投稿日:2025年12月3日

動作確認で“再現性のない不具合”が発生する悪夢

はじめに:製造現場を襲う“再現性のない不具合”という悪夢

工場の生産現場や製品開発プロセスに携わる方であれば、一度は体験したことがあるであろう「動作確認時の再現性のない不具合」という現象。
正常に動作していた装置や部品が、ある瞬間だけ不調を示し、その後どれだけ検証しても現象が再現しない。
これほど現場を悩ませ、精神的にも消耗させる問題は珍しくありません。

私自身、20年以上現場に身を置いてきた中で何度もこの“悪夢”を体験してきました。
この記事では、再現できない不具合の現象を深堀りし、なぜ昭和から続くアナログな体質の現場では今でも多発するのか、その根本的な背景と、現場目線でどのように対応・予防していけばよいかを考察します。
バイヤー視点・サプライヤー視点の違いにも触れ、読者の皆様に実践的なアクションを提案します。

再現性のない不具合が発生する現場の“あるある”

現場では「一度起きたが二度と出ない現象」が最も厄介

「朝一のロットだけ不良が多発したのに、午後以降は一切問題が出ない」
「検査工程ではパスした製品が、顧客先では一部だけ誤作動」
こうしたトラブルは決して稀なものではありません。

徹底的に条件を揃え、全社横断的に分析を進めても、肝心な時に現象が再現しない。
そのため、原因の特定ができず、対策も打てない。
結果として、次なるクレームや深刻な品質トラブルにつながるリスクが残り続けます。

自動化やDX時代でも再現性の壁は厚い

近年はIoTやAIが製造現場を支える時代となっています。
ログデータの収集やトレーサビリティの強化が著しく進み、以前より再現性のある不具合の解析は格段に進化しました。
ですが、なぜか未だに「どうしても一度きりしか現れない謎の不良」が現場の人々を悩ませています。

その背景には、ヒューマンエラーや設計ミス、複数要因の複雑な絡み合いがあります。
データに現れない「運用実態」や、現場特有の“暗黙知”に依存した作業が依然として根強く残っているため、完全な自動モニタリングだけではフォローしきれない実情があるのです。

昭和的アナログ体質が「再現性のない不具合」を生みやすい理由

帳票文化・暗黙知の依存が障壁に

長年続く昭和型の現場では、紙の帳票やパート作業者による目視チェック、熟練工の勘に頼った品質管理が依然として主流です。
これは「暗黙知」と呼ばれる現場ノウハウに強く依存した体制であり、現象を再現し数値で管理する、という現代のQC(品質管理)の基本から外れてしまいがちです。

例えば「あの部品は今朝は冷えていた」「組み立ての順序が一部変わった」「検査員がいつもと違う動きをした」など、帳票には現れない小さな変化が不具合を引き起こしています。
こうした背景まで深掘りして記録・データ化する文化が根付いていないため、現象の“トレース”が難しいのです。

“成功体験”に縛られた現象の見落とし

もうひとつ大きな要因が「成功体験への過度な依存」です。
「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫だろう」
「数年に一度しか出ないから仕方ない」
といった意識が現場に蔓延し、想定外への備えを怠りやすくなります。

また、管理職や設計部門が現地現物を直視せず、現象の本質を追い切れない風土も要注意です。
昭和的な階層組織の“壁”が、情報の見逃しやフィードバックの遅延を招く要因になりやすいのです。

再現性のない不具合に苦しむ現場を救うアプローチ

多角的な“現場ヒアリング”と現地現物の徹底

現象の再現が難しい場合は、一人の意見や一箇所の観察から全体像を類推するのではなく、複数の視点からの“多重ヒアリング”が重要です。
検査員、ライン作業者、生産技術者、物流担当者など、多様な立場の証言を引き出し、目撃情報や周辺環境まで“横断的に”洗い出していくことがカギです。

また「現地現物」の徹底。
現場に足を運び、実際に現象が起きた現物を直接確認することで、帳票やデータだけでは見えなかった微細な違いに気付くことがあります。
このアナログ的かつ原理主義的なアプローチこそ、再現性のない不具合と向き合う原点です。

条件再現のための“仮説立案フレームワーク”

現象の再現に苦しんだ際には、バラバラな情報を一つにまとめる“仮説立案フレームワーク”が必要です。

1.「いつ」「どこで」「誰が」「どの作業で」「どの設備で」
2.「何が」「どのような状況で」「どの程度の頻度で」発生したか整理する
3. 時間帯や気温、部材ロットや工具の状態などあらゆる“周辺要素”を列挙する
4. 顕在化した事象だけではなく、普段と異なる「前兆」や「違和感」にも着目する

このプロセスを繰り返し回すことで、隠れていた再現条件が徐々に絞り込まれていきます。
経験上、「あとほんの一歩」で発見が訪れることが多いです。

バイヤー・サプライヤー双方の視点から考える“再現性なき不具合”への対応

バイヤーの立場から考えるリスクと期待

バイヤーは供給される製品に「品質の安定」を強く求めます。
再現性のない不具合は「管理不能なサプライヤー」とみなされ、二度三度と同様の現象が起きれば取引停止や大規模なリコールにつながるリスクもはらんでいます。

よって、バイヤーとしては透明性の高いコミュニケーションと継続的な状況報告、発生時の原因究明に向けたPDCAサイクル、リスクの共有が何より重要視されます。
「曖昧な説明」「その場しのぎの回答」は最も信頼を損なうので、極力避けるべき行動です。

サプライヤーとして「できること」「求められること」

サプライヤーの立場では、再現性のない不具合発生時には次のような基本姿勢が求められます。

– 発生事実を早期に報告し、「再現しないが実際に起きた」ことを率直に伝える
– 可能な限り現象のメカニズムを“仮説として”整理し、進捗の都度共有する
– バイヤー現場での作業条件や環境も積極的にヒアリングし、自社での見過ごしポイントを洗い出す
– 一時的な品質保証(全数検査や追加出荷前検証)の実施を検討し、顧客リスクをできる限りゼロに近づける

事例を共有しつつ、同じ現象の未然防止策を再発防止案として積極的に提案していくことも、今後の信頼構築につながります。

“昭和体質”を抜け出す業界全体の意識改革のために

製造業界全体を見ると、AIやDXの文脈で先進的な改善活動が語られる一方、まだまだ“個人技”や“場当たり対応”によるリスク管理が根強く残っています。
技術の進化に加え、“プロセス自体を疑い直す”ラテラル思考がこれからより強く求められていくでしょう。

– 「今までこうだった」から「なぜ、どうすれば防げるか」への発想転換
– 改善活動を現場の声からボトムアップで生み出し、全社で水平展開する意識
– 一人ひとりが“品質リーダー”として自分ごと化する文化

こうしたマインドセットが現場レベルから組織全体へと波及し、「一度しか出ない不具合」から「二度と出ない安定品質」へとつながっていくのです。

おわりに:悩み、もがきながら“真因”を探す現場の価値

動作確認で再現性のない不具合が発生した時、現場担当者の心労や焦りは想像を絶するものがあります。
ただし、「実際に現場で起きている現象に絶対はない」「人の感覚や勘に頼りすぎず、プロセスと現物に徹底的に向き合う」という姿勢こそが日本の製造業の“底力”でもあります。

“再現性のない不具合”は、言い換えればイノベーションや改善の起点です。
現場での泥臭い探索と、バイヤー・サプライヤーの対等な連携。
この積み上げの先にこそ、真の品質保証と現場の進化があることを信じています。

今一度、ご自身の職場の現場を見直してみてください。
小さな変化を見逃さず、再現できない現象に対しても粘り強く、時に業界の常識さえも疑う勇気を持ちましょう。
それが“再現性のない不具合”という悪夢から抜け出し、より強い現場を作る第一歩になるはずです。

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