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ベンダー管理在庫で在庫負担を移転し単価を抑える交渉

目次
はじめに:ベンダー管理在庫(VMI)が注目される背景
製造業を取り巻く環境は、昭和時代から大きく様変わりしています。
グローバル化や需要変動の激化、生産リードタイムの短縮、在庫圧縮へのプレッシャー、さらにはSDGs(持続可能な開発目標)の波まで、さまざまな変化が現場を揺るがしています。
このような時代の流れの中で、購買担当者やバイヤーが悩み続けているのが「在庫をどう持つか」という課題です。
過剰在庫は経営を圧迫し、逆に在庫が足りないと生産が止まるリスクが生まれます。
そこで今、業界の古い慣習を抜け出すキーワードとして「ベンダー管理在庫(Vendor Managed Inventory:VMI)」が注目されています。
VMIの肝は、在庫の管理コストとリスクをサプライヤー(ベンダー)に移転させつつ、バイヤー側は在庫負担を大幅に減らし、かつ単価交渉も有利に進められる点にあります。
本記事では、現場目線で「ベンダー管理在庫」を解説し、その実践ポイントや交渉戦略、よくある落とし穴まで掘り下げていきます。
ベンダー管理在庫(VMI)とは何か?
基本概念と従来方式の比較
一般的な購買・調達の業務では、必要な部品や原材料を都度発注し、必要分を納入してもらう「プル型」方式が主流です。
この場合、調達先から納入された瞬間から、在庫管理の責任や所有権はバイヤー側に移ります。
これに対してVMIは、サプライヤーが一定量の在庫をバイヤー(顧客)の近く、または構内で保持し、在庫適正水準をサプライヤー自身が管理します。
そして実際に消費された分だけが課金される、つまり在庫の物理的責任とリスクはサプライヤーが負い続ける仕組みです。
VMIの主なメリット
– 在庫回転率の向上(デッドストックの減少)
– 流動資金(キャッシュフロー)の改善
– 発注業務の省力化
– サプライヤーとの情報共有強化によるサプライチェーン全体最適
– 簡易な原価低減の切り札として使える
なぜ今、VMIが製造業の現場改善に効くのか?
昭和型アナログ管理が抱える問題
多くの工場現場では、いまだにエクセルや帳票による手作業の在庫管理、月末の在庫カウントと発注といった昭和の手法が主流です。
このアナログ型運用は、ヒューマンエラーの温床となり、過剰在庫や欠品事故のリスクを増大させます。
また、在庫資産が膨らめば膨らむほど、経営指標(ROAや棚卸資産回転率)も悪化してしまいます。
VMIを導入すれば、在庫管理のプロであるサプライヤーが業務設計に参画します。
ICT(情報通信技術)やIOTセンサーでリアルタイムに在庫量を共有し、自動補充仕組みを取り入れやすくなるのです。
これは、アナログな現場にデジタルの波をもたらす一石二鳥の施策と言えます。
ベンダー管理在庫導入時の重要交渉ポイント
1. 在庫負担の明確な線引き
VMIを交渉する際の最大のポイントは、「所有権とリスク責任がどこからどこまでサプライヤーにあるのか」をはっきりさせることです。
具体的には、
– 実際に部品・材料を現場で引き取ったタイミング
– 棚卸資産計上の基準日や評価方法
– 保管期間が長くなった場合の返品や廃棄リスク
などを明文化し、担当者間の齟齬が生まれないよう契約書や基本協定書に盛り込みましょう。
2. 最小・最大在庫レベルの協議
どれぐらいの在庫をどこでどの単位で持つのかは、工程と現場の連携によって大きく変わります。
例えば「1日分の生産量分」や「安全在庫+2日分」など、バイヤーの工程責任者とサプライヤーの生産計画担当者との細かなすり合わせが必須です。
このプロセスをサボると、思わぬ過剰在庫や欠品リスクにつながります。
現場で求められる用途やタイミングをよく理解した上で適正水準を決めましょう。
3. VMIにおける単価交渉の進め方
VMIはサプライヤー側に在庫管理コストやリスクを移転します。
その分、単価アップを求められるケースも珍しくありません。
この際、サプライヤーが想定している「在庫負担コスト」や「保管スペース代」「運用オペレーションコスト」の実態を十分ヒアリングし、業界ベンチマークと比較しながら交渉するのが理想です。
また、サプライヤーに過剰な在庫負担を押し付けてしまうと、「売り上げが増えても儲からないから供給安定を優先できない」と本末転倒な事態を招きかねません。
信頼関係を築きつつ、お互いの利益バランスが出るような落としどころを粘り強く探る必要があります。
現場目線でのVMI活用事例とその効果
【事例1】部品メーカーと自動車OEMの協業ケース
某大手自動車メーカーでは、主要な樹脂部品のVMIスキームを導入しています。
部品ベンダーは各OEMの工場からリアルタイムで生産実績と消費量情報を受け取り、自動で補充出荷をかけ、構内の指定エリアで在庫を保持。
お客様が実際に該当部品を生産ラインに組み付けた後、初めて請求対象になります。
この結果、
– 工場内の部品在庫量は従来の半分以下に圧縮
– 納品ミスや欠品の発生率も大幅減少
– サプライヤーの物流コストも削減され、単価にも反映
といったメリットが生まれました。
【事例2】電子部品の一括VMIによる多品種少量生産対応
電子機器メーカーの工場では、多品種少量生産に伴う在庫管理負荷が大きな課題でした。
そこで主力電子部品のVMIをベンダー主導で導入し、Webダッシュボードで在庫残や補充量を可視化。
これにより調達担当のルーチン業務が削減され、設計変更にも迅速に対応できる体制が整いました。
VMIを失敗させないための現場のコツと注意点
1. VMI頼みの「丸投げ」運用はNG
ベンダーに在庫管理を任せるとは言っても、「全部任せきり=責任放棄」になってはいけません。
特に工程設計や生産スケジュールに大きな変化が生まれた際には、情報共有と定例レビュー会で常にチューニングが必要です。
2. データ連携の仕組み構築が前提条件
アナログな現場では、納品伝票やExcel台帳への転記ミスが在庫ズレの原因となります。
VMI導入時は、最低限EDI(電子データ交換)やIOTセンサー、自動在庫カウントシステムなど、デジタル連携を構築しましょう。
3. 不良発生時・過剰在庫時の責任区分定義
想定以上の不良品や、突発的なライン停止などによって滞留在庫が発生する場合もあります。
このとき「どちらがどこまでリスクを取るのか」を事前にロードマップ化し、お互い納得の上で進めましょう。
サプライヤーの立場で考えるVMI:バイヤーの考えはこう見抜け!
サプライヤーとしてVMIを持ちかけられた場合、相手バイヤーが何を狙ってこの仕組みを持ち出しているかを見抜くことが重要です。
バイヤー側の思惑は以下の通りです。
– 自社の在庫資産圧縮(決算対策やキャッシュフロー改善)
– 調達部門の負担軽減(組織改革、働き方改革対応)
– 安定調達リスクの回避(調達先からの有利な立場確保)
サプライヤーは、自社にとってもメリットがある条件(納入確約・長期契約・物流効率向上など)があるかを見極め、毅然とした交渉スタンスを持つ必要があります。
まとめ:昭和の慣習を壊してこそ生まれる新しいバリュー
VMIは、工場現場のアナログな在庫管理体制を刷新する大きなチャンスです。
在庫負担をサプライヤーに移転しつつ、バイヤーとして単価交渉も主導権を握るためには、技術的な理解と現場の実態を踏まえた「仕組み作り×丁寧なコミュニケーション」が不可欠です。
業界が抱える昭和型のしがらみや、「うちの業界だけは特別」といった思い込みを捨てて、VMI導入による全体最適を現場で実現しましょう。
この記事が、製造現場・調達担当・サプライヤーそれぞれに新しい視点や実践のヒントをもたらす一助になれば幸いです。
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