投稿日:2025年9月4日

輸送途中の天候不順での貨物遅延に備える複数輸送モード併用設計

はじめに――現場目線で考える輸送リスクとその本質

日本の製造業は、今なお「アナログ的な勘と経験」に頼る現場が数多く存在します。
その一方、グローバルなサプライチェーンの流動化、人材不足、自然災害の激甚化などを受け、これまでの成功体験にしがみついているだけでは立ち行かなくなりつつあります。

とりわけ、輸送においては「天候」という人知の及ばないリスクが常に存在し、豪雨や大型台風、大雪といった突発的な事態が物流網を寸断するケースも珍しくありません。
このような天候不順による貨物遅延のリスクをどう最小限にとどめ、安定した事業継続を図るか。
まさに現場を知る人間が、従来のやり方に一石を投じなければならないタイミングです。

本記事では、20年以上にわたる製造業の現場経験から、輸送遅延リスクへの現実的な視点と、複数輸送モードの併用設計による対策について深掘りします。

天候不順による貨物遅延の最新動向と影響

近年の物流を襲う自然災害の実態

近年、異常気象や予期せぬ天候変動による物流停滞は右肩上がりです。
たとえば集中豪雨では、わずか数時間で主要高速道路が冠水。
鉄道貨物が運休になり、その影響は道内・国内、時に国外への出荷遅延へと波及します。

特に2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号・台風21号など、日本列島を巻き込んだ大規模災害では「こんなことは過去になかった」が現実となり、数日〜数週間におよぶ貨物混乱を引き起こしました。
加えて、局所的な積雪や地震による陸路の断絶等も、荷主・バイヤー・サプライヤーいずれにとっても“他人ごと”ではありません。

製造現場へのダイレクトな影響

製造現場では、材料・部品が「Just In Time」で届くことが至上命題です。
たとえば自動車業界ならば、部品1つの遅延が全ライン停止につながるケースも少なくありません。
そもそも昨今は「在庫を持たない」経営がトレンドですが、これは天候リスクには極端に脆弱な状態です。

現場責任者が一番恐れるのは、「何もできずに手をこまねいていること」です。
突発的な遅延が発生した際、どれだけ早期検知でき、どれだけ柔軟に切り替え策を用意できるか。
現場の判断力がそのまま企業価値に直結する時代、臨機応変な物流設計、輸送モードの最適化が再評価されています。

なぜ複数輸送モード(マルチモーダル輸送)が必要なのか

いまだ根強い、単一モード依存の実態

多くの工場・メーカー・サプライヤーでは、「とりあえず今まで通り」の感覚が根強く残りがちです。
つまり、主要な物流ルートに“片寄った一極依存”のまま、リスク分析やバックアップ体制を十分に持たずに運用されている現実がまだまだ目立っています。

ときには「長年付き合いのある陸送業者だけで」という馴れ合い文化が判断を曇らせ、「大手路線便に乗せていれば安心」という思い込みが現場に蔓延していることも。
今やその“昭和的”な発想が、現代の不確実性に飲み込まれる要因となりえます。

“もしも”に備える組織文化の必要性

現在の製造業では、サプライチェーンマネジメント=コストと効率、という枠を超え、《リスクとレジリエンス(しなやかな復元力)》という観点が最優先課題になりつつあります。
単一ルートへの依存をやめ、複数の輸送モード(トラック、鉄道、海運、空輸、そしてその組み合わせ)を状況に応じて選ぶことが、事業継続の命綱になるのです。

まずは自社の輸送ルート、依存度、リスク想定など、現状の“脆弱な箇所”の洗い出しから始めてみることを強くおすすめします。

複数輸送モードをどう設計・導入するか

現場目線のマルチモーダル輸送設計フロー

効果的な複数輸送モード(マルチモーダル輸送)設計は、単純に「複数手段を持っておく」だけではありません。
主な構築手順を以下に整理します。

1. 輸送経路とスケジュールの可視化
工場~倉庫まで、現状どういうモードで、どのタイミングで、どんな業者が関与しているかマップ化しましょう。
トラック、鉄道、海運、空輸、倉庫中継点、それぞれのボトルネックや切り替え可能ポイントを現場の視点で細かく確認します。

2. リスク洗い出しと優先順位付け
過去の天候遅延履歴、圏域の災害リスクマップ、業者別の強み弱み、季節要因などから、想定されるリスクを書き出します。
部品や完成品など“優先度の高い貨物”はどこなのか、どの程度のリードタイムに余裕があるのかも検討材料となります。

3. 緊急切替シナリオの策定
「もし最短ルート(例:高速道路経由トラック便)が使えなくなったら?」という想定で、切替可能な鉄道コンテナ便や、港を経由したフェリー便などの『迂回路モデル』を複数作り込んでおきましょう。
パートナー運送会社にも事前に連絡・指示系統を明確にすることで、現場レベルですぐ動ける体制が必要です。

4. 情報共有・デジタル連携強化
定期的な物流業者・サプライヤーとの意見交換や、「遅延情報リアルタイム共有」システムの導入も有効です。
天候異変時もダイレクトに現場へ情報が降りるネットワークがあることで、迅速な対処が可能となります。

現実の現場で役立つ「切り札」としてのマルチモーダル例

たとえば、九州工場発の完成品輸送で「陸送(トラック)」と「鉄道貨物便」を平時から並行運用しているメーカーでは、2018年台風の際、トラック便が軒並み停止になる中、鉄道貨物へのスイッチで全量出荷を死守しました。

また、北海道エリアの部品供給で「フェリー便+道内陸送」というルートを用意していたことが、豪雪時の「予定外の迂回対応」に直結した事例も増えています。
複数の運送業者や中継基地と“顔の見える関係”を築き、実際に切替シミュレーション訓練を定期実施している現場ほど、いざという時に混乱せず動けています。

バイヤー・サプライヤーが押さえたい交渉と契約のポイント

現場目線での「ロス回避」優先順を明確に

バイヤー・発注側の担当者は、「本当に遅延が命取りになる部品や完成品」と「在庫余力がある商品」とを明確に区分し、ロス回避優先順を現場・経営としっかり共有しておくことが重要です。

サプライヤーの立場でも、自社の物流能力やマルチモーダル対応可否を正直に伝え、リスクシナリオごとに“代替案”の提案まで持ち込めれば、今後の信用向上や差別化にも直結します。

契約上の備え〜不可抗力条項(フォース・マジュール)の見直し

輸送遅延に関する「不可抗力(天候、災害等)」の取り決めは、サプライヤー・バイヤー双方にとって大きな論点です。
従来は「仕方がない」で済まされがちでしたが、今や“曖昧なまま”では事業リスクとなります。

再交渉・再契約時には、
・どこまでが天候不可抗力の免責か
・遅延発生時の連絡フローと対応責任分担
・代替輸送ルート適用時のコスト分担
など、実務的かつ具体的な条項設計にシフトしましょう。

情報&業界動向を常にキャッチアップ

運送業者の統廃合、鉄道ダイヤ改正、港湾労働力不足、天候AI予測技術の最新動向など、物流の“現場最前線”は大きくスピードを増しています。
定期的な業界動向セミナーや勉強会への参加、新規パートナー企業の開拓や自社物流網の見直しもおこたらず、情報ギャップによる“致命的な遅れ”を防ぎましょう。

昭和から抜け出せないアナログ業界にも「小さな一歩」を

長年にわたって培われてきた現場の勘や経験。
それは確かに財産ですが、いま必要なのは「守るべきもの」と「変えるべきもの」を冷静に見極める目線です。
IT化やデジタルトランスフォーメーションを一足飛びに進められない現場でも、まずは《複数輸送ルート・業者のリスト化/緊急時の連絡網の更新/定期的な模擬訓練》といった“できる範囲”から始めていきましょう。

まとめ――現場から未来を創る、しなやか物流体制

製造業の競争力は、モノをつくる技術力だけでなく、それを安定して届け、止めない力にもかかっています。
天候不順という「想定外」がますます当たり前となる今、現場目線で“複数輸送モードの併用設計”を真剣に考え、動くことが生き残りのカギです。

バイヤー・サプライヤー双方にとって、マルチモーダル輸送導入はリスク回避の優先課題です。
今この瞬間から、現場で「何ができるか」を小さく一歩、踏み出してください。
その一歩こそが、変化の時代に製造業を未来へ導く立派な地平線となるはずです。

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