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非常識な顧客が調達全体に与える悪影響

目次
はじめに:製造業における調達の現場と「非常識な顧客」
製造業の調達部門は、単なる購買活動にとどまらず、会社の競争力や信頼性の根幹を支える極めて重要な部門です。
プロのバイヤーや購買担当者、またはその立場を目指す方、サプライヤーとして企業と付き合う立場の方にとって「顧客」の存在が与える影響は想像以上に大きいものです。
特に、時折現れる“非常識な顧客”は、調達現場の空気だけでなく、企業全体のパフォーマンスにも深刻な影響を及ぼします。
この“非常識な顧客”とは、一体どのような存在なのか、どのような悪影響を及ぼすのか、そしてどう対処すべきなのか。
現場目線、実践知、そして昭和的アナログ業界に未だ根付く慣習にも触れながら、その現実と課題解決策を考察します。
非常識な顧客とは?その特徴と背景にあるもの
非常識な顧客の特徴
一言で「非常識な顧客」といっても、その定義は幅広いです。
例えば、以下のような行動や要求を繰り返す取引先が該当します。
・不明瞭で頻繁な仕様変更を一方的に要求してくる
・短納期やコストダウンなど無理難題な条件を“当然”として押し付けてくる
・契約や取り決めを軽視し、後から条件を変えてくる
・自分たちの特殊事情を“業界の常識”だと思い込み、共有しようとしない
・サプライヤーの事情や制約を一切顧みず、発注量・納期・品質のすべてに無理を強いる
また、“声の大きな顧客”は購買や営業部門には特に強く影響します。
製品開発や調達現場に精通していない管理職や上層部が、取引規模や付き合いの深さだけで判断を下してしまう場合も少なくありません。
なぜ“非常識”が生まれるのか
こうした非常識な要求の背景には、業界構造や組織文化の問題が深く関係しています。
日本の製造業界、特に昭和から続く旧態依然のアナログ的な商慣習では、
「顧客は絶対」
「取引継続のためには無理も飲む」
「忖度や根回しで現場の声はかき消される」
といった空気が根強く残っています。
そのため、調達現場は顧客からの“無理なお願い”を止む無く受け入れ、一時しのぎの対応に追われることが少なくありません。
この負のスパイラルこそ、非常識な顧客の蔓延を招く温床となっています。
現場に起こる影響:調達全体への悪影響と具体例
悪影響が出る主な領域
非常識な顧客の要求は、「現場の混乱」「コストアップ」「リードタイム悪化」「品質不良」「人材疲弊」など、調達全体および連鎖的に工場全体のQCD(品質・コスト・納期)に負の影響を及ぼします。
1. 現場の混乱
無理な納期短縮や突然の仕様変更、頻繁な数量変更は、生産計画を破綻させます。
生産管理担当者はその場しのぎのリスケジュールに追われ、現場作業者には疲労や混乱が蓄積します。
2. コストアップ
短納期や緊急発注は、仕入先に“特急料金”を出さざるを得ません。
また、返品や手直し、歩留まり低下など本来不要なコストが増加します。
調達部門だけでなく工程全体の非効率を招き、会社全体の収益悪化につながります。
3. 品質リスク
急な仕様変更や突貫対応が常態化すると、チェック不足や段取りミスが発生しやすくなります。
問題発覚が遅れ、大きなクレームやリコールにつながることもあります。
4. 人材のモチベーション低下
現場の負担や課題が放置され続けると、優秀な人材の離脱リスクが高まります。
調達・購買部門だけでなく、生産・品質管理、物流など関連部門全体に消耗と不満が波及します。
昭和から続くアナログ商慣習の弊害
日本の製造業は、取引先との長い付き合いを重視するあまり、
「顧客の言うことは無条件で受け入れる」
「無理難題も“現場力”で解決」
という精神論や属人的な対応が今なお根強いです。
そのため、現場では「なぜこんな無理を?」という疑問も、声に出しにくい空気が漂っています。
結果として、非効率が常態化し、抜本的な改善につながらない悪循環が生まれています。
サプライヤーにも広がる負の連鎖:エコシステムとしての調達全体への影響
顧客(バイヤー)側が“非常識”を振る舞うと、それはサプライヤー側だけの問題では収まりません。
信頼関係の摩耗とサプライヤーの疲弊
あまりに無理難題が続くと、サプライヤー側も次第に
「この会社とは本音の付き合いができない」
「リスクのある発注は避けよう」
と警戒心を強め、サポートがおざなりになっていきます。
結果として、イノベーションやコスト改善・提案型の関係構築が難しくなります。
サプライヤーも本来力を発揮できず、次第に“優良顧客”の席を他社に譲ることになります。
サプライヤー選定・切り替えにも悪影響が
非常識な顧客の要求が常態化すると、既存サプライヤーはそれに合わせた体制・コスト構造を強いられます。
これは、他のサプライヤーにとっても参入障壁となり、
「こんな無理がまかり通るなら、新規参入はやめておこう」
と戦略的撤退を選ぶ場合が増えます。
結果的にバイイングパワーを自ら失い、調達網の多様化・最適化が進まなくなるという、自縄自縛の状況に陥ります。
業界全体の「体質硬直化」にもつながる
業界を俯瞰してみると、こうした過剰な顧客優先主義やアナログ商慣習の弊害が、全体の体質硬直化・イノベーション停滞・国内製造業の競争力低下をもたらしている面も見逃せません。
現場では苦労してしのいでも、グローバルな市場では戦えない「ガラパゴス化」を進めてしまうリスクもあるのです。
どう対処すべきか?現場・バイヤー・サプライヤーのそれぞれの視点
調達・購買部門の視点:現場に根ざしたリスク管理と情報発信
現場起点で対処するには、
・非常識な要求に対するリスク分析とコスト・工数の「見える化」
・過去の無理対応がどれだけ全体最適を阻害してきたかの定量的把握
・調達部門から経営層・営業部門へのタイムリーな“現場の声”共有
・客観的な業界データに基づく「適正な商慣習」へのアップデート提案
など、数値化と根拠ベースで現実を“見える化”することが有効です。
この取り組みが、中長期的に現場の苦労を減らし、会社の競争力につながります。
バイヤーを目指す方へ:「顧客の立場を正しく使う」発想
これからプロのバイヤー(購買担当者)を目指す方は、
・顧客の立場を「無理強い」に使わないこと
・力関係におごらず“ウィンウィンな関係構築”を常に意識すること
・KPIや評価指標に「サプライヤーとの信頼度」「トータルコスト」のバランスも加味する姿勢
を忘れてはなりません。
部品単価の引き下げや無理な納期短縮が一時的な成果を生むかもしれませんが、長期的には“しっぺ返し”を受けるものです。
現場の制約・サプライヤー側の立ち位置・生産体制の「肌感覚」まで理解することが、優れたバイヤーにとって最大の武器となります。
サプライヤーの立場:顧客を“選別する”勇気も必要
サプライヤー側もまた、顧客の言いなりにならず、「無理難題」には理由とリスクを根拠立てて伝えることが肝心です。
時には「お断りする」「赤字発注は受けない」という毅然とした姿勢も、自社の存続と会社全体の健全化のために重要です。
また、担当窓口では伝わりにくい場合は、経営層同士のミーティングなど
“一段上の意思疎通”を設けておくことも、摩擦回避につながります。
「優良な顧客を選ぶ」という発想が、日本の製造業にも広がれば、調達全体の生産性や働く人の誇りが高まるはずです。
昭和的体質からの脱却が業界の未来を変える
日本の製造業・調達現場では、“非常識な顧客”の存在が長らく容認されてきました。
しかし、グローバル競争や若手人材の価値観変化、DX推進の波には、こうしたアナログ商慣習や属人的な精神論対応では到底太刀打ちできません。
これからの調達・購買・サプライチェーン全体像は、
・正直なリスク発信
・共通の基準や目標を持つ“対等で開かれたパートナーシップ”
・業界全体の最適化を目指す視野
が不可欠な時代に入っています。
まとめ:これからの調達プロフェッショナルに必要な発想
非常識な顧客の存在は、時に「現場力」「精神論」で乗り切れてしまうため、組織や業界にとって構造的な課題となりがちです。
しかし、調達のプロを目指す方、現場で苦労する方、サプライヤーの立場でバイヤーと向き合う方すべてが、
「健全な取引関係構築」
「無理や無駄を見える化し、会社全体のQCD向上につなげる」
「顧客/サプライヤーの立場を乗り越えた“ものづくりパートナー”として自らの役割を再定義する」
ことが、製造業の進化・発展の鍵を握っているのです。
昭和的な慣習から脱却し、より良い調達・購買の未来を切り拓いていきましょう。
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