人の感覚」と、「デジタルな可視化技術」を絶妙に融合させることで、日本の現場は“紙なのに強い”ストローを生み出し続けています。

現場管理者は紙の質・層構成・巻き方・接着剤量の全てに細かく目を配り、バイヤーは科学的・データ的根拠とともに現場を理解し判断する姿勢が重要です。

サプライヤーとしても、バイヤーの要求を先回りし、安定した強度と安全で使いやすい紙ストローを供給することで、業界全体の信頼構築に貢献できます。

現場力をベースに、アナログとデジタルのいいとこどりで、これからの紙ストロー市場で新たな競争優位を創出しましょう。

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