紙ストローの強度を高めるための多層巻きと糊の乾燥条件

はじめに——なぜ今「紙ストローの強度」が問われているのか

昨今の環境意識の高まりを受けて、プラスチック製品から紙製品への転換が急速に進んでいます。

特に、ファストフード業界やコンビニエンスストア、カフェチェーンなどで採用が増えているのが紙ストローです。

しかし、利用者の増加とともに「強度」や「耐久性」への不満の声も挙がっています。

紙ストローが飲料中ですぐにふやけてしまったり、飲み口が潰れてしまったり、快適な飲用体験の障壁となっていることは事実です。

こうした観点から、多層巻きによる強度向上や糊（接着剤）の乾燥工程最適化が今、業界の大きな課題となっています。

本記事では、その技術的原理と実践的なポイント、さらには製造現場のリアルな事情も交えながら、紙ストローの品質向上に向けた「現場の解」を掘り下げていきます。

多層巻きによる紙ストローの強度向上の基本原理

多層巻き構造とは何か

紙ストローの基本構造は、非常に薄い紙をらせん状に巻き重ねて筒状に成型する「螺旋巻き（スパイラル巻き）」です。

1層だけでは簡単に潰れてしまうため、複数層（2層〜5層程度）を重ね合わせて強度や耐水性を確保します。

この層数が増すほど、ストロー断面の「肉厚」が増え、飲用時の耐久性が向上します。

また、巻き方向を変えたり、各層に使用する紙質を工夫することで、さらに強度を高める工夫も進められています。

紙の種類と多層構造の関係

紙ストロー用に使われる主な紙種には、以下のものがあります。

• バージンパルプ紙：強度が高いがコスト増
• 再生紙：環境配慮だが強度的に劣る
• 耐水加工紙・ラミネート紙：耐久性重視だが分解性課題

多層巻きでは、内層・外層で異なる紙を組み合わせることも可能です。

たとえば、内層に強度重視の紙、外層に安全性や印刷性を狙った紙、といった多重のレイヤー設計が主流になっています。

多層巻きにより生じる課題

層が増せば増すほど耐久性は増しますが、そのぶん「層間剥離」や「層ズレ」といった製造上のトラブルも増加します。

また、強すぎる紙ストローは「口当たりが悪い」「吸うのに力がいる」など使用感への悪影響も。

さらに材料コスト増、ライン速度低下によるコストアップも避けられません。

このため、最適な層数設計と材料選定、さらに高精度な巻き制御が現場では重要となっています。

糊（接着剤）の役割と種類、乾燥条件の重要性

紙ストロー製造に使われる糊の種類

紙ストローの多層巻きには糊が不可欠です。

主に使われるのは以下の2種です。

• 水性樹脂系接着剤（PVAcなど）：低コスト・速乾性・食品適合性
• デンプン系接着剤：環境配慮重視で使用増

どちらも「食品衛生法適合」かつ、口に触れても安全なものでなければなりません。

製造現場では接着力、塗布性、乾燥（硬化）速度、コスト、法規制、作業環境への影響など多項目を総合的に見て選定されています。

乾燥工程の重要性

ストローの多層巻きの強度や完成品の品質は、糊の乾燥条件に大きく影響されます。

乾燥不良の場合、完成品が「ぶよぶよ」「ふやけやすい」だけでなく、内部層のはがれ（デラミネーション）や異臭・変色、最悪カビ発生の原因にもなります。

逆に、急速乾燥しすぎると、内部層の糊が完全に固まらず、見た目は乾いていても実際には圧着不足などの問題を生みます。

このため、糊の種類ごとに「最適な乾燥温度・時間・湿度」が細かく設定され、工程管理が徹底されています。

現場での具体的な乾燥管理ポイント

• 乾燥炉の温度：60℃～90℃程度が標準。素材や糊種によって調整
• 湿度管理：過度な乾燥は紙の収縮＆変形につながるため、湿度40～60％RH目安
• 通風速度：均一乾燥を保つために常にチェック
• 時間管理：ライン速度にあわせつつ、糊の完全硬化時間を保証
• 最終検査：完成直後の強度・外観・含水率を全数もしくはロットごとにモニター

これらの工程一つ一つが、現場のカイゼンやノウハウの積み重ねで最適化されてきた背景があります。

紙ストローの品質とコスト最適化——バイヤー視点で押さえておきたいこと

ユーザー（バイヤー）は何を重視するのか

紙ストロー納入先となるバイヤー（購買担当者）は、みずから現場運用を想定した「総合的な品質」を求めます。

その観点は主に下記の通りです。

• 耐久性（飲用中に潰れない・ふやけない）
• 安全性（口あたり、衛生、味移り・異臭なし）
• コスト（他素材ストローと比較した妥当性）
• デザイン性（印刷・見栄え）
• 環境配慮（分解性・リサイクル性）

バイヤーは最終ユーザーからのフィードバックを特に重視しており、「消費者満足＝インシデント減少＝コスト削減」に直結するため、ストローの外観や手触り、使用感レベルの細かな点までチェックします。

サプライヤーが強みを打ち出すためのポイント

サプライヤーとしては、多層巻きや乾燥条件など技術面の裏付けを「見える化」し、納入先へ具体的に訴求することが信頼獲得につながります。

たとえば、

• 「○層巻きによる〇〇％の強度向上」
• 「独自の乾燥管理により、耐久性と口当たりの両立実現」
• 「自社ラボ試験による耐水・加圧のエビデンス添付」

こうした付加価値情報の積極開示が、価格競争力だけでなく品質面での差別化ポイントとなります。

アナログ産業の現場目線で見る──紙ストロー業界の課題と展望

紙ストロー製造現場は、いまだに手作業や職人技に頼る部分もあり、「昭和的」なアナログ工程が根強く残る業界です。

一方で、自動化・デジタル化を進める先進サプライヤーも登場しており、機械の巻き制御精度やIoTによる工程データ管理など、新しい潮流も生まれています。

現場の課題は下記のように整理できます。

• 製造ラインの自動化難易度が高い（紙の特性や糊によるライン汚染）
• 多品種少量ニーズへの対応（印刷柄・サイズ展開の多様化）
• 大量生産による品質バラツキ管理
• アジア他国との価格競争・品質競争

このような時代の変わり目には、「現場の改善力」と「技術の見える化」が競争優位のカギを握ると考えます。

実践から生まれるカイゼン——現場目線の知恵とラテラルシンキング

最後に、私自身の経験から、現場カイゼンに役立つ視点やアイデアを紹介します。

• 「多層巻き」は必ずしも層数増加だけが正解ではなく、巻き方向や紙種グレードの変更、糊の塗布パターン工夫で効率と耐久性を両立できます。
• 糊の乾燥は、均一性を重視しすぎると逆に強度低下する場合も。あえて「差」を残し、内外層の役割分担を最適化する設計思想も有効です。
• 工程データのアナログ記録→デジタル化（簡易IoTなど併用）によって、人依存から脱却し、再現性・トレーサビリティ向上を目指しましょう。
• 製品歩留まりの「見える化」、小さな不良対策の継続的な見直しが、結果としてコストダウン・品質安定につながります。

「紙だから」「まだまだ人手で仕方ないから」と現状にとどまるのではなく、工程すべての「何のためか？」を問い直す力が、紙ストロー製造業の未来を切り拓くのではないでしょうか。

まとめ——紙ストローの進化は現場の知恵にかかっている

紙ストローの強度向上には、多層巻きと糊の乾燥管理という「両輪」が欠かせません。

しかも、それぞれに細かな技術的工夫や、現場ならではのカイゼンノウハウが無数に積み重なっています。

バイヤーは、単なる価格比較でなく、こうした見えない現場力や改善事例にも目を向けることが重要です。

サプライヤーは、「なぜこの設計か？」「どう改善しているか？」を積極的に示し、業界全体の底上げに貢献しましょう。

昭和から続くアナログな手法と、これからのデジタル化・自動化をかけ合わせることで、紙ストローはさらに使いやすく、環境にも優しい製品へと進化していくはずです。

製造業に携わる皆さん、あなたの現場からも新しい一歩を。