投稿日:2025年7月10日

多層EVOHバリアパウチと発泡スチロール代替鮮魚梱包CO₂削減

多層EVOHバリアパウチと発泡スチロール代替鮮魚梱包のCO₂削減

はじめに

日本の製造業界は、SDGsやカーボンニュートラルの流れに合わせて、かつてないスピードで変革を求められています。
特に食品加工や鮮魚流通など、生鮮品の梱包・輸送現場では、従来の発泡スチロール箱が依然として根強く使われてきましたが、環境負荷やコスト課題、そして市場ニーズの多様化に直面しています。
そこで今、現場で注目されているのが「多層EVOHバリアパウチ」と、そのバウチャベースでの発泡スチロール代替鮮魚梱包技術です。
この記事では、現場目線からその有効性や課題、具体的なCO₂削減効果、今後の業界動向について掘り下げていきます。

多層EVOHバリアパウチとは何か

多層EVOHバリアパウチとは、エチレンビニルアルコールコポリマー(EVOH)を中心とした複数の樹脂層から成るフィルムで作られたパウチ(袋)のことです。
EVOHは酸素遮断性(バリア性)に優れ、これをサンドイッチ構造にすることで外気や水分から中身の鮮度を守りつつ、臭い移りや内容物の劣化を抑える特徴があります。
食品包装分野では、生鮮魚介類や精肉、半調理品などのパッケージに幅広く使われており、従来型プラスチックや金属缶、さらには発泡スチロール箱からの代替材としても期待が高まっています。

発泡スチロール梱包の現状と課題

昭和時代から変わらず、鮮魚の輸送や保存には発泡スチロール(PS)箱が主流です。
断熱性と緩衝性、軽量性に優れており、日本全国どこでも大量生産・安価・供給が安定しているという強みがあります。
しかし、使用後の廃棄処分、リサイクルコストの増加、海洋プラスチック汚染など、近年は環境負荷が大きな社会問題となっています。
さらに原油価格の高騰や中国生産体制の制約もあり、コストメリットが徐々に縮小。
加えて、現場での保管スペース確保、使用後の回収物流、自治体ごとの分別ルール対応業務が、無視できない負荷となっています。

多層EVOHバリアパウチ活用の実態

最近、鮮魚の輸送・販売の一部で、EVOHバリアパウチを活用した新たな梱包方式が試されています。
パウチの内部に魚や氷、時には調味料やガス置換による鮮度維持材を密封し、「発泡スチロール箱+氷+ビニール袋」という旧来フローを根本から変える仕組みです。
この方式は、パウチ自体が軽量かつフラットで、現場在庫スペースの圧縮が可能です。
さらに輸送時のパレット積み効率も向上し、帰り便の梱包材回収や廃棄コストを大幅削減できる点が評価されています。
また、EVOHバリアによる鮮度管理で、従来以上のロス・廃棄防止も期待されています。

CO₂削減の具体的効果とバリューチェーンでの変化

発泡スチロール製梱包の場合、1箱あたりのCO₂排出量(原料採掘、製造、運搬、焼却含む)は、一般に約500g~1.2kg程度と言われます。
一方、多層EVOHバリアパウチは1袋あたり10g前後(諸条件で前後します)と非常に軽量。
仮に年間1000トン規模の鮮魚を流通させる場合、梱包材製造・物流・焼却までのトータルで年間50トン以上のCO₂排出削減効果が期待できます。
パウチ化によってトラック1便の積載効率が2割高まれば、輸送回数や燃料使用も大幅削減。
さらに、リサイクルフローの構築が進めば、EVOHパウチは単一素材同士のリサイクルしやすさ(モノマテリアル化)により循環型社会への貢献度も高まります。

バイヤー、サプライヤー双方が知るべきEVOHパウチの実装ポイント

さて、現場の購買担当(バイヤー)や新規取引を目指すサプライヤーは、EVOHパウチ導入時にどんな点を見極め、提案すべきでしょうか。
ここでは、20年以上工場現場や資材調達に携わった経験から、着目すべき要点を紹介します。

1.コストパフォーマンスと全体最適の発想

従来比でEVOHパウチの単価は(特注仕様の場合などで)PS箱より高い場合もあります。
しかし、物流費の圧縮、保管スペースの削減、鮮度維持による返品・廃棄削減、最終的な回収コストの低減までをトータルコストで見積もることがポイントです。
加えて、リサイクルフロー設計の初期投資や、従業員の新しい梱包スキル定着まで含めた全体最適の検討が求められます。

2.現場適用のハードルと運用柔軟性

PS箱と比較して密封梱包やピッキング現場の労務フローが変化します。
導入時はパウチ封入機やハンドシール機器の配置、鮮魚のサイズ・重量に合わせた型設計、包材廃棄マニュアルの更新など、現場と一体となった運用検証が不可欠です。
また、顧客(スーパー・小売・飲食)への品質保障や説明資料整備も初期段階でサプライヤーが支援できれば、バイヤーの評価が格段に高まります。

3.環境認証とバリューチェーン全体での見える化

最近は自社だけでなく顧客や消費者、自治体にも「CO₂削減にどう貢献したか」を説明できる体制が重要です。
EVOHパウチでのLCA(ライフサイクルアセスメント)評価、第三者認証(エコマーク、バイオマスプラ認証等)、現地資源循環モデル設計の実績を用い、バリューチェーン全体での強みを可視化することで、次の取引先開拓や法制度対応でもリードできます。

昭和的アナログ現場の“壁”とその突破口

日本の製造現場は、根強い現場力と匠の技を武器にしてきましたが、同時に「変えるより続ける」安全志向も強いのが現状です。
新しいパウチ材への切替提案の際は、現場作業者や熟練ベテランとの対話(ワークショップ、モック試作など)の中から受容ポイントや抵抗の“痛点”を早期に掴むことが重要です。
実際に現場で試用し、「冷え方」「取り扱いの手間」「見栄え」「持ち運びの楽さ」「状態チェックのしやすさ」といった具体的メリットを体感してもらうことが、現場浸透のカギを握ります。
また、発泡スチロールと同様に“当たり前”のものとしてコストダウン圧力が強く掛かる分野ですが、現状維持バイアスを超える全社的なDXやESG戦略との絡め方が今後より重要です。

今後のイノベーションと製造業界動向

今後は、EVOHパウチ自体の薄肉化・強度向上・バイオマス配合率拡大などの技術革新が進行しています。
また、AIやIoTを活用した鮮魚温度管理、ネットワーク最適物流の構築によって、単なる「梱包材を新しくする」だけに留まらず、バリューチェーン全体の省力化・効率化や現場負担軽減へと進化していく流れにあります。
昨今のフードロス削減要請や配送効率化需要も、EVOHパウチを起点とした梱包改革の追い風です。
バイヤー・サプライヤーの双方にとって、これからの「選ばれる」ための提案力は、市場ネタや製品スペック比較だけでなく「現場観点」「業界目線」「持続可能性」までも含めた横断的なラテラル(多面的)シンキングが重要になるのです。

まとめ:現場目線+未来志向で革新を共創しよう

多層EVOHバリアパウチによる発泡スチロール代替は、単なるECOやコストダウンのためだけの施策ではありません。
現場全体のオペレーション変革、新たなサプライチェーン連携、さらには製造業全体の地平線を切り拓く入り口でもあります。
従来の枠組みを越えて現場が本当に使える、将来も顧客と社会から選ばれる——そんな製造と調達の新常識を、ぜひ皆さんの現場から共に実践し、発信してみませんか。

これからのものづくり、調達・購買の在り方の進化は、まさに「誰と、何を、どう変えていくか」にかかっています。
皆さまの現場実践が新しい地平を開くことを、心から期待しています。

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