投稿日:2025年10月31日

地域発のクラフト製品が全国で売れるためのネーミングと世界観づくり

はじめに:クラフト製品が持つ力とその未来

クラフト製品——それは地域ごとの歴史や文化、伝統の技、そして作り手の思いが凝縮された特別な存在です。

近年、地域産のクラフト品や地場産プロダクトが注目を集めていますが、「地元では愛されるのに、全国ではなぜか売れない」「どんな商品名・ブランドにすれば心に刺さるのか」といった悩みを抱えている現場も少なくありません。

20年以上のモノづくり現場での経験から、日本の「ものづくり」は全国・世界に通用する本質的な力を持っていると確信しています。

しかし、単に良いものを作れば売れる時代はとうに終わりました。

大切なのは“ネーミング”と“世界観”です。

今回は、製造現場目線で、クラフト製品が全国で売れるためのネーミングと世界観づくりを深く掘り下げます。

クラフト製品が全国で埋もれる理由

1. 商品名が平凡、または情報が伝わりづらい

地場産品の多くは、「◯◯焼き」「△△木工」「××織」といった名称がそのまま使われることが多いです。

伝統や技法に誇りを持つ現場からすると当然ですが、消費者からは「どれも同じに見える」「何が特別なのか分からない」と捉えられがちです。

ハンドメイドマーケットやネット通販が加速した今、ネット検索での“見つけられやすさ”が必須条件です。

差別化が難しいネーミングは、そこで大きなハンディキャップとなります。

2. ストーリー・世界観が伝わってこない

買い手の感情を動かすのは機能やスペックだけではありません。

クラフト品が持つ地域ごとのストーリーや、作り手の信念、モノに込めた哲学など、独自の“世界観”が必要です。

ですが、昭和の「作れば売れる」「良い物なら伝わるはず」という価値観から抜け出せず、商品紹介が無機質なものになりがちです。

3. 変化を恐れる文化が根強い

現場を経験して痛感しますが、伝統を守るべきという強い思いと、新しい挑戦への躊躇が同居する世界です。

「以前からのやり方を変えたくない」「商品名や見せ方を変えたら常連さんが離れる」という現場の声がネーミング刷新やブランド発信の障壁になることもあります。

売れるクラフト製品に共通するネーミングのコツ

1. 一言で“何者か”が分かる名にする

消費者は数秒で商品を判断するといわれます。

「〇〇地方の△△工芸」といった曖昧な表現よりも、「温もり感じる手仕事の木のカップ」「千年桜の一刀彫アクセサリー」のように、何者なのかがひと目で伝わるネーミングが有効です。

SNS時代には、検索ワードに強い固有名詞やトレンドワード、キャッチフレーズ化しやすい名称がより重要です。

2. “驚き”や“個性”を込める

例として、淡路島のタマネギを使ったクラフトビール「淡路オニオンエール」のように、「えっ、そんな使い方が?」という驚きや、地域独自の個性をストレートに打ち出すことが売れるポイントです。

「ニッチだけど深い」——こうした切り口は、クラフト商品の醍醐味です。

3. クラフト品に“物語名”や“擬人名”を冠する

海外事例では、ウイスキーの「山崎」や、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」シリーズのように、作り手や由来、象徴するものに由来するネーミングが消費者の心を引きつけます。

日本でも「安芸の蒼き風グラス(吹きガラス工房)」など、固有の物語に紐付いた名前は“自分だけ”の商品と感じてもらえる効果を生みます。

ワクワクする世界観のつくり方

1. 地域性や歴史のストーリーを明確化する

クラフト製品は地域の環境や資源に根ざした必然の産物です。

素材の来歴、伝統技法、地域の風土、お祭りや民話など、背景にあるストーリーを“ブランドの骨格”として語ることが大切です。

たとえば「出雲和紙 〜千年続く紙の里から〜」のように一目でストーリーが伝わる表現を用意します。

2. 写真や動画、現場の空気感を伝える

ネット販売が主流になると、実物を手に取れない消費者が増えます。

商品の世界観を語るなら、単なる商品写真だけでなく、工房の風景や作り手、工程の一コマなど“現場の空気”をビジュアルで伝えることが肝要です。

現場で働く人の手や、使っている道具、製造工程のシズル感が心を動かします。

3. 購入後の体験(ベネフィット)を想像させる

現代の消費者は「これを買って自分がどう変わるのか」に価値を感じます。

たとえば「地元の伝統で朝食が特別な時間に変わる器」「大切な人に語りたくなる100年使えるクラフト」といった、所有後のベネフィットも具体的に世界観に盛り込むべきです。

4. 量産品にはない“狂気”や“癖”を受け入れる

クラフト品の最大の強みは、一品ごとに異なる「人間らしい不均一さ」や、作り手特有のこだわりや遊び心にあります。

「職人・作家の暴走をそのまま感じてほしい」──そんな発信ができれば、ファン層の心をがっちり掴めます。

ブランド構築で重視したい3つの視点

1. “地元のため”から“世界のファンのため”へ発想転換を

地域で生まれたクラフト製品でも、その価値は地元市場だけに閉じ込めるべきではありません。

「自分たちの町の特別なものを世界へ届ける」視点へ発想をシフトさせるのが、ネーミングや世界観づくりの大前提となります。

2. バイヤーや流通担当者の視点を持つ

自分本位な発信だけではなく、“流通のプロ”や“全国のバイヤー”の目線も必要です。

・この商品名をカタログに載せやすいか
・商品ストーリーで他社製品との差別化ができるか
・特集ページのテーマとして活かせるか

——こうした問いを自問しながら開発することで、中長期的な売上増にも繋がります。

3. 新旧のファンをつなぐ仕掛けを持つ

長年のファンや地元の常連層と、新しい購買層(ネットユーザーやインバウンド層)が共存できる“橋渡し”は不可欠です。

「歴史を守る一方で、時代とともに進化を続ける」ブランドイメージを打ち出し、例えば伝統銘柄のスペシャルエディション、限定コラボ、ワークショップなどを盛り込むと良いでしょう。

事例紹介:成功したクラフトネーミングと世界観

事例1:Hacoa(木製雑貨)

福井県の老舗木工所がスタートした木製雑貨ブランド「Hacoa」。

地元産の木材や伝統の木工技術を現代デザインに昇華させ、「暮らしに寄り添う木のプロダクト」というシンプルな世界観で都市型生活者・全国区へ広がっています。

事例2:snow peak(アウトドア用品)

本社は新潟県。

地元燕三条の金属加工技術と“自然志向な世界観”によって、海外でもブランド認知度は高いです。

道具名には「チタンシングルマグ」「焚火台」など、素材や用途をストレートに打ち出し、ユーザー体験に紐づく名称としています。

事例3:京焼「茶游堂」(抹茶・スイーツ)

300年を越える京都の窯元が、若手陶芸家やパティシエと提携し、茶器×スイーツという新世界観を創出。

ブランド名も「茶游堂(ちゃゆうどう)」と、伝統と現代志向を感じさせる独自性を確立しています。

まとめ:現場発・新時代のネーミングと世界観へ

クラフト品が全国・世界で売れるために大切なのは、「ありきたりなネーミング」や「過去の常識」からの脱却です。

自分たちの現場でしか語れないストーリーや、地域ならではの個性、新しい購入体験を“言葉とイメージ”で設計し直す勇気が未来を切り開きます。

世の中は量産品一辺倒から「人の手の温もり」や「作り手の思い」に価値を置く時代に進化中です。

この記事が、現場の皆さんにとって自社製品・地域クラフトのブランド構築やネーミング刷新の新たなヒント・起爆剤になれば嬉しい限りです。

新しい地平線は、あなたの現場からきっと切り拓けます。

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