投稿日:2025年6月30日

新FMEA技法の基礎とリスク評価でトラブル未然防止を実現する解析手順

はじめに:製造業におけるFMEAの再定義

製造業の現場では、常に品質・コスト・納期のバランスをとりながら、高度な競争を勝ち抜いていかなければなりません。
その中でも「品質保証」は企業の信用や顧客満足に直結するため、非常に重要なテーマとなっています。

この品質保証の強化策として、今、ふたたび注目されているのがFMEA(Failure Mode and Effect Analysis、故障モード影響解析)です。
とくに近年は「新FMEA」と呼ばれる手法の基礎や実践的な解析手順に関心が高まっています。

本記事では、現場経験をふまえた「使える」FMEAの進め方を、これまで昭和から続くアナログ文化が根強く残る業界の現実も織り交ぜつつ、詳しくわかりやすく解説します。
バイヤー志望の方・現場の改善担当者・サプライヤーの方など幅広く参考になる内容を目指しています。

FMEA技法の基礎知識と従来型の課題

FMEAとは何か?

FMEAは、「どのような故障(失敗)が発生するか」「それが製品や工程にどのような影響を及ぼすか」「そのリスクはどれくらいか」を系統的に洗い出し、優先順位をつけて未然防止策を講じるための手法です。

この手法自体は、1960年代に航空宇宙分野から始まり、1980年代以降、日本でも自動車・電機・食品など多くのメーカーで広まりました。
現在ではIATF16949(自動車産業向け品質マネジメントシステム)など、国際規格でもFMEAの導入が必須となっています。

従来型FMEAの典型的な問題点

現場でよく耳にする従来型FMEAの「課題」は次のようなものです。

– 経験則や勘に頼った形だけのFMEAに終始し、本質的なリスク評価ができていない
– 表の入力や点数付け作業が目的化し、実際の現場改善アクションにはつながらない
– 部署間、階層間のコミュニケーションが希薄で「見せるための帳票」になってしまう
– 古いテンプレートやExcel表のまま運用し続け、本当の意味でPDCAが効かない

この背景には、日本型の「暗黙知」重視や前例踏襲の文化が密接にからんでいます。

FMEAを進化させるためには、「何のためにやるのか」「どのように現場の改善に落とし込むか」という視点が一層重要になってきます。

新FMEA技法:現場で活きる実践的アプローチ

新FMEAの特徴と従来型との違い

近年、IATF16949やAIAG & VDA(米国自動車工業会&ドイツ自動車工業会)の「新ガイドライン」を受け、FMEA技法も変化しつつあります。

新FMEAは、次のような特徴があります。

1. リスク分析のプロセスが階層式(ステップバイステップ)となり、考え方の抜け漏れを減らす
2. 発生・検出・重大度の評価基準がより明確かつ妥当となり、主観に頼りすぎない
3. 逸脱やトラブル事例のデータ蓄積と活用が重視され、”予測できる失敗”を体系的に管理できる

これにより、「形だけ・書式だけ」の従来型から、「現場改善・予防活動」につながる実効的なFMEAへと進化しています。

新FMEAの基本プロセス

新FMEAは大きく6つのステップで進めていきます。

1. プロジェクト定義・システム構造化
2. 機能分析(Function Analysis)
3. 故障モード分析(Failure Mode Analysis)
4. リスク評価(Severity, Occurrence, Detectionの評価)
5. 改善アクション(現場改善・予防策の立案&実施)
6. 結果の見直しと標準化、次期活動への活用

システム全体の”構造”→”機能”→”不具合の出方”→”リスクの大きさ”という流れを辿ることで、勘や思い込みによる漏れを防ぎます。
また、その全てが「現場アクション」につながる形に設計されています。

リスク評価の本質:リスク優先数(RPN)の進化と使いこなし

RPN評価からAP(Action Priority)活用へ

従来のFMEAではRPN(Risk Priority Number)=重大度×発生頻度×検出可能性 という単純な積でリスクの優先順位を決めていました。
しかし、実際の現場ではこの算出根拠が曖昧だったり、”検出可能性”の評価が恣意的になるなど、意思決定の基準がバラバラになりがちでした。

新FMEAでは、AP(アクションプライオリティ:是正優先度)という指標を軸に、「何を優先して対策すべきか」を明確に判断できます。

APではRPN値が同じ案件でも、重大度が高ければまず対策すべきである、といった業界実態に沿った優先付けができる点が特長です。

現場データに基づくリスク評価の勘所

アナログ文化が色濃い工場の現場においても、”カンコツ”や伝承知(ベテランの経験談)を定量データに言語化してテーブルに落とし込むことが重要です。

– 社内外で実際に発生した不良・トラブル事例のデータ化
– ヒヤリハット、未然防止例、予兆管理の仕組化
– 工程監査やロット保証での逸脱例の体系化

これらを集約して、APの判断材料とすることが「絵に描いた餅で終わらせない」ためのカギとなります。

工場現場での新FMEA導入ステップ

現場巻き込み型ワークショップとストーリーテリング

新FMEAを形骸化させずに機能させるポイントは、「現場のナレッジ」を最大限活かすことです。

そのために、
– 多部署横断型のFMEAチーム(調達・生産・品質・設計)
– 実際に起きた”ヒヤリ体験”のストーリーテリング
– ワークショップ形式によるブレーンストーミング

これらを仕組みとして組み込むことで、机上の理論ではなく、リアルなヒヤリ体験や連鎖的トラブルがあぶり出されます。

デジタルツールの活用

近年はFMEA専用システムやSaaS型プラットフォームの充実も目立ちます。
アナログなExcel運用から脱却し、クラウド化やAIによるデータ分析、リアルタイムなチーム共有を進めることも生産性・品質改善への近道となります。

– 複数部門で画面を共有し、リアルタイムでリスク分析が可能
– 既存トラブルデータと連動し、抜けや重複リスクも自動検出
– 改善履歴やアクション管理の見える化

こうしたデジタル活用が、人的ミスや伝達漏れの防止にも大変有効です。

サプライチェーン・調達購買とFMEAの連動性

グローバル調達とサプライヤー評価における新FMEAの意義

品質リスクは自社工場だけでなく、調達先のサプライヤーでも発生します。
とくにグローバル調達が一般化した今、調達購買がFMEA視点でも主導的にリスク評価を行うことが求められます。

– 重大度・発生度・検出度の観点から、納入品・外注先工程のFMEAを相互確認
– 取引先のトラブル事例や他社の失敗データも、自社FMEAに反映
– 調達価格のみならず、品質リスクも加味した「トータルコスト」の見える化

これができていない場合、「安さだけで選んだ部品や工程」が、後々大きな品質クレーム・納期遅延・ブランド失墜リスクとなって跳ね返ることになります。

サプライヤーとバイヤーの信頼関係構築

新FMEAを双方で共有し、定期レビューを行うことで、サプライヤー側も「現場の潜在リスク」に能動的に対応できるようになります。
「どうせバイヤー側の都合だろう」という閉塞感を打破し、「一緒に高品質を作る」パートナー意識の醸成が実現します。

まとめ:予防的品質保証の文化を育てる

新FMEA技法は、単なる帳票作成ツールではなく、「未然防止型の現場改善プロセス」に進化しています。

– 形だけで終わらせない
– 経験とデータの融合で抜け漏れゼロを目指す
– 多部門・グローバルを巻き込んだ改善サイクルの構築
– サプライヤー・バイヤー問わず、全員が真の品質リーダーになる文化醸成

製造業の根底を流れる「現場力」と「継続的な改善」の精神。この2つをつなぐ架け橋が、新しいFMEAなのです。

これからバイヤーを目指す方、現場主導の品質管理に自信を持ちたい方、サプライヤー側としてバイヤーの本音を知りたい方――どなたにも「今ここから始められる」実践的なFMEA活用を提案します。

本記事が皆様の現場力向上と、ものづくり日本再生の一助になれば幸いです。

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