台風・豪雨による配送停止が避けられない時代の新課題

台風・豪雨による配送停止が避けられない時代の新課題

はじめに：変化する気象と物流危機

近年、異常気象による台風や豪雨の発生頻度は明らかに増加しています。
その影響は日本全国の産業界に及び、とりわけ製造業にとっては、原材料の調達や製品出荷などの物流活動に甚大な影響をもたらしています。
物流を制するものが製造業を制する――そんな時代に、大雨や台風による「配送停止」が、決して珍しい現象ではなくなりました。
それどころか、今や避けることのできない“新たな日常”として受け止めざるを得ません。

本記事では、昭和型のアナログ業界文化が色濃く残る製造業界において、台風・豪雨により避けられなくなった配送停止問題にどう立ち向かうべきかを、現場経験者の視点から実践的に掘り下げます。

台風・豪雨による配送トラブルの実態

過去の「例外」から「常態」へ

かつて異常気象による配送停止は、稀な例外に過ぎませんでした。
一方、最近は年に何度も「全国規模の配送網マヒ」「特定エリアでの物流完全ストップ」という事態が発生しています。
特に、西日本を中心に集中豪雨や大規模台風の発生が増え、主要高速道路や鉄道の寸断が珍しくなくなりました。

例えば、2023年の夏には記録的な豪雨により、数日間にわたり九州地方へのトラック配送が全面停止となり、西の大手加工メーカーからの納品が全国規模で遅延。
サプライチェーン全体が大混乱に陥りました。
このような事例を、もはや「レアケース」と捉えていては、現場は対応できません。

「想定外」が命取りに：伝統的な見込み生産とリードタイムの崩壊

従来の見込み生産型モデルでは、「発注から納品までのリードタイムが一定」という前提で工場運営がなされていました。
しかし、物流停止リスクが常態化する時代に、その“予定通り”が意味をなさなくなってきています。

これにより、材料不足で工場が稼働停止に追い込まれたり、逆に製品倉庫が製品で溢れ、生産ラインが止まったりするトラブルが頻発しています。
「想定外に強い」現場づくりが、これまで以上に求められているのです。

今こそ必要なアナログ業界の脱皮と新常識

緊急対応の属人化から脱却せよ

昭和世代が築き上げてきた“現場力”は確かに強みです。
しかし、その多くは属人的で、「あの人がいるから何とか回る」という精神論に依存しすぎています。
実際、伸縮性のあるネットワークや多様なBCP（事業継続計画）がない企業では、物流停止が発生した瞬間、誰にも頼ることができず右往左往してしまうことが珍しくありません。

現場力を、仕組みと情報に基づいた「チーム力」へと昇華しなければいけません。
そのためには、マニュアル化やIT活用、担当者同士の情報共有、そしてリアルタイムでの対策立案が不可欠です。

「在庫は絶対悪」という固定観念の見直し

これまでは「在庫を削減するのができる工場」という風潮が支配的でした。
それが現代の製造業の最適解ともてはやされてきましたが、台風・豪雨リスクが当たり前になった今、その常識を見直すべきでしょう。

たとえば「戦略的在庫」の考え方が重要になります。
全ての部品・原材料を一様に絞り込むのではなく、調達先がひとつしかなく代替調達が難しい重要材料については、あえて数日～数週間分の在庫を持つ。
また、「サプライヤー分散調達」により、特定エリアでの災害リスクを分散する。
このようなリスク分散思考と柔軟な在庫運用こそがニューノーマルとなります。

見えてきた新たな課題：バイヤーとサプライヤー双方の視点から

調達バイヤーの“冷静な判断力”と“行動力”が問われる

バイヤーは、単に「安く安定的にものを買う」だけでなく、自社のサプライチェーン全体を見据え、「どこにどんなリスクが潜んでいるのか」を常に把握しておくことが重要です。

地理的リスクの分散はもちろん、【サプライヤーのBCP状況調査】【緊急時の代替調達ルートの確保】【自社在庫政策とのバランス管理】などを能動的に進めていく必要があります。
加えて、部門横断的な「情報の見える化」を推進し、災害時にリアルタイムで正しい判断ができる体制を整えることがカギとなります。

サプライヤーの視点：バイヤーは何を見ているのか？

サプライヤーとしては、「納期遵守率」の高さだけでなく、「有事に自社がどう動くか」が問われる時代です。
納品物が遅れるリスクを最小化するため、事業継続のための複数拠点・ルートを用意する、緊急対策マニュアルを策定・共有するなど、提案型の姿勢が求められます。

バイヤーは、サプライヤーの「危機管理意識」を注意深く観察しています。
「あなたの会社は、何かあったときにどうしてくれるの？」という問いに、誠実に、具体的に答えられるサプライヤーだけが、これからの時代に選ばれ続けるでしょう。

現場対応として求められる3つの実践戦略

1. リアルタイム情報の収集とシェアの徹底

天気予報アプリや物流会社の運行管理システム、また各種SNSや地域の災害情報Webサイトを駆使し、台風・豪雨の速報をリアルタイムに把握する習慣を現場に根付かせましょう。
これにより、事前の材料引き取りや『前倒し出荷』など、柔軟な対応を迅速に図るための意思決定が可能になります。

この「情報感度」を高く保つことが、混乱を最小限に食い止める最大の鍵です。

2. 物流会社・サプライヤーなど外部パートナーとの密な連携

災害リスクは一社単独で解決できません。
取引先の物流会社や協力工場、素材メーカーなどと定期的な情報共有や定期会議を行い、「何か問題があれば即連絡」といったホットライン体制を構築しましょう。

また、台風接近のタイミングでは、「臨時ルート配送」「営業所止め」など緊急時の配送オプションを協議しておくとともに、物理的な障害発生時にも迅速にリカバリーできるパートナーネットワークを拡げておきましょう。

3. 生産・出荷計画の見直しと“しなやかさ”の追求

従来の「固定生産スケジュール」「鉛筆なめなめの手計画」から脱却し、「必要に応じて即座に組み直せるフレキシブルな計画づくり」が重要です。
また、IoTや生産管理システムを活用して、材料在庫や仕掛品の状況を常時見える化し、天候リスクが迫った場合には、現場主導での“計画即修正”が可能な状態を作っておきましょう。